吉田Pのオススメふきカエル

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『Back to 80’s』

先月から当ふきカエルのコラムに降臨された“アンソニー”福吉さん。テレ朝映画部に御在籍の頃に当方は出入り業者として大変お世話になっていたのですが近年はトンとご無沙汰で、最後にお会いしたのは5年前の『シン・ゴジラ』公開時、当時有楽町マリオンの中にあった日本劇場のロビーにて。ゴジラのグッズ売り場に群がるオタクたちを眺めながら「見事にオッサン(自分含む)ばかりだなあ。みんなそんなにゴジラが好き…あ、福吉さんおはようございます」という偶然(必然?)の邂逅でありました。確かゴジラのカレンダー買ってたぞあの人。

事程左様に「オタクの魂百まで」と申しますか、子供時代とか若い時分にハマったものからはなかなか卒業できないのがオタクの性でございまして、それを拗らせたまま歳を重ねた結果こういう場で昔話を書き連ねたりすることになるのです。折しもいま映画館では36年の時を超えてあの大ヒット作の続編が公開中。今回は暫しのタイムスリップにおつき合いください。

吉田Pのオススメふきカエル『トップガン マーヴェリック』

監督:ジョゼフ・コシンスキー
出演:トム・クルーズ マイルズ・テラー
5月27日より全国公開中
→ 公式サイト

アメリカのエリート・パイロットチーム“トップガン”に課せられたのは、世界の危機を回避する絶対不可能な【極秘ミッション】。その達成のためチームに加わったのは、トップガン史上最高のパイロットでありながら型破りの性格で軍から追放されていた伝説の男マーヴェリックだった。彼が新世代のトップガンとともにミッションに命を懸ける中、タイムリミットは刻々と迫ってくる——。

前作は86年に公開され、世界中で大ヒット。当時社会人になりたての自分は実社会の寒風にめげそうになったとき、まだカセット式だったウォークマンでこの映画のテーマ曲を聴いてなけなしの勇気を振り絞り仕事場(文字通りの“Danger Zone”)へと向かっておりました。この曲も大ヒットしたんですよねえ。

この作品のちょっと前『フラッシュダンス』から始まった所謂“MTV映画”の一大ブーム、その後も『フットルース』『愛と青春の旅だち』『ゴーストバスターズ』と映画のテーマ曲が次々と大ヒット。本作でもケニー・ロギンスの歌う“Danger Zone”をバックにF14が大空へ駆け上ってゆくオープニングが超絶カッチョよかったのです(が、なぜかこの曲のミュージック・ビデオにそのシーンは使われず、ケニーが一人ベッドの周りをうろうろしながら歌うという謎の演出で思いっきり脱力。それデンジャーじゃなくてセーフティ・ゾーンやがな)

そんな大ヒットから実に36年を経ての続編。当然主演のトム・クルーズもそれだけ歳を取って…ないじゃん!いやそりゃよく見りゃ多少は皺も弛みもあるんですけど、ぱっと見の印象はあの頃のままというのがすごいなあ。実は同い年である我が身と比べて、何でしょうこの差は。ちなみに身長もトムと同じ(意外と小さいんですよね彼)の自分としては、彼のことをとても他人とは思えないのです。先方がどう思ってるかは知りません。

そして肝心の吹替え版ですが、そりゃトム・クルーズと来ればこの人、“トム本人の公認声優”こと森川智之社長。若き訓練生たちに宮野真守、中村悠一、武内駿輔らが顔を揃え、ヒロイン役のジェニファー・コネリーに本田貴子、エド・ハリスほかベテラン勢の声には菅生隆之、平田広明といった歴戦の勇者が名を連ねる。豪華だなあ。羨ましいなあ。
→吹替え版のスタッフ・キャストはこちら

ちなみに今回の声優の発表時にはちょいとした趣向がありまして、なんとホンモノの滑走路に森川氏本人がパイロット姿で登場、参加声優の名前を読み上げるというカッコよくも畏れ多いイベントが開催されたのでした。まだネットに動画が上がってると思うので、興味のある方は検索していただくと森川氏の堂々たる雄姿に拝謁できます。ダテに社長業はやってないぞ。

 

