飯森盛良のふきカエ考古学

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世の中には、どうしてもふきカエで見ねばならぬ映画というものがある~『アウトロー』とかね編~

今年の夏と言えば『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』が大いに注目ですが、うちのチャンネル ザ・シネマでは、『アウトロー』を7/18(土)字幕、7/19(日)ふきカエで放送します。ということで、ぜひ、『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』公開前に、事前にご視聴ください!

…なにが「ということで」なのか説明いたします。この2作、主演と監督が同じなんですな。どちらもトム・クルーズ主演は言うに及ばず、監督もクリストファー・マッカリーという人で同じ。そしてこの『アウトロー』という映画、近年まれに見るどエライ傑作アクションとして、公開時ちょっと評判になりましたので、ぜひ、最新作『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』公開直前に、まだ見てない方は見といた方がいいですし、見た人はもう一回復習しましょう、という意図での放送になります。

7/19ふきカエ放送の方は、もちろん帝王・森川智之さんによる鉄板のFIXふきカエ。今回当チャンネルでは、『アウトロー』関連の番宣CM各種などでもナレーションに森川さんを起用しております。さらに、それにあわせてここ「ふきカエル 大作戦!!」にも、なんと帝王のインタビューが掲載されてます!『アウトロー』に限らず、トム・クルーズについて、ふきカエ全般について、キャリアについて、そして声優志望の方へのメッセージまで、幅広くお話いただいておりますので、ぜひそちらのページもご覧ください。

さて、森川さんもそのインタビュー中で「ふきカエの長所は字幕より情報量が多いこと」とおっしゃってますが、まさにおっしゃる通りでして、そして、『アウトロー』という映画こそ、そういう意味でも、ふきカエでご覧になることを強くお勧めしたい作品なのであります。

ある無差別狙撃事件をめぐるサスペンス・ミステリ・アクションといった映画なのですが、その事件の真相に迫っていくシークェンス。ここは、是非ふきカエで見といてくださいね! 一見、病んだイラク帰還兵が起こした銃による無差別殺害事件かと思いきや、その裏にはある陰謀が…という事件の核心に、トム・クルーズ演じる主人公ジャック・リーチャーが迫っていく、中盤の見せ場の一つです。

推理するトムクルの顔と(現時点)、事件発生時の模様(物語の発端となる時点)、そして捜査のため事件現場を歩き回る数日前のトムの姿(現時点と発端時点の中間にあたる時点)が、複雑にカットバックしながら、そこにトムの(=帝王の)モノローグが被さり、核心に迫る推理が披露されていきます。上手いッ!こういう演出、アメリカ映画はほんっと上手いですなぁ〜。日本だと、2時間サスペンスのように、刑事が推理をベラベラベラベラ開陳してるのを容疑者もその他のキャラも微妙な面持ちでずっと拝聴してる(しかも刑事は両手を後ろ手に組んで容疑者に背を向けながら喋り続けてたり…)、という絵ヅラによくお目にかかりますが…本作のような、流麗なカットバック、編集の妙ってやつをまざまざと見せつけられると、「映画見てるな」ってリッチな気分に浸れますよね。

とは言え、このシークェンス、白状しますが、公開時に初見で見た時は、ワタクシ、話についていけませんでした。もちろん最大の問題はワタクシの頭があまり良くないことにあるのですが、もう一つ、「字幕は情報量が限られる」ってのも原因の一つであることは、間違いない。

会話主体の映画は、ふきカエで見るべきなんです。字幕ってやつには業界的にルールがありまして、1秒間に読ませられるのは4文字までと決まっとるんですな。そんなこちらの事情はお構いなしのアメリカの映画の作り手さんたちは、早口のキャラクターを登場させたり、立て板に水のように長ゼリフを喋るキャラを出したりしますけど、それを字幕では再現できっこないのです。そういうキャラだからといって、字幕の文字数を倍にして1秒間に8文字読ませるとか、4文字を0.5秒で読ませるといったことはルール上不可能です。それをやったら、ウチの場合ですと、視聴者から見たら放送事故に見えるはずです。こういう場合、字幕では、言ってることを端折って端折って端折りまくらないといけない。原語の“要約”にならざるをえないのです。

飯森盛良のふきカエ考古学
『(吹) アウトロー』 © 2015 Paramount Pictures. All Rights Reserved.
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なので、会話主体の映画はふきカエの方が適している、という結論になります。ワタクシよく、この話をする時には『JFK』を例にあげて、ああいう映画が典型的ふきカエ向き映画なんだ、ふきカエで見ないとむしろ内容理解に支障をきたす程なんだ、ということを主張しておるのですが、『アウトロー』のこの流麗なカットバックのシークェンスも、『JFK』同様に、典型的なふきカエ向き。ここはトムの独り語りの見せ場で、ふきカエでは帝王の聞かせどころでもあります。ぜひ、ふきカエで、7/19のよる9時からご堪能ください!

