吉田Pのオススメふきカエル

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『“悩まぬ”ヒーロー、見参(ヒャッハー!)』

「…またスパイダーマン?これで何度目だよ」
「そこまでじゃないだろ。少なくとも金曜ロードショーでナウシカを放送した回数より少ない」
「十分多いわ」
「いやでも今度のスパイダーマンは今までのとは全然違うんだって」
「ホントに?じゃどういう話なの」
「蜘蛛に噛まれて伯父さん殺されて」
「またそっからかい」

『スパイダーマン:ホームカミング』

吉田Pのオススメふきカエル
8月11日より 全国にて公開
監督:ジョン・ワッツ
出演:トム・ホランド ロバート・ダウニー・Jr
配給:ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
公式サイト:
spiderman-movie.jp

『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でアベンジャーズの戦いに参加したスパイダーマン(ピーター・パーカー)の素顔は、15歳の普通の高校生。放課後は憧れのアイアンマン(トニー・スターク)からもらった特製スーツに身を包み、NYの街をパトロールする日々を送っていた。そんなある日、スタークに恨みを抱く宿敵“バルチャー”が巨大な翼を装着し、NYを危機に陥れる。「アベンジャーズに任せておけ」と言うスタークの忠告も聞かず、ピーターはたった一人で戦いに挑むが…

 
…というのはマクラに振った冗談なので真に受けないように。さすがに今回は蜘蛛やら伯父さんやらの前振りはスッパリ省略して、スパイディは冒頭からもうNYの街を跳び回ってます。まあ前回の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』でお披露目は済んでますんでね。
でも“今度のスパイダーマンは今までのとは全然違う”というのはホントの話でありまして、何が違うって今回のスパイディはスパイダーマン映画史上、いや近年のアメコミ映画史上類のない“悩まない”ヒーローなのです。

じゃあ“近年のアメコミ映画”ってのはどっからなのか、という話になりますが、自分としては1989年に始まった『バットマン』シリーズ全4作から、と考えます(もう少しさかのぼると1978年からのクリストファー・リーブ版『スーパーマン』全4作(+『スーパーガール』)があるのですが、これはアメコミ映画というよりは、当時世界中を席巻していた『スター・ウォーズ』や『スター・トレック』に連なる“SF大作映画”のカテゴリーに入るでしょう)。

その“近年のアメコミ映画”の最大の特徴が、“悩めるヒーロー”。前述の『バットマン』だって何せ監督がティム・バートンですから、出てくるキャラは善も悪もみんな何かしらトラウマを背負った“異形の者”ばかり。むしろ悪役たちの方がそのトラウマが破壊衝動として外に向いてるだけマシで、それに立ち向かうバットマンの方は「俺のやってるコレは本当に正しいのか?」とずーっと悩んでるわけです。その証拠に、バットマンシリーズで高笑いするのはいつも悪役たち。バットマンは全作を通してニコリともしません。辛いなあ。
しかしその辛さは、ともすれば見世物として軽く見られてきたアメコミ映画に「作品としての格を与える」ために考え出された、いわば戦略でした。その戦略は見事に成功し、DCコミックス映画はその後遂にクリスファー・ノーラン監督の『ダークナイト』という、映画史上類のない大傑作を生みだすのです。

その流れはアメコミ映画のもう一方の雄であるマーベルコミックスも同じで、2002年に公開されたサム・ライミ監督版『スパイダーマン』一作目のキャッチ・コピーは「大いなる力には、大いなる責任が伴う」。うわあ。重い。勘弁して。と言いたくなりますが、主人公の高校生ピーター・パーカーの成長譚でもあったライミ版三部作において、実はこのテーマは不可欠なものでした。しかし大いなる責任の重圧にピーターが何とか耐え抜いた三作目でシリーズはリセット。『アメイジング・スパイダーマン』としてリブートされ、ピーターは再び苦難の道を辿らされてしまいます。
主役も(どことなく愛嬌のあった)トビー・マグワイアから(どうも悲壮感がついて回る)アンドリュー・ガーフィールドへと交代し、二作目では愛する人を救えず悲嘆にくれるピーターの姿でシリーズ終了、という救えない展開に。うそーん。

さて。そんな経緯を経て、三度のリブートとなった『スパイダーマン:ホームカミング』。本作が過去のシリーズと決定的に違うのは、最初からMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)の一環として作られているところ。この世界ではスパイディの誕生以前から、既にアイアンマンやらキャプテン・アメリカやらがブイブイ言わせてる、という設定なのです。

自分の力を誰にも打ち明けられず孤独に悩んでいた前任者たちと違い、今回のピーターには頼りになるお師匠さん(トニー・スターク=アイアンマン)がついている。となれば彼の役どころも「そんな先輩たちの仲間に入りたくて仕方ない若造」となるわけで、そもそも悩む必要がない。「見て見て!俺こんなこともできんのよ!」と屈託なく跳び回る姿を前任者たちが見たら、きっと「俺の青春を返せ!」と悔し涙に暮れることでしょう。

タイトルにある「ホームカミング」とは、高校の卒業生たちが帰郷してくるのを在校生や地元住民が一丸となって迎え、スポーツの対抗試合やダンスパーティーを開催するという、いわば地域のお祭りのようなイベントのこと。本作の主人公ピーターもご近所の泥棒を退治したりする“地元のヒーロー”なので、その辺を象徴したタイトルなわけですね。劇中のピーターはそんなローカル・ヒーローに飽き足らず「僕もアベンジャーズに入れてよ!」とスターク師匠に訴えて、「お前にゃまだ早い」と一蹴されたりするのですが。

そんな本作なので、登場する悪役“バルチャー”も、過去のアメコミ・ヴィランたちとはちょっと趣が違います。見た目こそ禍々しいですがその素顔は地元零細企業の社長。「ウチの商売が立ち行かなくなったのは政府や大企業のせいだ!」と激怒して、自ら開発した飛行スーツを身に着けて悪行に及ぶわけですが、目指すのは世界征服とかじゃなくて「従業員たちの生活を守ること」。ほとんど池井戸潤『下町ロケット』の世界ですよ。町工場の社長の阿部寛が銀行マンの香川照之に土下座して融資を頼む代わりに「ふざけんなコノヤロー!」と空を飛んで殴りこみに行くんだと思っていただければ(すいませんあまり詳しくないのでいろいろ混ざっちゃってます)。

そんなこんなで非常に楽しい映画になっている本作ですが、もうひとつ嬉しいのが吹替え版の声優陣。前作『シビル・ウォー』でチョイ役だったピーター・パーカーを吹替えた榎木淳弥氏が本作でも続投、ただし今回は堂々たる主役を張っているのです。
そりゃ同じ役なんだから当たり前と言えばそれまでなんですが、特にこういった大作になると往々にして実績とかネームバリューとかいろんな“オトナの事情”ってやつが絡んできて、その当たり前がひっくり返ったりすることも無きにしもあらず、なのですね。
そんな中で、伸び盛りの若手声優が洋画の大作で主役を張るというのは、作り手としても嬉しい限り。劇中のピーターと同じく、師匠であるアイアンマン=藤原啓治氏の薫陶を受けて、大きく羽ばたいてほしいと切に願います。

今回の新生スパイダーマンの参入で、MCUはいよいよ次のステージへ。あの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の面々もチームに加わる『インフィニティ・ウォー』(来年4月公開)を経て、ついにアベンジャーズ・サーガの完結編へと展開していきます。地元のヒーローから世界の、そして全宇宙のヒーローへ。期待は膨らむばかりです。乞うご期待。

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あ、こっちのスパイディも悩んでなかった。