飯森盛良のふきカエ考古学

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ここまで踏み込んでいいのか!?ふきカエ放送のソロバン勘定を満天下に晒しちゃいます!!の巻

春ですねぇ。新しいことにチャレンジせねば!なので今回は、まだ放送が全く決まっていない白紙のことについて書くという、新たなことを始めたいと思います。我ながら無茶すんなぁ…。

その白紙の作品のタイトルは『愛すれど心さびしく』。1968年のアメリカ映画です。これ、4月末から字幕版の放送は始めてしまいます。映画.comさんやKINENOTEさんに告知してもらい、いろんなところで折に触れ放送を案内してきましたので、すでにご存知の方も多いはず。そのふきカエ放送の方が白紙なんだけど、現状どうなっているかを全部この場で晒しちゃおう、というのが、この春の新趣向なのであります。今回はこの映画の話ワンテーマでいかせてください。

ということで作品紹介。ウチのホームページからコピペ。

愛すれど心さびしく

【監督】ロバート・エリス・ミラー
【出演】アラン・アーキン、ソンドラ・ロック、ステイシー・キーチ、ローリンダ・バレットほか
【解説】1960年代後半の青春映画ならではの、みずみずしさと物哀しさ。そして、政治の季節の熱気をも閉じ込めた、まぼろしの傑作。
【あらすじ】聾唖者のシンガーは同じ聾唖の友達と共同生活し支え合って暮らしていたが、その友達には知的障害があり器物破損事件を起こしてしまい、医療保護入院させられる。独りになったシンガーは下宿を借りることに。下宿先は大黒柱の父親が怪我で当面働けず、仕方なくティーンエイジャーの娘の部屋を賃貸しすることになった貧しい一家。貧しさから将来を悲観する娘にシンガーは無言で慰めを与えるうち、2人は心の絆によって結ばれていく。

とまぁ、こんな映画です。

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字幕版の『愛すれど心さびしく』は、先日からもう放送が始まっております。これは「ザ・シネマSTAFFがもう一度どうしても見たかった激レア映画を買い付けてきました」という特集にて取り上げる作品のうちの1本。読んだまんまの企画趣旨ですが、さらに蛇足でみなまで言うなら、

「DVD化されていないから、VHS時代にレンタルビデオで見たのが最後。でもこの映画、生涯ベストのうちの1本というぐらい好きなんだ!そんな個人的すぎて熱すぎる想いから、作品を買い付けてきちゃいました!日本中の皆さんにもこの傑作を知ってほしい!!」

というマインドでお届けする企画なのであります。「DVD化されていない」、今や見ようと思っても見れない、ということが企画のキモなのですが、実はこの『愛すれど心さびしく』だけは、一応DVD化されているんです。

TSUTAYAさんがやられている「復刻シネマライブラリー」というサービスで、今でも入手可能ではあるんです。ただこのサービス、そのサイトからコピペしてくると、

「お客様のご注文を受けてからDVD工場で生産する「オンデマンド」サービスです。」
「シャープ社製のDVD再生機器(ブルーレイ再生専用機、ブルーレイ録画機含む)は、ほとんどの機種で本商品の視聴ができません。」
「パソコンでの視聴に関しては通常のDVDと同様の動作を保証いたしかねます。」

と、ちょっとドキッとすることが書いてある。まぁ、ワタクシ実はこのDVD持っており、東芝のバルディアでは問題なく再生できてますけどね。

それ以上に、Amazonのカスタマーレヴューでは、「画質が悪い」とかなりケチョンケチョンに言われてるんですが、これはおかしい。ワタクシが持ってるDVDは普通にキレイですよ?60年代の35mm映画の比較的まともなマスターから作ったDVDだな、という印象で、叩かれるほど汚くは全くない。

もしかしたら昔は汚いマスターからダビングしてたのかもしれませんね。その頃に書かれた「画質悪い」というレビューが未だにAmazonに残っていて、それ見てユーザーが買う/買わないを決めちゃってるのかもしれませんけど、それではちょっとTSUTAYAさんが可哀想なので、一銭ももらってはいないんですが同業のよしみで思わずフォロー入れさせてもらいました。まぁ、一銭、と言わずお幾ら万円かくださると仰るならば、決して拒むものでもありませんので、その場合は、ふきカエル大作戦!!さんの方まで連絡ください。

ただ「シャープではかからない」とか「パソコンでは動作保証しかねる」とか、いろいろドキッとするのも事実ですので、ウチが吹聴している「なかなか見づらい状況になっちゃっている激レア作」ということは、決してウソではない。ただ、厳密にはウソだろと言われると困るので、さらにふきカエまで放送しちゃおう、これはそのDVDにも入ってない、本当に掛け値なしの激レアです!という訳で、ふきカエを手配しているのであります。