 

ところで、ここでの流麗なカットバック、編集の妙、この見事な技巧は、ある映画を彷彿させます。その映画こそ、まさしく『JFK』なのです。ケヴィン・コスナー演じるギャリソン検事が、クライマックス、法廷で論告求刑するシークェンス。法廷で熱弁をふるうギャリソン検事(現時点)と、ケネディ暗殺の事件当日の模様(物語の発端となる時点)、そしてギャリソンが調査の過程で蓄積してきた、様々な聞き込み情報や、築いてきた仮説(現時点と発端時点の中間にあたる時点)が、これまた見事なカットバックでつながっていき、その上にケヴィン・コスナーの(津嘉山正種さんの)独り語りの論告のセリフが被さるのですが、これぞ法廷サスペンス!これぞ会話劇!という、まさしく映画史に残る傑作。たぶん『アウトロー』、この『JFK』をかなり参考にしてるんじゃないのかなぁ〜、とワタクシ思うんですね。同じ上手さ・同じテク・同じ技巧にワタクシには見えるんです。このシークェンスの中で、ケネディ暗殺についてわざわざセリフで言及しているんで、たぶんこの見立ては当たっていると思います。これって元ネタをちゃんと、正々堂々と明示する、正しいオマージュの捧げ方でして、こういうところでも好感が持てる作品であり、好感が持てるマッカリー監督なのであります。

言い方を変えると、『JFK』ばりの会話劇、推理シーンが『アウトロー』には一箇所あり、『JFK』が好きだって人ならここは絶対に楽しめる、という見どころになっているわけですが、この映画、それだけではありません。それは全体の魅力のほんの一部に過ぎない。ふきカエと関係ないので手短に済ませますが、公開時によく言われた「70年代アクション映画のような雰囲気」なんかも、本作の大きな見どころでしょう。革ジャンにジーンズという70’sルックな主人公トムクルが、シボレー・シェベルSSのエンジンをブリンブリン唸らせながら市街地を爆走する、70’sライクなカーチェイス・シーン。本当に危なそうなカー・スタントを、真面目に、地道に、キチンとやる、ということで、このVFX当たり前・CG全盛時代に、逆にリアル&リッチな迫力を作品に持たせることに成功しているように思います。まだ誰も見たことのない絵ヅラの初出し表現にこだわる、良い意味で荒唐無稽な方向に振り切っている『ミッション:インポッシブル』シリーズや、カー・スタントなら『ワイルド・スピード』シリーズあたり(どちらも大好きですが)とは真逆の、地に足のついた古き良きアクション映画として、とにかく懐かしい!そして、これはこれで猛烈に良い!! オレたちのアクション映画が帰ってきたぞ!!!って感じなのであります。

あと、風呂場でトムクルが暴漢2人に襲われるという場面があるのですが、ここも個人的に大好きなシーンです。狭い風呂場でバットやバールをブン回し、狭すぎて仲間に当てちゃう半グレ襲撃者2人のドジっ子ぶりに思わずフイた!ほとんどスラップスティック・コメディ、というかドリフ大爆笑の域にまで達している。クリストファー・マッカリー監督、お見事な手腕ですな!

この手堅い監督、古い映画からベーシックな要素をいろいろと引用してきて、いつか見たようなオールドスクールな新作アクション『アウトロー』を物しちゃったマッカリーさん。今度は、まさに21世紀スタンダードを打ち立ててきた、新世紀アクションの代名詞的な人気シリーズ、まだ誰も見たことのない絵ヅラの初出し表現ということにこだわってきた『ミッション:インポッシブル』シリーズ最新作を、トムクルとの再タッグで放つというのですから、どうしたって期待は膨らむのです。『ミッション:インポッシブル』シリーズらしくケレン味たっぷりなド派手路線を踏襲し、さらにそれをバージョンアップさせてくるのか?それとも『アウトロー』で見せたオールドスクールな手堅さで攻めてくるのか?

『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』は8/7(金)全国公開。その前にウチのチャンネル ザ・シネマで『アウトロー』を7/18(土)字幕、7/19(日)ふきカエで放送しますんで、これは、事前に見るべし!でしょう!?(ちょっと今回は露骨に番宣すぎましたかねぇ…)
[⇒『アウトロー』吹替え版放送情報はこちら]