「激レア地上波吹替版」素材はこうして発掘&修復! 担当プロデューサーが明かすその舞台裏とは!?(BS10 スターチャンネル『映画は死なず!「激レア地上波吹替版」を観る。掘る。もっと。』)

映画は死なず
コロナ禍でハリウッド新作の供給が停滞した状況にあっても“映画は死なない!”という強い思いを掲げ、改めて旧作にスポットを当てる長期編成企画「映画は死なず!」が、BS10 スターチャンネルにて、昨年2020年12月から絶賛展開中です。「激レア映画」「香港映画」「日本VS世界のホラー」「アジアン・バイオレンス」といった数々のテーマの中でも、広報担当者いわく「最も加入者増につながった」のは、4月に特集された「吹替」。1975年のテレビ東京での初放送版を含む4バージョンの『OK牧場の決斗』が吹替ファンの大きな注目を集めた同特集が、さらにスケールアップして4ヵ月連続の「激レア地上波吹替版」特集として帰ってきました!
 
先日掲載した特集ラインナップ(放送予定はこちらから)に続き、今回は『映画は死なず「激レア地上波吹替版」を観る。掘る。もっと。』の放送素材制作を担当するスター・チャンネルの制作プロデューサー・上原行成さんにインタビューを敢行。ラインナップはいかにして決まったのか? 激レア音源はどのように発掘・復元されたのか?──「激レア地上波吹替版」特集の舞台裏をお伺いしました!
 
 
──今日はよろしくお願いします。最初に上原プロデューサーの担当されている内容を教えてください。
 
上原行成さん(以下:上原):スターチャンネルで放送する素材にまつわる一切合切を、1人で担当しています。プロデューサーというと聞こえはいいですが、放送権を取得した作品にどういう素材があるのかというライセンサー(権利元)への確認から、素材のオーダー、受け取ってからの制作現場への指示、新規で翻訳から作る場合は字幕や台本のチェック、アフレコの立ち合いまでやっています。
 
──え? おひとりでそこまで!? かなりの本数を放送されていますよね?
 
上原:そうですね。皆さんにそう言われますが、なんとかやっています(笑)。
 
──好評を博した「吹替」特集がスケールアップして帰ってきましたが、今回のラインナップはどのように決定されたのでしょうか?
 
上原:「この作品を放送したい!」という熱い想いで、作品の放送権を獲得していきました!……と答えられると裏話としては美しいのですが、実はそうではなく(苦笑)、すでに権利を取得して私たちで放送できる作品の中で、過去に地上波で吹替放送されたことがあるものをピックアップして、しかもその吹替版がソフトには収録されていないものが理想ですが、その音源が残っていないかと探して集めていった形になります。
 
──発見・発掘された素材は、どういうもの(メディア)なのでしょうか?
 
上原:一番多いのはシネテープです。シネテープは、音声を記録する磁気テープですね。当時は16mmフィルムやインチ(1インチVTR)に記録された映像とシネテープの音を同時に出して、画と音をシンクロさせて放送するやり方だったと思います。
映画は死なず
 古くて状態の悪いシネテープは、表面が波打ったり縁のあたりが反り返ってしまっていて、そのまま使えない場合はなんとか修復できないかという話になります。今回で言うと、12月に放送される『エマニエル夫人』三部作の3作目『さよならエマニエル夫人』の音源がそういう状態で、「このままでは音声を使用できない」と現場の担当者から言われました。それで修復を依頼し、最終的にはなんとか復元できたという次第です。
映画は死なず


激レア地上波吹替版12/15(水)午後1:10~、20(月)深夜12:50~、30(木)深夜2:30~
さよならエマニエル夫人[テレビ東京「木曜洋画劇場」版]
声の出演:上田みゆき、羽佐間道夫、翆準子、納谷六朗、宮川洋一
【ソフト未収録】


──デジタルで取り込んで、音声を修正していくのでしょうか?
 
上原:それ以前の工程がありまして、経年劣化による材質の変化があるんでしょうね、テープがベタついているんです。専用のクリーナーを布に染み込ませて、手作業で汚れを拭き取っていきます。それが終わっても、テープが波打ったり反り返っていたりすると、再生機のヘッドにちゃんとテープが当たらなくて音が再生されません。正しく再生されるヘッドの角度をその箇所その箇所で探って、当たる位置を調整して音を拾い、その全部の音をつなぎ合わせていきました。
 
──それはすごい手作業ですね……。
 
上原:実際に作業したのは現場の担当者ですが、そうやって全編の音をつなぎ合わせていったそうです。同じ制作側ながら、よく修復できるものだと驚きますし、任せておけば安心だと頼もしいです。
 
──発掘してきた作品では、VHSでしかソフト化されていないもの、さらには1月放送の『海辺のホテルにて』のように、ソフト化自体されていないものもありますね。そうした作品は放送用のHD素材には、どう仕上げていくんですか?
 