愛すれど心さびしくこれはワタクシの手元にすでにテープも台本も届いていて、台本の表紙を見ると昭和51年3月28日に日曜洋画劇場でやったものと明記されている。聾唖者が主人公なので、アラン・アーキンがアカデミー主演男優賞ノミネートの好演を見せた主役のシンガーには、日本人声優が立っていません。劇中シンガーが声を発するシーンは1シーンのみ(重要かつショッキングなシーン)なのですが、そこはアラン・アーキンの地声のままのようです。

ヒロインのソンドラ・ロック(これがデビュー作!)に山本嘉子さん。頑固な黒人医師に高塔正康(正翁)さん。その娘に此島愛子さん、酔っ払いのステイシー・キーチに寺島幹夫さん、という往年の名声優がズラリと並ぶ。
 

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さあて、こいつが手元に届いた。さすがに味わい深いふきカエです!皆様にもお聞かせしたい!! これを夏ぐらいまでには放送したいと思っていて、今、絶賛確認作業中です。まず作業のカネはかかる。これはしょうがない。いつもかかっている分ですね、昔の、昭和の頃のズタボロのテープ(これはTSUTAYAさんの例のサービスと違って本当に汚いです!)から音だけいただいてきて、キレイな絵に乗せかえる。できればHDの絵がよくて、HDで字幕の入っていない英語版テープを絵の元素材用にと海外から取り寄せたんですが(字幕版の上から日本語ふきカエの音をかぶせたら変ですからね、午前中の韓流ドラマみたいで)、この作品は海外の方でHD化がされてないということで、SDになっちゃいました。SDの絵の上にふきカエ音声を乗せようとしています。

とはいえ、十分キレイですよ?元の昭和51年のテープに比べたら1万倍ぐらいはキレイです! TSUTAYAさんのDVDと同じぐらい(もしかしたら、あちら様と同じマスターを使っているのかもしれません)。「HDはキレイだけどSDは汚い」と、そんな単純に割り切れるもんでもなくって、キレイなマスターから作られたSDはキレイなマスターから作られたDVDと同等の画質なのです。最近レンタル屋に並んだばっかりの最新作のDVDなら、SDだからって画質が汚いなんてことありませんよね?普通に気にならない程度にキレイでしょ?DVDかBDか、HDかSDかということより、映画の場合はどんなクオリティのマスターから起こしているかの方がよっぽど大きいのです。汚いマスターから起こしたBDなんて、BDなのに汚いということだってありますよ?キレイなマスターから起こしたDVDの方がよっぽどキレイだったりする。

さて、大抵はこのHD化の作業に一番コストがかかる。が、今回、確認で止まっちゃっているのが、「転用費」というものです。これが判明しないと放送にGOが出せない。

何を「転用」するのか?というと、翻訳です。翻訳者の人が、例えば40年前に「日曜洋画劇場のために洋画を翻訳してください」とか25年前に「ふきカエ版VHSをリリースするんで邦訳して」と頼まれたとします。その当時はCSとかザ・シネマとか、そんなもんは一切存在しない。それが何十年か経って、今、ワタクシがその方の血と汗の結晶である翻訳をそのまんまテレビで流そうとしている。「それはタダって訳にはいかないよね!?」というのも至極当然なのであります。地上波とかVHSから、CS放送に、その翻訳を「転用」させてもらうためのコストが「転用費」です。

まぁ、だいたい相場ってものがありまして、これは、一般社団法人 日本音声製作者連盟(ここ、ふきカエル大作戦!!をやられている団体のうちの一つで、「アニメの音響制作と外国映画や海外ドラマの日本語版制作をする企業の業界団体」のこと)さんと協同組合日本脚本家連盟さんで団体協約を結ぶんで、それで相場というか、取り決めた額というものが決まっておるのです。

相場があるので、試算して年間予算もとってあるのですが、特別な事情により日本脚本家連盟さんに所属していないような人が翻訳されてたり、なんか高名な先生だとか有名お笑い芸人さんとかが翻訳監修してたりしたら、その限りではなくなっちゃいます。例えば1億とか、払えないような金額を放送した後から言われても困る訳です。なので放送するかどうか決定する前に、この「転用費」が幾らなのか、相場ぐらいなのか、という確認は欠かせないのであります。で、この返答がまだ届いていない。これが1億だと言われたら、今回の放送は飛んじゃいます。まぁ、そんな芸人さんとかが絡んでくるような作品ではないので、まず本作に関しては九分九厘そんな事態にはならないで済むはず。

