異例ずくめの傑作コメディ『ステージド』吹替版の舞台裏を、演出家・早川陽一が明かした!

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スターチャンネルEXで独占配信中のイギリス発の傑作コメディ『ステージド 俺たちの舞台、ステイホーム!』の“吹替版”が面白い! 『ドクター・フー』10代目ドクター役で名高いデヴィッド・テナントとシェイクスピア作品で知られる名優マイケル・シーン、英国の大スターふたりが、コロナ禍でロックダウン中のイギリスを舞台に、本人役で全編Zoomでドラマ(?)を収録。まるでプライベートを覗いているようなユルい雰囲気と丁々発止のやりとりが見ものの一作だ。異例ずくめの英国大人気コメディは、その吹替え収録も異例ずくめ。デヴィッド役の櫻井孝宏、マイケル役の飛田展男ほか実力派声優陣とスタッフによる抜群のチームワークで、吹替版の“タブー破り”に挑んだその舞台裏を、演出を手掛ける早川陽一氏に聞いた

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──早川さんが最初に本作をご覧になった際、どのように吹替えを演出していこうと思われましたか?

早川陽一さん(以下:早川):大の大人が突然ケンカを始めたり、怒鳴り合ったり罵り合ったりして、会話のテンポが速いのにすごくびっくりして、これを吹替えで再現するのはなかなかのチャレンジだと感じましたね。どうやって台本を作っていくか、そして声優さんたちにどういう風に演じてもらえばこういう形に近づけられるだろうかと思いました。

──櫻井さんと飛田さん、2人のセリフがとにかく被りますね(笑)。

早川:セリフがすごく被る場合は、通常ですと別々に録るのですが、今回は本当にテンポがよくて、お互いの揚げ足を取り合う感じで会話が進んでいくので、なるべく別録りを少なくして映像に合わせていこうと。すごく難しいことを要求するものになりましたね。でも、櫻井さんと飛田さんがその辺をすごく理解してくださって「僕たちが頑張りますから」と言ってくださったので、「ここも一緒に録っちゃいましょうか」と、難しいシーンも別録りすることがほとんどなくて、いやすごいなと思いながら毎回収録しています。
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──スターチャンネルの日本語版制作プロデューサーからも、収録の経緯について情報をいただいていたのですが、事前に皆さんでしっかりとディスカッションされたそうですね。

早川:「日常の素の会話」というものにどうしたら近づけられるだろうか?というのが一つの大きなテーマで、これは台本上のセリフの語尾や一人称とか、そういう言葉の使い方もそうですし、声優さんに演じてもらう上で、どう演出すればナチュラルな芝居をしてもらえるだろうか?というのが大きな課題でした。そこで、みんなでどうしたら引き出せるのかなと相談していましたね。

 結論としては、とりあえず台本は普段のリアルな会話になるようなしゃべり口調に、語尾もきっちりするのではなくて、本当に友人同士がしゃべっているようなものにしました。お芝居としては、周りの声優さんにリサーチをして、例えばすごくナチュラルにするにはお腹から声を出さないとか、滑舌もあんまりこだわり過ぎない、キッチリカッチリとはしゃべらないようにしたらいいんじゃないか、といったアドバイスをいただいて、それで組み立てていきました。

──お話をうかがっていて感じたのですが、それは今まで皆さんが培ってきた「吹替えのノウハウ」を一度全部壊すみたいですね。

早川:そうですね、本当におっしゃる通りで。「普段の会話では、語尾までしっかりは言わないよね」っていう話になって、最初のリハーサルでは、ゲストで来られた声優さんは、ちゃんといつもどおりしっかりとしたセリフ回しで演技してくださるんですけど、そこをあえて「もうちょっと滑舌を甘くしてほしい」「語尾までしっかり発声しなくていいですよ」とお願いして、逆に「こんな演技で本当に成り立つんですか?」と驚かれるくらいで。皆さん、仕事した感がないというか、普通におしゃべりしてたら終わっちゃったっていう感想の方もいて、そこが皆さんにとっても新鮮だったみたいですね。

──画面に映るオジリナルの俳優の芝居に同調していくのが、吹替えのひとつのセオリーだと思うのですが、向こうの人があれだけユルかったら、こっちもそうなっていくのは自然なことですよね。そうしたリラックスしたあの雰囲気を再現するために、“独特の収録方法”をされたとのことですが?

