アンソニーの吹替え事件ファイル

第4回『ロボコップ』vs『ヒドゥン』の隠された対決

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今回は、「日曜洋画劇場」の中でも何回も放送され、高視聴率に大きく貢献したSFアクションの2作品の隠されたエピソードである。『ロボコップ』(1987)は誰でも知っている大ヒット作であるが、『ヒドゥン』(1987)については、認知度に欠けるかもしれない。アメリカLAで連続凶悪殺人事件が発生。市警の刑事の前に現れたFBI捜査官。彼は一連の事件はすべて平凡な一般人の体に入り込んだ異星のエイリアンによるものであり、その生物は次から次へと別の体に乗り移ることがわかる。一般人、ダンサー、同僚刑事、そして政治家までに乗り換えたエイリアンを追いかける2人!
当時のテレビ朝日映画部の購入作業から日本語版放送に至るまでこの2作品かなり因縁めいた関連があったのだ。

①映画祭グランプリ対決
まず、最初の対決は当時開催されていたアボリアッツ国際ファンタスティック映画祭。1973~1993年まで毎年1月にフランスのスキーリゾート:アボリアッツで開催される、ファンタジー、SF、オカルト、サスペンス、ホラー等に特化した映画祭である。歴代のグランプリ作品は、主なものでも『激突!』『ファントム・オブ・パラダイス』『キャリー』『エレファント・マン』『マッドマックス2』『ターミネーター』『ブルーベルベット』と名作揃い。1988年当時、ある筋からこの映画祭の特番を作ってみないかと言われ、情報も得られるということから、制作スタッフを送った私は、当然のように本命視されていた『ロボコップ』がグランプリを取るものと思っていた。ところが、現地入りのスタッフから全くマークしていなかった大穴の『ヒドゥン』という作品がグランプリを取った、という仰天ニュースが入って来た!居ても立っても居られないとはこのことで、どうすればいち早く試写して放送権を獲得できるか、と焦っていたところ、1988年LAで開催されるマーケットのAFMで出品される情報が入り、私は参加、念願の試写に漕ぎ着け、冒頭からのアクションの見せ場連続のまるで『ボディスナッチャー』+『ターミネーター』の様なストーリー展開と緊迫感、エンタメ性に圧倒される。どうやら日本の劇場配給権とテレビ権はジョイパックフィルム(現ヒューマックスピクチャーズ)が買っているとのことで、交渉を進め無事テレビ朝日が放送権獲得に至った。

②日本語版対決
『ヒドゥン』主演のカイル・マクラクランには松橋登、相手役のマイケル・ヌーリーには田中秀幸、加えて池田勝、筈見純、嶋俊介、江原正士、納谷六朗、大塚芳忠、千田光男等、豪華キャスト。松橋登は『ラストエンペラー』の主役ジョン・ローン同様の好演!
一方、『ロボコップ』は主演のピーター・ウェラーに磯部勉、ナンシー・アレンに小宮和枝、敵役に田中信夫、そのボスに中村正、加えて富山敬、納谷悟朗とこれも強力な布陣!
因みにたまたま、同日に完成試写をした淀川長治氏は『ヒドゥン』の方が良かったと言っていたのが記憶に残っている。どちらかというとやはりスーパーヒーローものよりも、サスペンス性が好みのようだった。

③視聴率対決
1990年4月1日に放送された『ロボコップ』は、事前に実際のロボコップスーツを借りてPR活動を展開、週刊テレビジョンの表紙にも取り上げられた効果もあり、28.0%と番組史上第7位の記録的な高視聴率を獲得!2回目も20.0%と大成功。
一方の『ヒドゥン』は1990年4月22日に放送、裏のプロ野球巨人戦が延長され24分かぶったこともあり、19.8%と20%に及ばず。ただ映画業界からは『ヒドゥン』のような認知度の低い作品をゴールデン、しかも4月に放送するなんて、しかもそれで20%近く取れるとは!という賞賛をいただいて、ひとつのブランディングには貢献度大だったと言える。そして、カイル・マクラクランは伝説のテレビシリーズ『ツイン・ピークス』で人気爆発、その効果もあって2回目の放送では1回目を凌ぐ20.6%となる!

④続編対決
『ヒドゥン』の続編『ヒドゥン2』(1993)は頭10分が前作の使い回し。試写はしているが、何も覚えていない。「作る必要のなかった続編映画」の典型の駄作。
『ロボコップ』は『2』『3』、テレビシリーズ、リメイク映画もあるが、やはり1作と比較するとかなり劣って見えるのは否定できない。『2』『3』は地上波テレビの放送ではやはり高視聴率で貢献してくれた。

⑤当時の映画部長からの最後のお褒めの言葉
『ヒドゥン』の購入・放送時期の映画部長が今年鬼籍に入ってしまった。4年ほど前に電話をいただいた。かなり酔っていた様子だったが、「福吉の映画部での最大の功績は‥」と言われ、何のことだろう?と思ったが、「『ヒドゥン』だね。」と言われたのにはびっくりした。まさかこの会話が最後になるとは全く思わなかった。そういう意味でも私の経歴でも思い出深い「B級映画の傑作」である。

というわけで、今と違って、大ヒット作でもない、認知度もない、ただ内容は抜群に面白い、ほぼ無名のような作品でも堂々とゴールデンにかけられて、高視聴率が取れた地上波映画放送「黄金の1990年代」の1エピソードである。
 
 

[作品画像はAmazon.co.jpより]
※Amazonのページで紹介しているDVD・ブルーレイ等のソフトは、今回紹介する日本語吹替え音声を収録しておりませんので、ご購入等の際はご注意ください。
・商品リンク : 『ロボコップ』 / 『ヒドゥン』


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