『きっと、うまくいく』吹替え収録現場レポート!

きっと、うまくいく

去る2015年12月5日・6日・7日、音響制作会社ハーフ・エイチ・ピーのスタジオで、インド映画歴代興行収入1位(2009年の公開時)を記録した大ヒット映画『きっと、うまくいく』の吹替えが収録されました。実はこの作品、現在日本で発売されているソフトは字幕のみです。「ふきカエル大作戦」のレギュラー執筆者でもあるダークボ氏のコラムでも紹介されていますが、2015年の大晦日12月31日深夜0時45分より、BSジャパン『新春シネマスペシャル』放送のために、豪華声優キャストで特別に制作された吹替版なのです。

2016年4月1日(金)夜6:40~再放送決定!⇒ 番組HP

本編2時間51分、ノーカット放送のため、吹替えの収録も3日に分けての長丁場です。初日、2日目は本編をおおまかに二つに分けて収録してゆきます。通常は、映画の頭から順番に収録してゆくのですが、この作品では複雑な方法が取られました。
スケジュールの関係で、学長役の玄田哲章さんは初日の午前中と3日目の参加、主演のランチョー役の平田広明さんは、2日目は午後から参加。忙しい声優の方は、他の仕事と調整をしながらの参加となるため、収録にも工夫がなされます。まず、全員が揃う初日に、玄田さんが声を担当する学長の出演シーンから収録スタート。玄田さんが抜けた後は、残った方で収録し、学長の台詞があってもスルーして進めます。2日目は玄田さんは参加せず、ランチョー役の平田さんも午後からなので、学長とランチョーの台詞はスルーで、冒頭の場面、ランチョーの入寮シーンなどを収録。ここはランチョーの台詞が少ないので、平田さんがいない2日目の午前中に収録スケジュールが組まれたわけです。
平田さんが参加されてからは、ランチョーの台詞が多いシーンの収録となり、最後に午前中に収録されたシーンのランチョーを収録。2日目の終了時点で、学長の台詞を残してすべて完了です。
3日目は、玄田さんのみ参加で、単独で学長の台詞を完了。各人の参加スケジュールに合わせて収録するシーンを組み直し、一部の方は後で収録して全編を完成させるという、複雑なジグソーパズルに挑むかのごとき、アクロバティックな吹替収録でした。

収録後、『きっと、うまくいく』に参加された声優・スタッフの方々にお話しを伺いました!

平田広明さん(ランチョー役)
この作品で、ランチョーという主人公の声を演じさせていただきました。まず、台本をチェックした時、目頭が熱くなりました。次に映画を通して観たときも涙がこみ上げてきて、「これはいい映画だなぁ」と感動しました。若い役なので体力も使いましたが、収録はとにかく楽しかったです。ストーリーも明るいですし、そんな中に悲劇もありつつ、全体的には非常に爽やかな映画です。ぜひ吹替えで楽しんでください!

高木渉さん(ファルハーン役)
ファルハーンはエリート学校に入れてもらいながら、本当は自分の好きな道に進みたいことを言い出せない人間味のあるキャラクターです。物語の進行役でもあるのですが、この映画は伏線や構成もしっかり練られていて、吹き替えしながらとても楽しくやり甲斐のある作品でした。命の尊さや学生時代からの友情あり、笑いと涙が盛りだくさんのエンターテイメント性の高い作品です。ファルハーンが父親と向き合うシーンはみどころのひとつですかね。声優陣も個性的な人たちばかりですから(笑)、キャラクター同士の掛け合いも楽しんでいただきたいです。

川田紳司さん(ラージュー役)
今回演じさせていただいたラージューは、大学では落ちこぼれの役です。実は頭脳明晰なんですけど、精神的に弱い面があるため自分に自信がなく、神頼みばかりしている青年です。自分に自信が持てなかった彼が、ランチョーと出会い、様々なことを学び人として成長していくわけです。この役を演じるにあたり、まず台本の分厚さに恐怖を抱きました(笑)。インド映画は踊りのシーンがあるはずなのに、この厚さはなんだ?って(笑)。ですが、いざこの映画を観始めたときは泣かされました。感情があふれてくるシーンに、コミカルな場面など、様々な要素が盛り込まれているにもかかわらず、演じている側として良い満足感を得られました。声優の立場として注目してほしい場面は、ラージューが最後に勇気を振り絞って企業の面接に臨むところです。彼が新しい生き方を手に入れるあの場面では、向こうの俳優の演技を丁寧に追って演じました。