早川:デヴィッドとマイケルが家でZoomを使って会話しているというのを、収録スタジオでどうやってやったらいいだろう?と考えました。運が良かったことに、スタジオがかなりアットホームな雰囲気のある内装だったんですね。ですから、そこに椅子を人数分、コロナの感染対策を考えると3人分がマックスだったんですけど、椅子と机を用意して、声優の皆さんに座っていただいて、モニターを観ながらしゃべるスタイルでお願いしました。マイクもそれぞれ1本ずつ机の上に用意して、普段は背の高さとかに合わせてマイクを調整するんですけど、それもあえてしないで、マイクを意識しないでやっていただけるように、「マイクはまったく無視して構いません。こちらでちゃんと録りますから普通にしゃべってください」ってお願いしたんです。

──その効果は非常にあったのかなと感じます。とにかく櫻井さんと飛田さんの演技がお見事です。早川さんの演出意図に対して、おふたりの反応はいかがだったのですか?

早川:本当にすんなりと受け入れてくださって、オリジナルの画面を観たときのそれぞれのお考えが、やっぱり自分と近かったんだと思います。このリラックスした掛け合いをどうすれば自分たちでもやれるか、雰囲気作りを重視すればオリジナルの面白さに近づけるんじゃないかって、たぶん同じように考えてくださったみたいです。こちらの意図もすぐに理解していただけて、アドリブも思いついたら誰でも入れていきましょうとお伝えしてあったので、そこも毎回楽しんでやってくださっている印象があります。

──どこまで元々の英語の台本にあるんだろう?という感じですし、その中で、吹替版オリジナルのアドリブを入れてくるというのは本当すごいと思います。ちなみに、アドリブで印象に残っているものはありますか?

早川:原語にはないものとして、日本語のパロディで置き換えたものとかは、いくつかこちら側で仕込んでいるんですけれど、台本のト書きの部分があるじゃないですか。そこに僕が感想で書いたツッコミみたいな言葉があったんですけど、それを飛田さんが読まれて、面白かったのでそのまま採用したのがありましたね。急な思いつきなのか、予め考えていらっしゃるのか分からないですけど、そういったことも現場でどんどんやってくださる皆さんなので、すごくノリが良くなってますね。

──早川さんご自身もユーモアのある面白い人だというお話もうかがいました(笑)。やはりコメディ作品はお好きですか?

早川:はい、大好きです。吹替版でどこまで(無茶を)やっていいんだろう?といつも考えていまして、どこまでなら許されるのか?という挑戦をしてみたいのがどうしてもあるんですね。これも現場で思いついたんですが、演出家のサイモンがすごく落ち込んだシーンの後に羊や馬が出てきたりするんですが、その鳴き声をサイモン役の中谷一博さんに「ちょっとその気持ちのまま羊で鳴いてみて」とお願いしまして、すごく上手にやっていただきました(笑)。

──やっぱりあれは人の声だったんですね!(笑)

早川:気づいていただけてよかったです。字幕版は動物の声だけだと思うのですが、吹替版ならではのチャレンジとしてやらせていただきました。

──現代の吹替版は、70年代、80年代の吹替版に比べると、やはり原語に対して忠実でなければならないという制約が強いと思います。それをどこまで崩せるのか、どこまでくだけた日本語に変えてしまっていいのか?というのは、大きなチャレンジのひとつなんでしょうね。

早川:そうですね、やっぱり声優さんは面白い演技をもっとできると思いますから、許されるのであれば、より踏み込んだ吹替版で、また違った面白さを出せたらいいなと思いながら、制作に臨んでいます。もちろんオリジナル版は素晴らしい演技だから、それを超えるということはなかなかないですけど。

 今回で言えば、“ことわざ”なんかが出てくるじゃないですか。英語のことわざをデヴィッドが間違って覚えていて、これをマイケル突っ込んだりするんですが、これがすごく難しくて。「ここは日本語だとどんなことわざになるんだろう?」って、翻訳者やプロデューサーとあれはどうだこれはどうだと相談して、練りに練っています。ここまで翻案にこだわったのは初めての経験ですね。

──そうなんですね。でも、それは本当に「吹替版の再構築」だと思いますよ。最も綺麗なローカライズと言いますか。

早川:そうなれたら理想ですよね。

──櫻井さん、飛田さんの演技の魅力、本作の聴きどころについて教えていただけますか?

