吉田Pのオススメふきカエル

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『未来は自分で切り開くものなんだ!』

コロナ禍により公開延期が続くハリウッド映画。あるものは来年へ延期、あるものは劇場公開を断念して配信へ直行、かろうじて『ワンダーウーマン1984』が12月に公開されるのみ。でもそんな最中、耳を疑う嬉しいニュースが飛び込んできました。あの『バック・トゥ・ザ・フューチャー』三部作が公開35周年を記念して4Kニューマスターにリニューアル、おまけに“日曜洋画劇場の吹替え版”で劇場公開されるのです!
 

『バック・トゥ・ザ・フューチャー1,2,3』
吉田Pのオススメふきカエル監督:ロバート・ゼメキス
出演:マイケル・J・フォックス クリストファー・ロイド
12/4より全国ロードショー公開
→ 公式サイト tc-ent.co.jp/sp/backtothe4Kfuture

映画史に名だたるこの大ヒットシリーズ、今さら作品の内容についてくどくど解説はいたしません。SFの分野では使い古されたと言ってもよい“タイムトラベル”というアイデアから、ここまで面白く、スリリングで、ワクワクする映画が生まれるなんて!35年前に劇場で初めて観たときは本当に椅子から転げ落ちるかと思いました。始まった瞬間からラストまで一秒たりとも退屈せずずーっと面白い映画って、そうそうあるもんじゃないですよ。パッと思いつくのはあと『ダイ・ハード』と『エイリアン2』ぐらいですかね(←私見です)

そんな初公開時の衝撃から四年後、駆け出しの日本語版制作担当だった私のもとへテレビ朝日映画部のプロデューサー様から一本の電話が。「今度バック・トゥ・ザ・フューチャー放送するんだけど、吹替え版作ってちょうだい」…

ええええええぇぇぇぇぇぇえええええええ!

そりゃ嬉しいですよ、喜びますよ。でも同時に凄いプレッシャーでもありまして。当時の映像ソフト界はまだDVDの夜明け前、吹替え版が作られるのはテレビ放送用が最初という時代のギリギリ最後の頃です。全国にファンのいる大ヒット作の吹替え版を最初に、しかも『テレビ朝日開局30周年記念』という冠番組として作るとは、なんと畏れ多いことか。
(実は現在“ソフト版”と呼ばれている山寺マーティ・青野ドク版もほぼ同時期に作られていたことが後に判明するのですが、実際にこの吹替え入りVHSが発売されたのはテレビ放送の翌年だったため、当時としては知る由もなく…)

さっそく製作開始。30年前のこととて定かではないのですが、マーティ=三ツ矢雄二さん、ドク=穂積隆信さんという主役二人のキャスティングは割とあっさり決まったように記憶しています。テレ朝のプロデューサー氏も弊社の担当ディレクターも「まあ、そうだよね」てな感じで、業界のベテラン同士の阿吽の呼吸みたいな。そこから始まり脇役に至るまで、今にしてみればテレビ洋画劇場の王道ともいえる豪華絢爛の声優陣なのですが、当時は特に贅沢してるとは思わなかったんですよねえ。大塚芳忠さんとか中尾隆聖さんがほんのチョイ役で出演されていて、いやホント、昔は物を思はざりけり(←使い方合ってます?)

そして迎えたアフレコ当日。初めてお会いする穂積隆信氏はそれまで映画やテレビで拝見していた姿そのままで(当たり前ですが)でもマイクの前でしゃべりだすとそれはもうドク・ブラウンそのもので、同じくマーティ・マクフライが日本語を話しているとしか思えない三ツ矢雄二氏との息の合った掛け合いは、スタジオで聞いていても実に楽しいものでした。ああ、この仕事やっててよかったなあと思ったものです(←割と毎回思ってますが)
しかし本作との出会いはそこで終わらず、その翌年に今度はフジテレビが放送するため新しく吹替え版を作ることとなり、主役に織田裕二・三宅裕司のお二人を起用した世にいう“Wユージ版”が誕生することになるのですが…それはまた別の話。

当時の洋画劇場はまだ「放送する局が変わると吹替え版も作り直す」という慣習がありまして、特に本作のような話題作は各局とも「ウチで放送する以上はウチの吹替え版を!」とリキが入ります。結果、私が関わった前述の2バージョンに加え、先日テレビ初放送で話題となった山寺マーティ・青野ドクのソフト版、その山寺さんが今度はドクを演じたBSジャパン版と、作られた吹替え版は計4バージョン。中でもBSジャパン版は「マーティ役を吹替えるまでは死ねません!」と明言されていた宮川一朗太氏と、本作を劇場で70回以上観た(!)当コラムでもおなじみのダークボプロデューサーの想いが結実した、いわば“悲願成就版”とでも申しましょうか…

たかが吹替え、されど吹替え。ひとつの吹替え版が皆様のもとに届くまでには、企画したプロデューサーから翻訳者、演出家、声優、技術スタッフに至るまで、たくさんの人たちがそれぞれの思いを込めて携わっています。それも全部「世の人たちに一本でも多く、面白い映画を観てもらいたい」という願いから。その願いが30余年を経て、映画館の大きなスクリーンで再び実を結びます。ドクを演じた穂積隆信氏も演出を担当した我が師匠も既に鬼籍に入られましたが、遺された作品はこうして生き続けるのですね。

ということで、みなさん。いま映画館は万全の感染対策を取りつつ営業中です。気のふさぐニュースを一時でも忘れて、“最初から最後までずっと面白い奇跡のような映画”を観に行きませんか。
 
 
 

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吉田Pのオススメふきカエル
(画像はAmazonより)
テレ朝版、ソフト版、BSジャパン版の吹替え3バージョン収録の決定盤!でもなぜかフジテレビ版だけ入ってないのはオトナのうわおい待て何をするやめ