さて後半はちょっと時代を進めましょう。89年公開作品、テレビ放映は92年なので厳密には“80’s”ではないのですが(まあこの歳になるとその程度は誤差です)『トランスフォーマー』に先駆けて(?)製作された我らが東宝の特撮ロボット映画です。

吉田Pのオススメふきカエル『ガンヘッド』

監督:原田眞人
出演:高嶋政宏 ブレンダ・バーキ
6/15ブルーレイ発売
→ 公式サイト

2039年。貴重品となったコンピューターチップを求めて軍事施設に潜入したトレジャーハンターたちは、人類に最終戦争を仕掛けようとする巨大コンピューター、カイロン5に遭遇。廃棄されていた戦闘用ロボット「ガンヘッド」を改造して、敢然と戦いを挑む。
 

ちょっと待ってこれ邦画じゃんなんでふきカエルに日本語の映画が出てくんのとお思いでしょうが、そこには事情がありまして。この作品は戦争で世界が荒廃し国境も何もわやくちゃになった近未来が舞台ということで、登場人物の人種も様々。英語と日本語がチャンポンで飛び交う状況が独特の無国籍な世界観を構築しておりました。しかしこれをテレビで放送するとなると、そんなカオスな状態は視聴者にとって少々敷居が高くなります。何より英語の台詞に字幕を付けての放送はゴールデンタイムの地上波にはなじまない。ならばということで英語の台詞は全て日本語に置き換え、音質を揃えるために日本語の台詞も全て録りなおすことになったのです。

出演されている日本の俳優陣はご本人に来ていただき、英語のキャラは声優さんをこちらでキャスティング。結果、高嶋政宏さん、ミッキー・カーチスさんを始めとする俳優陣と、戸田恵子さん、郷里大輔さんといった声優陣が一堂に会することになったのですが、その指揮を執る自分はまだまだ駆け出しの新人。収録の前日は緊張して眠れませんでした。

実はわたし以前から原田眞人監督作品のファンでした。特に87年の『さらば愛しき人よ』が本当に好きで、主役の郷ひろみさんを真似てリグレイのガム噛んだり(うわ恥ずかしい)してたのです。他にも金髪で長ドス抱えた佐藤浩市さんのヤクザとか、ミステリのペーパーバックを原書で読んでる嶋大輔さんのヒットマンとか、魅力的なキャラクターが織りなすセンチメンタル・ハードボイルドの傑作。松竹さん、ブルーレイ出してください(懇願)

とまあ、そんな想いもあって震えながら挑んだ現場でしたが、そこは皆さんプロの映画人。こちらの拙い指示にも的確に応えてくださいました。覚えているのはミッキー・カーチスさんとのやり取りで「ミッキーさん、そこの台詞、本編の時よりもう少し立てていただきたいのですが…」「でもここ撮影の時に原田監督が拘って敢えて不明瞭にしたとこだよ?」「はい、それはわかるんですが、テレビ放送ですとはっきり聞こえたほうがいいので…」というこちらの注文にミッキーさんはニヤッと笑って「OK, You’re the boss」と。痺れるような笑顔でした。

そんなこんなで無事に吹替え版は完成、あとは放送を待つだけというときに突然原田監督ご本人から私宛に電話が。吹替えに際してこちらで台詞を追加・改変したことが連絡の行き違いで監督に伝わっていなかったらしく、「何で勝手に変えるんですか」というクレームの電話だったのです。パニックになりながらこちらの意図を必死に説明して一応のご了解をいただいたのですが、いま思い出しても冷や汗が…でも結果的に原田監督と直接言葉を交わすという、ファンとしては至福の経験でもありました。まあ怒られただけなんですけどね。

この吹替え版、有難いことに一部ではそれなりの評価をいただいているそうで、この度発売されるブルーレイに収録されることになりました。演出した当人も全編見るのは放送時以来です。上記のアレコレを思い出してとても冷静に見られそうにはありませんが、それを差し引いても実に原田監督らしいスタイリッシュな傑作です。予価8,800円は決してお安い値段ではありませんが、懐とお時間に余裕のある方は是非。

 

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吉田Pのオススメふきカエル
“アンソニー”福吉氏の名前の由来ってこの二枚目スターなんですが…似ているかと言われると私はご本人を存じ上げてますのでうわ字数が足りない