玄田哲章さん(ヴィールー学長役)
私が演じたヴィールーの俳優さんは、巧みな演技と強いキャラクターを持っていて、非常に面白い俳優だと思います。ヴィールーは学生にとって敵みたいな存在で、「人生は競争だ」という価値観を信じてやまない、そういった一貫した自信が彼の中にあるんですよ。彼は自分の生き方は正しいと信じていて、それに立ち向う学生との衝突と絡み合いが、実に上手く表現されています。青春の甘さ、ほろ苦さや経験を思い出させてくれるような映画だと思いますね。ちょうど疲れた頃に、歌や踊りが挟まれていて、長いけどしっかり作られています。是非観てほしいですね。

井上喜久子さん(ピア役)
私が演じたピアという女性は、純粋でまっすぐでありながらちょっと不器用な人です。医者を目指していて、次第に主人公ランチョーに心引かれていくんですね。まず、こんなに素晴らしい作品に出会えて幸せだと感じました。色々な面白さが波のように押し寄せてくるようでした。笑ったり泣いたりを繰り返して、後半は感動で胸がいっぱいになりました。特に注目していただきたいところは、大学の学長である父に逆らうことなく生きてきたピアが、気持ちをあらわにするシーンです。彼女の気持ちを思い切りマイクにぶつけました。

水島裕さん(チャトル役)
チャトルはヒンディー語が苦手というキャラクターです。観ている方にそれが伝わりやすいように、訛ってしゃべることをポイントにしました。映画の中で、彼は憎まれ役なんですが、演じている俳優が可愛げのある人で、表情豊かな面などを楽しみながら演じさせていただきました。ヒンディー語が苦手で皆とまだ溶け込めていない青年時代の彼と、社会人として成長した大人時代との彼との違いが出るように演じわけましたので、ぜひ聴いていただければと思います。

石塚理恵さん(モナ役)
ピアの姉のモナの声を演じました。上映時間が長い映画なのに、その長さをまったく感じさせない作品です。本当に構成が上手いなと思いました。楽しいシーンからいきなりシリアスなシーンに移り、かと思えばその後は感動的な場面になって、ジェットコースターのような緩急があって面白い映画です。踊るシーンも楽しく観ました。大晦日の深夜に放送されるのですが、ぜひこの作品を観て幸せな気持ちになって、新年を迎えていただけたらと思います。

高橋剛さん(演出)
実は、以前にもインド映画を扱ったことがありまして、「地獄曼陀羅 アシュラ」という作品です。インド映画といえば、歌と踊りが多いのですが、今回の映画は歌があまり無くて、普通の映画に印象が近いですね。それで台本が分厚いわけですが(笑)。学長の家におしっこをかけるシーンは見せ場のひとつなんですが、声優の皆さんが台本を読んでも、最初は意味が分からなかったみたいです。「こうだよ」って説明したら「ああ、なるほど!」と現場が盛上りました(笑)。字幕では表現しきれないところを、吹替えで存分に表現しましたので、それを楽しんでいただきたいです。水島さんの訛りは吹替えでなければ伝えることが出来ない要素ですし、ぜひ吹替版ならではの醍醐味を堪能してください。

田尾友美さん(翻訳)
ヒンディー語の映画を翻訳するのは今回が初めてでした。英語の台本もいただいていたのですが、それは殆ど骨組みしかなかったので、肉付けと創作をやりました。監修の方にもついていただいて、人の名前の読み方や背景となる文化まで教えていただきましたが、インドならではの言葉遊びが多くて、翻訳作業には苦労しました。ラージューの面接のシーンと、ファルハーンが父親と向き合うシーンは何度見てもぐっときます。日本語の吹替えがついたことで、ますます好きになりました。早くオンエアが観たいです(笑)。

BSジャパン 新春シネマスペシャル
『きっと、うまくいく』【新規吹き替え版!】
2016年4月1日(金) 夜6時40分放送
番組ホームページ
声の出演:平田広明、高木渉、川田紳司、玄田哲章、井上喜久子、水島裕、石塚理恵、中村章吾、土田大、塾一久、水野ゆふ、吉野貴宏、さかき孝輔、堀越富三郎、岡哲也、樫井笙人、魚建、丸山壮史、有賀由樹子、祐仙勇、野首南帆子

放送終了:2015年12月31日(木) 深夜0時45分放送
番組ホームページ