上原:映像自体は、ライセンサーが持っているHD素材を新たに取り寄せて使います。ですから過去4:3で放送されたものも、オリジナルがワイドの画面サイズであればその形になります。
 
 その映像に発掘した音声を乗せていくのですが、「地上波吹替版」ですから、本編は2時間枠の洋画劇場にあわせてカットされているものがほとんどなんですね。ブルーレイやDVDでは、本編がノーカットで、吹替音声がない部分は字幕に切り替わるものが多いですが、あれも善し悪しで、吹替ファンの方にとっては興ざめする部分でもあるのかと思います。もちろん「映画としてノーカットで観たい」というニーズがあるのも分かりますが、過去の地上波ではカットされた上で実際に放送されたわけじゃないですか。当時の方はそれで破綻なく観ていらっしゃって、ひとつの番組として成立しているわけですよね。
 
 スターチャンネルは「ハリウッドの新作をいち早く観られるプレミアム・チャンネル」というブランディングもありましたから、吹替版の放送においても「ノーカット版」を前提としていたところがあるんですが、これはあくまでも社内的な話です。ニーズのあるコンテンツとして「地上波放送版」をフィーチャーしたいと考え、この前提にはこだわらないことにしました。あくまでも観ている方が違和感を持たないように、映像も音源に合わせてカットして、「地上波吹替版」仕様に編集します。
 
 もう少し新しいメディアのD2やデジベ(デジタルベータカム)に収録されている素材なら、CMブレイクのところで黒味が入ってロール分けされていて、映像と音も同時に確認できますから、それを参考に吹替えのない本編箇所をカットしていけばいいんですが、シネテープの場合は音だけ、それも吹替えの音源ですから、放送時にオリジナル版からカットされたポイントがどこなのかを特定するのがなかなか難しいんです。セリフのやりとりを聞いて見当を付けるんですが、現場からは手こずると言われますね。
 
 タイミング等を記したキューシートやジョブシートが残っていればいいんですが、それがないものは音声だけを頼りにカットされている箇所を探していかなくてはいけません。シーンごとのカットならまだいいのですが、ロール1、ロール2、3という大きなブロックの中で、微妙にたくさん抜いてある、かなり細切れにして構成されている作品もあるんです。
 
──今回のラインナップで、その苦労があった作品はなんですか?
 
上原:『ビッグ・アメリカン』と『続エマニエル夫人』ですね。前者は13ヵ所、後者は18ヵ所も編集されているポイントがありました。『エマニエル夫人』は三部作ですから、3本揃って放送できなくなるのは悔しくて、先程話した『さよならエマニエル夫人』の修復ともあわせて、無事に素材を完成させることができて本当によかったと思っています。


激レア地上波吹替版12/13(月)昼1時~、25(土)朝6:10~、29(水)夜11時~
ビッグ・アメリカン[テレビ朝日「ウィークエンド・シアター」版]
声の出演:小林勝彦、北村弘一、小野洋子、大久保正信、山口健
【ソフト未収録】


激レア地上波吹替版12/14(火)午後2:30~、19(日)深夜12:40~、30(木)深夜12:50~
続エマニエル夫人[テレビ東京「火曜映画劇場」版]
声の出演:小原乃梨子、羽佐間道夫、藤田淑子、鷲尾真知子、井上真樹夫
【ソフト未収録】


 
──発表されているラインナップでは、1月放送の『それ行けスマート/0086笑いの番号』が吹替ファンの注目を集めていますね。VHSでしかソフト化されていない作品です。
 
上原:私自身は強烈な吹替フリークというわけではなくて、ソフトに収録されていなかったり、地上波で放送されたきりで、それこそ何十年もテレビでは観る機会がないという作品を視聴者に提示して、喜んでいただくことに主眼を置いてやっているんですね。ですから逆に皆さんから反応をいただいて、「こういう作品に注目してくださるんだ」と楽しませていただいていますね。
 
