吉田Pのオススメふきカエル

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『懐かしふきカエ洋画劇場』

…えー、タイトルだけ見ると今月も飯森氏の担当かと思われるでしょうがすいません吉田です。
真夏の狂騒が台風と共に過ぎ去り、夏休みの敗者復活戦のようだった大型連休も終わって、本格的に落ち着いた秋がやって来ました。
日頃は劇場公開される吹替え作品をお薦めしている当コラムですが、たまには秋の夜長にお家でじっくりと吹替えの名盤(それもちょっと懐かしいやつ)を御鑑賞いただくのも良いかと思いまして、長谷川・飯森両氏と被り気味になるのを承知で(お二方すみません)、いくつか御紹介させていただこうかと(ハイそこ、ネタがないんだろうとか言わない)

  『博士の異常な愛情』

吹替洋画劇場 コロンビア映画90周年記念『博士の異常な愛情』デラックス エディション(初回限定版) [Blu-ray]

 
吹替洋画劇場 コロンビア映画90周年記念
『博士の異常な愛情』
デラックス エディション(初回限定版) [Blu-ray]

監督:スタンリー・キューブリック
出演:ピーター・セラーズ ジョージ・C・スコット
1964年:コロンビア映画
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鬼才スタンリー・キューブリックが遺したポリティカル・サスペンスの名作。正式には「博士の異常な愛情」の後に「…または私は如何にして心配するのを止めて水爆を愛するようになったか」というおっそろしく長い題名が続きます。

米ソが睨み合っていた冷戦時代、精神に異常をきたしたアメリカ空軍の司令官が基地を占拠し、ソ連への核攻撃を命令してしまう。さらに、もしソ連国内が核攻撃されれば自動報復装置が働き、世界中に核ミサイルが降り注ぐという事実が判明。米ソ首脳や軍の関係者たちが必死に回避策を探る中、核爆弾を積んだ爆撃機は通信を遮断され帰投命令を受信できないまま、刻一刻と投下地点へ近づいていく…

真面目に作れば手に汗握るサスペンスになる物語を、キューブリック監督は痛烈な風刺を交えて全編をブラック・ユーモアで描きました。そこで登場するのは稀代の名優、今は亡きピーター・セラーズ。なんとアメリカ大統領、イギリス空軍の大佐、そして元ナチスの核物理学者にして今は米軍科学顧問であるストレンジラヴ博士(題名の由来ですね)を、ひとり三役で怪演しているのです。

この作品、過去に二度吹替え版が作られていて、今回のブルーレイにはその両方が収録されています。まずは1971年、日曜洋画劇場での放送版。こちらはセラーズの三役にそれぞれ別の声優を配し、大統領に中村正、空軍大佐に愛川欽也、ストレンジラヴ博士に大塚周夫、という布陣で制作されました。それぞれにハマリ役なのですが、中でもラストシーンの大塚氏の芝居は『続・夕陽のガンマン』と並んで、「映画のラストを締めくくる大塚周夫の絶叫シーン」として吹替え史に永遠に残るでしょう。

そしてもうひとつのバージョンは、後年DVD用に制作されたノーカット版。こちらではオリジナルに忠実に、山路和弘氏が三役を一人で吹替えています。私も制作担当として収録現場に立ち会いましたが、さすがは演技派の山路さん、オリジナルを凌駕する勢いで三役を見事に演じ分けたのでした。よっ!大統領(+ほか二役)!

 『サイレント・ランニング』

サイレント・ランニング ユニバーサル思い出の復刻版 ブルーレイ [Blu-ray]

 
ユニバーサル思い出の復刻版
『サイレント・ランニング』
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監督:ダグラス・トランブル
出演:ブルース・ダーン
1972年:ユニバーサル映画
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日本では当時劇場未公開だった異色のSF映画。しかし監督が「2001年宇宙の旅(の特撮担当だった)」ダグラス・トランブルで、SFXが「SWとスタトレを両方やってる」ジョン・ダイクストラという、SFマニアなら吃驚仰天のスタッフによる佳作なのです。加えて脚本は「天国の門(で映画会社を倒産させちゃった)」マイケル・チミノ。

未来の地球は環境汚染を防ぐため気温も全て人口管理され、植物が自生できない環境になっていた。僅かに残った植物は保存計画により、宇宙船に繋がれた温室ドームに移植されて土星の軌道を周回している。そこでは植物学者のフリーマン(ブルース・ダーン)をはじめ僅かな人数のクルーと三体のロボットが、地球から遠く離れて植物を育てる孤独な任務についていた。ある日地球から「計画変更に伴い植物を全て廃棄して帰還せよ」との命令が届く。同僚たちは喜ぶが、植物を心から愛するフリーマンは同意出来ない。苦悩の末、彼はある決断をする…

この作品が劇場で公開されなかった理由は一目瞭然、「とにかく地味だから」。 無理もありません。“SF映画”なのに宇宙人もモンスターも登場せず、ブルース・ダーンが一人、じょうろで草花に水をやってるわけですから。なんだこりゃNHKの「趣味の園芸」か、ぐらい言われても仕方ない。
しかし後年、日曜洋画劇場で放送された際に初めて本作を観た日本のSF映画ファン(私もですが)は、その静かな佇まいの中に込められた力強いメッセージと、シンプルでありながら精緻を極めた特撮技術に、別の意味で「なんだこりゃ!?」と驚き、感動したのです。

主役のブルース・ダーンを吹替えたのは中田浩二氏。優しい物腰に強い意志を秘めた孤高の植物学者にはまさに適役です。その他にも数人の出演者はいるのですが、全員序盤で退場してしまい、残るのは主役だけ(ロボットはしゃべらないので)。収録現場を想像するに、出番を終えた声優の皆さんが「じゃお先にー」と段々減っていき、後は中田氏ひとりがスタジオに残って孤独なアフレコが続いたんでしょうなあ。しかしその光景こそ、主人公が孤独に任務を続ける本作のテーマにはふさわしいと言えるでしょう。

本作はテレビ放送時に『SF巨大宇宙ステーション』なる邦題が付けられておりました。何しろ日本未公開ですから誰も元のタイトルは知らないし、まんま『サイレント・ランニング』でマラソンの映画と間違われてもなあ、と(←いや全くの想像ですがw)こんなタイトルに決まったと思われます。
で、この吹替え版は昔弊社で制作したのですが、その放送タイトルのままで記録を取ってあったため、今回のブルーレイ収録に際してメーカー様から連絡をいただいた弊社の若手スタッフが最初「サイレント・ランニングですか?…(ごそごそ)…ウチでは作ってないみたいですねー」と答えてしまうという事態が。だからそういう古い話はまず俺に聞きなさいってのw

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紙幅が尽きてしまいましたが今月リリースのブルーレイといえばこれも!
何も言わずにとにかく見なさい!V8!V8!

 
 
 
 
 
[各作品画像はAmazon.co.jpより]