飯森盛良のふきカエ考古学

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『プロメテウス』ザ・シネマ新録版こと佐古真弓さんバージョン、「吹替の帝王」レーベルからついに発売を祝して!の巻

2019/4/26(金)、天下の「吹替の帝王」レーベルから『プロメテウス<日本語吹替完声版>3枚組 コレクターズ・ブルーレイBOX』(希望小売価格 税抜6,476円)が発売されるわけなんですが、
[20世紀フォックス ホーム エンターテイメントによる公式ページ]
なんと、不肖ワタクシが一昨年プロデュースしたザ・シネマ版、というか佐古真弓版が、これに収録されるとの朗報が!
飯森盛良のふきカエ考古学

いやぁ、光栄の至り!我ながら、TV屋ってやつは実に虚しい稼業でして。放送で流したら流れ去って消え去る、というこの虚しさよ。特にワタクシは制作係なのでなおさら。作った番組が流れ去り二度と人に見られることはない、という、これはかなり虚しい…。

で、その虚しさに耐えきれなくなり、ある時以降自分の番組はウチのYouTubeチャンネルに永久に残すようにしてるんです。
『プラチナ・シネマ トーク』
『ふきカエ ゴールデン・エイジ<前編>』
『町山智浩のVIDEO SHOP UFO』
『ガバナー 知事シュワルツェネッガー』

が、この場にお集まりの皆様向きの『ふきカエ ゴールデン・エイジ』作った時にはそこまで考えがいたらず、前編しか置いてないんですよねぇ。後編は「加入して見てください」とかフザけたことぬかしてたな俺…今となっては後悔しきり。

後編はワタクシのこだわりで番組ED曲を、日曜洋画の例のあの、月曜に学校行きたくなくなる曲にしようと試みた→音楽著作権の保有者が不明→プランBとして金曜ロードの「フライデー・ナイト・ファンタジー」を音楽使用料TV業界定額制で払って流したんですが、このこだわりがアダに。当時は後編をネットに上げるつもりが無かったので後編だけフリー音源ではなくメジャー楽曲を使用したんですが、これやっちゃうと後で考え改めても取り返しがつかない。ネットだと音楽使用料がTV業界定額制とは別請求でかかるので。出演者の皆様からはYouTubeOKいただけてるのですが、この音楽著作権料がアダとなり、今後もあれは一生ネット空間には上げられんと思います。流れ去って消え去っちゃった。今や、後悔しかない!こんなことならフリー楽曲にしときゃよかった、トホホ…。

脱線した。独自番組ならそうやってYouTubeに残すことができるし、『ふきカエ ゴールデン・エイジ』の失敗に懲りて必ず以降そうしてるんですが、新録ふきカエは映画本編ですからそうはいかない。円盤メーカーさんにソフト収録して発売してもらう以外ワタクシの仕事は残りません。流れ去って消え去って終わりです。

だから帝王陛下、此度は誠に恐悦至極に存じ奉ります!

帝王は、ワタクシにとりまして、常に仰ぎ見てきた存在。

不肖ワタクシがザ・シネマにおいて今も続く「厳選!吹き替えシネマ」という枠の原点を企画立案したのは、07年の夏でした。それ以前はワタクシも“字幕原理主義”という、90年代に我が国限定で急速に広まった謎のブームにハマッてて(世界では外国映画はふきカエが当たり前)、「映画は字幕でノーカットで見るべきだ」というその当時流行してた偏った考え方を鵜呑みにしてたのですが、その夏たまたま『ダーティハリー』全5作を放送することになり、その瞬間、洗脳が解けたのです。「ダーティハリーを字幕で放送する奴おらん!これはふきカエ以外ありえん!カットされてたって構わん!」と。当時の円盤には山田康雄ふきカエ未収録だったんです。で「そういや他にも字幕よりふきカエでやった方がいい映画っていっぱいあるよな。特に懐かしの洋画劇場でやってた、なのに現在ソフトに収録されてない音源とか」と気づけた。あれはコペルニクス的転回の瞬間でしたね。

時ほぼ同じくして09年春に「吹替の帝王」もスタートします。ウチと同じく懐かしの民放TV洋画劇場を発掘するというコンセプト。さらに+αとしてスタッフ/キャストへのインタビューやミニ台本など付録が充実してる点では、帝王はウチの上を行ってました。

今から考えると想像もできない過疎っぷりですが、しばらくは、懐かし民放ふきカエの発掘に異常なまでの力の入れ具合だったのは、TV業界だとウチ、メジャースタジオ傘下のソフト会社では「吹替の帝王」という時期があったのです(時期的にはユニバーサル「思い出の復刻版」の方がほんのちょっと早いが帝王は特設サイト連動で力の入れ方がハンパなかった。それと、独立系の志高き各社ソフト発売元さんは別格)。

2015年前後になって、BS・円盤・CS各社が、同じコンセプトの企画やレーベルをやり始めるようになり、昭和や平成初期の文化遺産である懐かしふきカエの発掘・修復が一気に進んだのですが、風前のともし火だったかなり危機的状況が90年代末〜2010年代前半にかけては存在したのです。

この競合が増えた現状、ワタクシとしては、熱烈歓迎の気持ちしかない。発掘するにも修復するにもコストかかるので、参戦者が多い方が割り勘的に助かるんです。「ウチはこっちやるからオタクそっちやって」みたいな。でも、かつてたった二者だけで孤軍奮闘していたという記憶があるので、帝王には格別の革命的同志愛を、すてきな片想いで抱いてるのです。

その「吹替の帝王」にウチのふきカエが収録される、というのは、結構なかなかなカップリングだと我ながら思えちゃうのです。「ついに、ついにタッグ実現ですね、同志帝王よ!」という心境。手前味噌すぎ?