 『それ行けスマート』はメル・ブルックスが60年代に脚本を手掛けたTVシリーズを1980年に映画化した作品で、色んなギャグや小ネタの応酬があるドタバタ・コメディです。私は今回のライセンスで初めて観たんですが……声を出して笑っちゃいました。主人公の吹替えをコメディアンの小松政夫さんが担当していらっしゃって、それがまたいい感じのおとぼけっぷりなんですね。アドリブで有名な広川太一郎さんのテイストに近いと感じる部分もあって、かなり面白いと思います。字幕で観ても面白いのに、それを日本語の調子でセリフとして聞くとさらに違った面白さがあって、これは本当におススメしたい作品ですね。
 
 イーデスさんという女性が出てくるんですが、「イーデスって呼んでいーですか?」って、本当にくだらない冗談を言ったりしていますよ(笑)。
 
──(爆笑)
 
上原:原音では、そんなことは絶対言ってないはずなんですけどね(笑)。小松さんが言ってるんだなと思うと余計に面白いです。


激レア地上波吹替版1/2(日)午後3:50~、12(水)夜11時~、15(土)朝6:10~
それ行けスマート/0086笑いの番号[テレビ朝日「日曜洋画劇場」版]
声の出演:小松政夫、小宮和枝、沢田敏子、富田耕生、戸田恵子、青野武、羽佐間道夫
【ソフト未収録】


 
 あと、この作品は元々94分という短尺なんですね。ですから地上波吹替版も全編分作られていて、ノーカットで放送します。同じ1月の『プライベイトスクール』も90分ですから、同じくノーカット放送です。
 
 放送する側の私も改めて感じているんですが、古い吹替版って今のものにはない“味”がありますね。スターチャンネルが日本初放送となるドラマ作品の吹替えを一から作ることにも関わっていますが、現在の吹替え現場では、なかなかあの昔の吹替えの雰囲気は出せないな、その違いはいったい何なんだろう?と考えてしまいますね。


激レア地上波吹替版1/3(月)午後3:20~、11(火)夜11:10~、26(水)深夜1:30~
プライベイトスクール[フジテレビ「ゴールデン洋画劇場」版]
声の出演:堀江美都子、神谷明、平野文、沢田敏子
【ソフト未収録】


 
──今は本国のチェックもありますし、画質が上がって大画面になっただけ口の動きもハッキリ見えますから、セリフの自由度が以前と比べて少なくなっているのが大きいというお話もありますね。
 
上原:確かに日本語のセリフ回しというのは、ひとつはあると思いますね。それに加えて、声優さんのしゃべり方がそもそも違う気がします。今の方が学校でしっかりと訓練をされて技術が高いのはもちろんなのですが、昔の方は自分の身体に染みついた呼吸だったりノリだったりがダイレクトに出ている印象があるんですね。その方がどうもリアルというか生々しいというか。
 
 いまは細かく録り直しができますが、当時は間違ったら、下手をすれば最初から全員でやり直さないといけなかったわけです。そういう一発勝負の緊張感が熱として作品自体に宿っているとか、少々トチってもノリが良かったからそのままOKになってしまったとか、それはやっぱり視聴者に伝わると思いますね。そういう意味で、昔の地上波吹替版にあまり馴染みがない若い方にも、今回の放送で、当時の息吹や生々しさを感じていただけたらと思います。温故知新ではないですが、今のものと比較してもらえると、何か発見があるんじゃないかなと思います。それが古い地上波吹替版をもう一度放送する意義かなと考えています。
 
──最後に吹替ファンに向けてのメッセージをお願いします。
 
上原:ユーザーの反応やニーズを知りたくて、5ちゃんねる(旧2ちゃんねる)の吹替え関連のスレッドを時々覗くのですが、「吹替ファン集まれ~!」なんてもう200スレッドに届きそうなくらい進んでいますよね。吹替ファンの中でも一握りの方とは思いますが、もう20年くらい、脈々と熱い書き込みをされてきているんですよね。とにかく情報量の蓄積が半端じゃない。
 
 自分にも凝り性な一面はありますけど、ひとつの分野をここまでずっと掘り下げている皆さんは本当にすごいと思います。尊敬します。そういった方々の琴線に、今回の「激レア地上波吹替版」特集のラインナップが少しでも触れれば幸いです。4ヵ月続きますし、今後もラインナップを発表していきますので、またスレッドを読みに行ったときに、「スターチャンネルで〇〇を放送するらしいよ」と話題にしていただけていると嬉しいですね(笑)。
 
 

(取材・構成:村上健一)

 
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