ということで、マトメです。今回、『愛すれど心さびしく』の40年前の日曜洋画劇場版のボロボロテープから音をキレイな(SDだけどキレイな)無字幕英語版の絵に乗せて“キレイ画質ふきカエ”を作る上での諸コストは、毎度のことなので年間の予算で押さえているから大丈夫。これは毎回同じぐらいの額なので想定の範囲内。翻訳転用費はおそらく相場の額しかかからないだろう、ということで、おそらくは予算上、放送できそうなムードなのです。多分、突然1億払うことになった、というような潜在要因は、どこにもない作品だと思っております。

が、わかりません。もうテープまでワタクシの手元に来ていて、すでに試写・視聴できており、「これは結構なものですぞ」とまで判っているので、これでひっくり返るとしたら、ワタクシにも予測不能の事態が起きること以外はありません。

待てど暮らせど『愛すれど心さびしく』ふきカエ版をウチがやらない場合は、「とんでもない落とし穴があったな」と思ってください。そして当チャンネルのFacebookをご覧ください。今後の進捗はそちらにてご報告していきます。

最後に。この作品を含む「ザ・シネマSTAFFがもう一度どうしても見たかった激レア映画を買い付けてきました」という特集にて取り上げる6作品について、ワタクシ、映画ライターなかざわひでゆきさんとトークさせていただいておりまして、それがココです。本作に関してはネタバレ全開の内容ですんで、すでに見た方専用ですが、なかざわさんがその中で、

「この作品は手話のシーンでいちいち説明を入れませんよね。ろうあ者同士が手話で話をするシーンでも、恐らく日本映画だったら字幕スーパーを入れたり、もしくは会話の内容を観客のために訳する第三者を登場させたりすると思うのですが、この作品では一切説明しない。あくまでも観客の想像力や読解力に任せている。そこは素晴らしいと思いました。」

と仰っている。ワタクシもそれについ乗って「ですよね〜!」的な相槌を打っているんですが、なんと!開けてビックリうちに届いたふきカエ版には字幕が入っちゃってたんですねえ!昭和51年の日曜洋画が入れちゃってた。

まぁ、手話だけのシーンってのが合算するとけっこう長く続く映画なんで、これはテレビとしては字幕を入れないと、なかなかテレビ的な間が持てない、ということがあって、当時のふきカエ版制作に携わられたテレビマンの方が字幕を入れたんだろうと思うんですよ。そういう“テレビならではの事情”まで否定するものではありません。私も同業者としてその事情はよく解る。子供もおじいちゃんおばあちゃんも見てる、相手はお茶の間だ、っていうのが、映画館にかかってた時と違う、テレビならではの事情ですからね。

あと、その字幕の書体が、なんとも味わい深い、昭和の匂いのする手書き書体なんですよ。それも込みで、たいへん味がある。

ということで、当ザ・シネマでもふきカエ版放送実現のあかつきには、手話部分に字幕を付けて放送しようと思ってます。なかざわさんゴメン!でも解ってね。でその場合、機械的にフォントで打ち込めば話は簡単なところを、何をトチ狂ったか、この昭和51年のテレビ版と似た感じの手書き文字を手でわざわざ書くことにあえてトライしようと思ってます!しかもワタクシ自らが!!こんな仕事を受注してくれる先がないんで。どんな会社やデザイナーに発注すればいいのか、まずそこからして見当もつきませんから自分でやります。

スンマセン、やってみたら無理かもしれません…。そもそも、字幕の部分だけが“レイヤー”になって別れている、なんて好都合なことはなくて、絵と一体になってしまってますので、すべての字幕箇所で一時停止して似せて紙に書く、それをスキャンして、“キレイ画質ふきカエ”を作る作業をしているとこに持ち込んで、字幕はこの手書きを使ってくれ、ということをやらねばなりません。

ああいう手書き字幕って、何で書いていたのでしょうか?万年筆なのかサインペンなのか…。おそらく筆記具が違うだけで、あの雰囲気はもう出なかったりするかもしれないので、トライ&エラーを繰り返し、極力、似たムードを漂わせたい!あの昭和51年の匂い込みで放送を実現したい!と今の時点では考えております。

はてさて、どうなることやら。

放送が実現し、見てみて普通にゴシックか何かのフォントになってたら、ワタクシが散々トライ&エラーを繰り返した挙句、手に余ってついに匙を投げたんだろうなと、ご憫笑ください…。