早川:櫻井さんは、キャラクターに寄り添ってくださる方ですね。それぞれのキャラクターを捉えて、すごく魅力的に見せてくれる方なんです。特徴を緻密に組み立てて、自然にその人が日本語をしゃべってるように感じさせてくれるのがすごい。櫻井さんと一緒にやった『シリコンバレー』というITオタクたちが主人公の海外ドラマがあったんですが、そこでもなんかだるい感じの主役のエンジニアをやってくださったんですね。すごく神経質で子供っぽくて、わがままなキャラだったんですけど、その挙動不審な演技がピカイチ。今回のデヴィッドの無精ひげを生やして、いつも同じ服を着て、ずっとボヤいてるような感じにも少し通じているのですが、それをすごく見事に表現してくださっているなと思います。

 飛田さんは、会話のキャッチボールやアドリブの面白さが特徴的なんですが、ただ闇雲にやっているわけじゃないんです。現在のコロナ禍で、声優さんたちが揃って収録できない部分も多いのですが、飛田さんは、これから自分のあとに録る人の言葉を想定して、自分のセリフの前の“未収録のセリフ”を拾ってツッコミを入れてくださってたりするんですよね。あとで完成形を観ると、会話のキャッチボールが完璧にできあがっている。アドリブでイリュージョンを仕掛けているというか、後ですごく鳥肌が立つ、そういう瞬間があるんです。そこが見どころ、聴きどころですね。放送だけ観ているとどこが一緒でどこが別に録ったかは分からないと思うんですが、別々に録っても掛け合いが成立している。特に飛田さんは、そこがもう素晴らしいですね。

──早川さんは、これまでにも『glee/グリー』や『シェイムレス』『ヤング・シェルドン』など、様々なタイプのドラマを手掛けられてきましたが、特に印象に残っている作品とその理由を教えてください。

早川:現在最終シーズンが放送中の『シェイムレス』は、すごくハチャメチャで過激な内容なんですけれども、社会問題や世の中の歪みも織り込まれていて、本当に大好きで生き甲斐のような作品で、一番印象深いですね。11年も関わっていて、スタッフ、キャストが劇団みたいな雰囲気になって、みんなでキャラクターの面白さを生で追求していくのが、すごくエネルギーにあふれていましたね。

 『glee/グリー』もキャラクターがみんな個性的で、しかも音楽が素晴らしかったので、スタジオでの収録中にも笑いと涙がこみ上げてくる瞬間がありました。みんなでゴールを目指していく一体感がすごくて、これも本当に面白い、忘れられない作品ですね。ちなみに『glee/グリー』が好きすぎてこの業界に入ったという制作スタッフが、僕にこの『ステージド』のディレクターはどうかと声を掛けてくれたんですが、会話のテンポの面白さやキャラクターの面白さが、『glee/グリー』が好きな人にも伝わるといいなと思いますよね。シーズン2には、(『glee/グリー』にも出演した)ウーピー・ゴールドバーグが登場しますしね。
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──シーズン1ではジュディ・デンチと大物俳優がシークレット出演していますが、「俺たちの舞台、アメリカ上陸!?」というサブタイトルのシーズン2になると、続々と大物スターが登場しますね。

早川:デヴィッドとマイケルは出演しない形で『ステージド』のハリウッド版リメイクを作ろうという話になります。「俺たちは出られないのか!」とまずひと悶着あり、その上で、デヴィッドとマイケル役をハリウッド俳優の誰がやるのか?という展開になります。そして、そのセリフの読み合わせに2人が付き合っていくという、シュールな話になっていきます(笑)

──前述のウーピー・ゴールドバーグに加えて、ユアン・マクレガーにサイモン・ペッグ、クリストフ・ヴァルツ、ケイト・ブランシェット……彼らの吹替版キャストが大いに気になります(笑)。

早川:「この俳優はこの声優さんでしょ!」と誰もが思う方もいるので、「やっぱりこの人にお願いしたいよね」っていう方にお声を掛けています。おひとりちょっと贅沢な起用の仕方をさせていただいていて、普通は一役だけのところをあえて二役やっていただいているので、そこも大きな見どころかなと思っています。一役は、「その俳優ならほぼ必ず」という形で、もう一役は、他にも担当する声優さんはいらっしゃいますが、その方も演じたことがある役で。相談したら快く受けてくださって、「二役やってみました動画」じゃないですけど、贅沢に、少し冒険的なキャスティングも行っています。
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──最後に、放送を楽しみにしていらっしゃる皆さんにメッセージをいただけますか。

早川:吹替えファンの方に楽しんでいただきたいのはもちろんですが、字幕でご覧になってる方は、英語でデヴィッド、マイケルの面白いやりとりをご覧になっていると思うんですけど、それを吹替版・日本語で聞いたらどうなるのか?を、スタッフ、声優さん、みんなで一丸となって作っていますので、一度ぜひご覧になったいただきたいです。ハマる方も出てくるかもしれません。

 同じ作品の、同じ設定なんですが、「日本の素晴らしい声優さんが演じると、こういう感じになりますよ」って、ちょっと違ったもうひとつのものとして提示できたらなと思っていますので、観ていただきたいですね。

 あと思い出したんですが、シーズン2でデヴィッドがソファに寝転んでしゃべってるシーンがあるです。そこでは、櫻井さんにソファに寝そべって演じてもらったんですが、そのときちょうど足を飛田さんの方に向ける格好になっていて、それがすごくシュールで、スタッフみんな笑いながら録っていたんです。櫻井さんの首はマイクの方に向いて、足の先には飛田さんの顔(笑)。その寝転んだシーンがどこなのかにも注目してください。
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収録を楽しんだ主演のふたり=櫻井孝宏&飛田展男が語る「見どころ」とは?
 “他になかなか例のない”収録方法に挑んだ主演のふたりに、収録の感想とドラマの見どころを聞いた!


