ダークボのふきカエ偏愛録

#68 ふきカエクレジット、見てますか?

ダークボのふきカエ偏愛録先日、フジテレビ「土曜プレミアム」枠で久々に地上波放送された『トップガン』。
本来ならこの数日後、公開延期が続いた新作『トップガン マーヴェリック』が遂に!のはずだったのに、またまた延期になって(2022年5月27日だと)、〈新作公開記念〉という冠が何とも残念な感じでしたが、そのこと以上に気になったのは、テレ東「木曜洋画劇場」版のふきカエが使用されたこと。
フジテレビでのテレビ初放送で制作されたふきカエはトム・クルーズが渡辺裕之さんで、次の日テレ版は高橋広樹さん、DVD版は塚本高史さんと来て、「木曜洋画」版は真打ち登場!って感じの森川智之さんでしたから、今オンエアするならやはりこれ、という選択なのでしょうが、俺にとっては、フジテレビさんでテレ東のふきカエが!ということ自体が楽しくてね。
しかもオンエアをリアルタイム視聴してたら、新録当時のテレ東のプロデューサー2人(俺は担当を外れてました)の名前がテロップでしっかり掲出されて。条件反射的にツイッターでつぶやいてしまった。

驚いたのは、その後の展開です。
「フジテレビがテレ東のふきカエを使うなんて」という感覚がカタギの皆さんにはわかりにくいかも、という気がしたもんで、軽く解説するつもりでツイートを連投してみたら・・・これが猛烈な勢いでリツイートされて、週末だけでフォロワーが1,000人近く増えちゃった!

今のテレビマンは理解できないかな。
昔、地上波各局がゴールデンタイムに「洋画劇場」を置いていた頃は、吹き替え版こそが番組のオリジナリティだったので、同じ映画でも吹き替えは各局が独自に制作してました。各局の映画担当者同士はけっこう仲良しだけど、他局版を使うのは悔しい、という感覚でね。

でもそういう感覚はテレ東には無くて、他局版を有難く使ってました。そもそも他のキー局が争奪戦をするような映画は、何年も後でないと買えなかったし。
ただ、他局が買わないような映画の方が多かったので、そういうのは独自に吹き替えを作るしかなく、結果的に制作本数は他局よりずっと多かったんです。

吹き替えの制作費は局に関係なく決められているので、テレ東も他局と同じ予算を使ってました。
なぜこんなB級映画にかくも豪華な声優陣が?という現象が起こったのはこのためです。

今夜放送された『トップガン』は「木曜洋画劇場」が最後に新録した吹き替え版でしたが、クオリティ的にはフジテレビで放送されても何ら問題はなかったはず。
それでもひと昔前までは「テレ東の吹き替え版なんか使えるか!」というのが他のキー局の感覚でした。時代は変わったなあ、と感じた次第。

「ひと昔前」から映画番組を担当し続けているテレビ屋は、とうとう日本で俺一人になってしまったようで。
後を継ぐ若者もいなくて自分でやるしかなく、局オリジナルの吹き替えを作り、前解説をつけて放送する「洋画劇場」スタイルをダラダラと続けているわけです。BSだけどね。

・・・こんなツイートでした。
このコラムにも散々書いてきたことばかりで、読者には何を今さら、と思われるような内容なのに(読まれてないんでしょうなあ)、あんなにバズるとは、タイミングですかね。
「洋画劇場」が地上波からほとんど姿を消し、若年層のテレビ離れが急速に進んでいる今では、こんな話がよほど新鮮だったのか、「DVDに何種類も吹き替えが入っているのはこのためだったのか」なんてリプライが続々と。TBS版がどうの、テレ朝版がどうした、みたいな話は、大方の人にはもはや意味不明なのですね。哀しいなあ。

ちなみに地上波の「洋画劇場」が下火になるにつれて、ふきカエの声優・スタッフのクレジットの番組内での扱いはどんどんぞんざいになっていきました。もともと決まったルールはないんですが、昔はどの局・どの番組もほぼ横並びで、最低限の人名はきちんと掲出してたんだけどなあ。
テレ東の「午後のロードショー」やBSテレ東の「シネマクラッシュ」は、今もそのスタイルを守り続けてますが、最低限の人名というのは、

「声の出演」 (テレ東・BSテレ東は、わかる限り全員出してます)
「演出」 (現場では「ディレクター」。アニメでは「音響監督」ですね)
「翻訳」 (他の人名は端折っても翻訳家だけは明記するのが基本です)
「調整」 (ふきカエ音声を技術的に完成させる人。「ミキサー」とも)
「選曲・効果」 (効果音などセリフ以外の音をアレンジする人。作品によっては無いことも多い)
「制作会社」 (ふきカエ音声の制作を受注したプロ集団)
「担当」 (新録の場合は制作会社の担当者、それ以外は局側で編集を担当したディレクター)

という面々で、新録の場合は、これに局のプロデューサー名が加わります。
新録じゃなくても、自局のプロデューサー名を入れる番組もありますが(「午後ロード」はそうですね)、他局の社名・人名はなるべく出さないのがテレビ局間の暗黙のルールです。なので、テレ東社員の名前がフジテレビで掲出されちゃった『トップガン』には驚いたわけ。
今やフジテレビさんもたまにしか映画を放送しないので、担当者はそういう慣例を知らなかったのかなあ、と推察。ここでもう一つ、駄ツイートを引用しますね。

昔『ニュー・シネマ・パラダイス』をテレ東で放送した時、吹き替え版を演出したフジテレビのYプロデューサーの名前をきちんと出したら、後日「他局に俺の名前を出すな」と怒られましたよ(笑)

実話です(笑)
この作品の場合は、Yプロデューサーが自ら「演出」を担当されてたので、むしろルールに従ってディレクター名を出したのですが、テレビ局の社員としてはそういう感覚なわけで。まあ実はちょっとしたイタズラだったんですけど。

いつにも増して、視聴者にはどうでもいいことばかり書いてしまったな。すみません。
では、ちょっとお得なお知らせ(番宣)です。

ダークボのふきカエ偏愛録BSテレ東「シネマクラッシュ」にて、12/20(月) 夜6時54分から放送するのは『ロビン・フッド』(1991)。
俺史上、最高視聴率を獲得した「木曜洋画」版のふきカエ(ケビン・コスナー=津嘉山正種さん、アラン・リックマン=土師孝也さん)での放送です。
数年前にこのコラムに書いた時は放映権の捜索中でしたが、執念でゲットしました! 放送枠の都合でかなり短くなっちゃうけど、タイトにお楽しみください。

ダークボのふきカエ偏愛録また、大みそかの深夜(ほとんど元旦)には、今年、コロナ禍の中で頑張って新録した2作品、『ある日どこかで』(新録版発表時のコラム)と『世界にひとつの金メダル』(新録版発表時のコラム)を一気に再放送!
どちらも放送はこれが最後、後のソフト化等はまず無いので、どうぞお見逃しなく。

というわけで、2021年もふきカエ三昧で終了。今年もお付き合い頂きありがとうございました。
次回は新年早々、またしても驚愕の新録企画をお知らせすることになりそうです。それまでは死ねないな。では皆さん、よいお年を!

[画像はAmazon.co.jpより]
※Amazonのページで紹介しているDVD・ブルーレイ等のソフトは、日本語吹替え音声を収録していなかったり、このページで紹介しているものとは異なるバージョンの日本語吹替え音声を収録している場合や既に廃盤となっている場合もありますので、ご購入等の際はご注意ください。