今回の『プロメテウス<日本語吹替完声版>3枚組 コレクターズ・ブルーレイBOX』は、ウチの佐古真弓さんバージョンだけでなく、剛力彩芽さんバージョンもちゃんと収録されると知り、これにも、さっすが帝王、解ってらっしゃる!と膝を打つ思いが。

『プロメテウス』の時も、それと先月ウチでやった『LIFE!』の時も、ウチで新録を作るとなると、アンチ芸能人ふきカエ派の方達がワッショ〜イと絶賛の嵐をしてくださるんですけど、ワタクシ自身はゴールデン洋画劇場ファンですので何らアンチな感情は持っていません。「それって全然普通じゃん!?」って感じ。

一種のインプリンティングで、最初に見たふきカエ版が極私的ベストになる傾向があります。そこでは上手い下手とかFIXとかは関係ない。ワタクシ、実は『バック・トゥ・ザ・フューチャー1』はWユージ版が、『ダイ・ハード』シリーズは村野武範版がMyベストなんです。最初に見た、だけでなくVHSに録画して何十回も見たのがそれなので、それが個人的スタンダードになっちゃった。他のバージョンは、客観的に見て「より上手い」とか「より合ってる」とか冷めた目で評価できたとしても、「でも俺にとってはちょっとコレジャナイんだよなぁ」という違和感が、どうしても拭えない。

だから確実に、剛力さん版やナイナイ岡村さん版が好きだ、という人も相当数いるのです。ここにWユージ版のファンが一人いるのが生きた証拠。帝王、そういうファンたちのことも考えて、ちゃんと収録しているのは、さすがです。ふきカエに貴賎なし!

実はウチも『プロメテウス』の時はちゃんと剛力さん版も放送したんです。『LIFE!』の時は契約放送回数の兼ね合いで岡村さん版は残念ながらお届けできなかったのですが、「岡村版ファンの皆さんすみません」という申し訳ない気持ちでいっぱい。本来やるべきなんです!

あと、芸能人の方に文句言うのは筋違いだからやめましょう。彼らは「是非とも!」と依頼されて「自分でいいんですか?」と引き受け、慣れないながらもベストを尽くしただけ。「自分そういうのやったことないんでお断りします」って言えちゃう人、芸能界の頂点きわめた大御所クラスでもない限り、日本社会ではそうそういなくないですか?では事務所が問題?いや事務所も「是非とも!」と依頼されて引き受けただけですから。そんなキャスティングした配給会社が問題?いや、そうやってでも話題作りしないと洋画人口ますます減ってっちゃいますから。では、どこが、何が、誰が問題なのか!?

選択肢がタレントふきカエ版しか無いとしたら、それは少々問題かもしれない。かつては民放TV洋画劇場が、ワタクシの時代でも木金土日と週4日もやってた。村野武範版ジョン・マクレーン気に入らん、『バック・トゥ・ザ・フューチャー1』のWユージ合ってない、という人は、数年の差で、他局がちゃんと野沢那智版作ったり、三ツ矢&穂積版作ったり(さらに何十年も経ってから奇跡的に宮川一朗太&山ちゃん版作られたり)してたので、そっち見れば済んでたんです。当時は何の問題も不満も無かったんです。そう、これって本質は、選択肢の問題だったのです!選択肢さえ供給されてれば問題も不満も生じないのです。

選択肢を、誰かが、供給しなければならない。かつては民放TV洋画劇場が各局独自に供給してました。ただ、今やTV洋画劇場はほぼ無くなり、新録では唯一ダークボ大先輩のBSテレ東さんが獅子奮迅、孤軍奮闘でやられているばかり。

CSでは、ウチが供給しましょう、今後も!

そして、2015年前後から懐かしTV洋画劇場の音源発掘作業に参戦してきたBS・円盤・CSの各社さんよ、次はこれ、やりませんか?オフィシャルの壁は、有る作品もあるし無い作品もある。やってみなけりゃわからない。でも、誰かが蹶起し別の選択肢を供給せねばならぬ作品って、まだまだまだまだ日本には沢山あるでしょう?各社で新録ふきカエ作りましょうよ、いやマジで。

なぜならワタクシ、実は、ザ・シネマを離れることになりましたもので!以降は、誰か、やってくれ!任せた!!(次回へ続く)