──本作ならではの収録スタイルですが、感想はいかがですか?

櫻井孝宏さん(以下:櫻井):収録そのものが楽しかったです。掛け合いもできるスタイルがこの作品にフィットしている感じがしました。小さな画面の世界を体現出来て楽しかったです。

飛田展男さん(以下:飛田):あんまり気を抜きすぎると、何を言っているか分からなくなったりもするので……その辺のバランスは難しかったです。他の作品よりは気だるさというか、日常のような雰囲気になりますね。塩梅をみて、くつろぎながらも別の神経を使う感じです。だから収録中は感じないんですけど、終わった後や次の日に妙に疲れている感じはあります(笑)。

──本作でのお気に入り、おススメのシーンを教えてください。

飛田:やはりデヴィッドとマイケルの掛け合いですかね。どうでもいいことをテンポよく話したり、聞いているようで聞いていないみたいな返しだったり、それがなかなか面白くて、味わいどころです。ドラマの合間に、1年前ロックダウン中だった当時のイギリスの風景がはさまれていたりして、不思議な世界ですね。単なるテレビ電話のやり取りとは違う状況がそこにあるというか。ある種フィクションにもなっているしシビアな時間にもなっているというか……。

櫻井:マイケルが、外の鳥を気にするシーンが最初の方にあり、そのあと近所のおばあちゃんを気にするシーンもあって、よく画面の外を見ているんですけど、それがデヴィッド的には印象に残っていて……そこには実は伏線が貼られていたりして……という作りも面白いです。

飛田:どこまで拾うかとかね。

櫻井:そうなんです! あそこにマイケルの人間味があるなと。デヴィッド的にはちょっと気になって面白いなと思いました。

飛田:おばあちゃんは台本にあったのかもしれないけど、鳥はどうなんだろう? その場の思い付きみたいな気もするよね!

櫻井:そうですね! 遊んでいるのかもしれません(笑)。
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──これから視聴される皆様へひとことお願いします。

櫻井:視聴者の皆さんも恐らくこういうリモート画面というのは経験されていると思うので、作品に自分を重ねやすいと思います。あのユルさというか適当さというか。ルーズなやりとりで、すごくくだらなかったり、どうでも良かったり、馬鹿馬鹿しかったりするんですけど、そこに人となりが透けて見えるというか。そういう感じが面白い作品です。どんどんキャストも加わっていくけど、だからといってすごく華やかになるとかそういう事でもなくて(笑)。やっぱりあのサイズの世界なので。その面白さがすごく上手に描かれているので、“百聞は一見に如かず”で、観ていただけたらと思います。

飛田:とにかく何度もご覧になっていただけたら。クセになる作品だと思います。もうシーズン2まであるということは、本国のスタッフの方々が相当ノッている証拠だと思うので……雰囲気を一緒になって楽しんでいただけたら! リモートというのは負のイメージではなくて、こんな面白い遊びができるんだと。デヴィッド・テナントとマイケル・シーンの滅多に観られない姿が観られるのも、ファンの方にはたまらないと思います。


海外ドラマ
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スターチャンネルEXにて独占配信中!
詳しくはスターチャンネルHPにてご確認ください。
→スターチャンネル 特設ページ
翻訳:加藤真由美、大野万紀
演出:早川陽一
ステージド 俺たちの舞台、ステイホーム!
声の出演:櫻井孝宏(デヴィッド・テナント)、飛田展男(マイケル・シーン)、中谷一博、犬山イヌコ、佐古真弓、Lynn、中村綾、谷育子、広田勇二、石井康嗣
ステージド2 俺たちの舞台、アメリカ上陸!?
声の出演:櫻井孝宏(デヴィッド・テナント)、飛田展男(マイケル・シーン)、中谷一博、佐古真弓、Lynn、中村綾、犬山イヌコ、片岡富枝、鈴村健一、森川智之、横島亘、茶風林、塩田朋子、玉野井直樹、遠藤綾、佐藤せつじ、緒方賢一、安達貴英、武内駿輔

『ステージド 俺たちの舞台、ステイホーム!』 © Staged Films Limited MMXX
『ステージド2 俺たちの舞台、アメリカ上陸!?』© Staged Films Limited MMXXI