吉田Pのオススメふきカエル

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『美しきトレジャーハンター、誕生』

ついこないだ年が明けたと思ったら、あれよあれよという間に桜が咲いて、春が来てしまいました。4月は新年度の始まりの月。いろいろ新しいことに挑戦する機会も多いかと思いますが、ここにも一人、新しい挑戦を始める女性がいます。それも、常人には思いもつかないような危険な方法で。

『トゥームレイダー ファースト・ミッション』

3月21日より公開中
監督:ロアー・ウートッグ
出演:アリシア・ヴィキャンデル ウォルトン・ゴギンズ
配給:ワーナー・ブラザース映画
公式サイト:
wwws.warnerbros.co.jp/tombraider/

資産家で冒険家の父リチャードが行方不明になって7年。ひとり娘のララ・クロフトは、父の残した秘密の暗号を解き、父が日本の古代の女王ヒミコが葬られたという絶海の孤島に向かったことを知る。ヒミコの呪いが解かれれば世界は存亡の危機に陥ると知った父は、その力の悪用を企む者たちから秘密を守ろうとしていたのだった。それを知ったララは、トレジャーハンターとして父の残したミッションを遂行するため、香港の船乗りルー・レンの協力を得て島を目指すが…。
→話題のふきカエ:『トゥームレイダー ファースト・ミッション』

 
アクションRPGゲーム『トゥームレイダー』の一作目が日本で発売されたのは今から二十年前、1997年の2月。それまでは男性が主だったアドベンチャー・ゲームの主人公をララ・クロフトという女性に設定し、舞台となる古代遺跡やジャングルをリアルなグラフィックで構成。多彩なアクションでスリリングなミッションをクリアしていくゲーム・システムが評判となり、世界中で大ヒットとなりました。
かくいう私も当時ハマった一人でありまして、道を歩いていても「あそこの塀をよじ登ればてっぺんから向かいの屋根へジャンプできるな」とか「あのビルの屋上にはシークレットアイテムが隠されているに違いない」みたいなことばかり考えてしまい、そちらに気を取られて目の前の電柱にぶつかったりしていました。ダメじゃん。

ここまでヒットしたゲームを映画業界が放っておくはずもなく、さっそく映画化の企画が始動。アンジェリーナ・ジョリーを主役に作られた映画版『トゥームレイダー』は2001年に公開され、日本でも興行収入27億円を稼ぐ大ヒットとなりました。これを受けて2003年には続編の『トゥームレイダー2』が製作・公開されています。

この『トゥームレイダー』二作に主演した時のアンジーはまさにスーパーウーマン。その後『バイオハザード』のミラ・ジョヴォヴィッチや『アベンジャーズ』のスカーレット・ヨハンソンへと連なる“強い女”の先駆けと言えるでしょう。鍛え上げた肉体で超人的なアクションをこなし、バイクで疾走しながら二丁拳銃を撃ちまくるその勇姿は、ジェームズ・ボンドでもここまでは無理でしょと思わせるド迫力。007映画ならボンドガールに当たる相手役に男性俳優を配して、鮮やかな男女逆転の構図にもなっていました。そう考えると、『トゥームレイダー2』で相手役を務めたのが後のジェームズ・ボンドであるダニエル・クレイグだったというのがちょっと面白い。

映画版の『トゥームレイダー』旧二部作が成功した要因には、女性を主役にしながらも “女性らしさの発露”を極限まで排した、ということも挙げられます。もともと筋肉質だったアンジェリーナ・ジョリーはララ・クロフトを演じるために更なる肉体改造を決行。身にまとうのがボディラインを強調した衣装なのにもかかわらず、その中身がまるでサイボーグのような鋼の肉体なので、セクシーのセの字もなし。そんな彼女が顔色一つ変えずに男どもをバッタバッタとなぎ倒していく様に、見ているこちらは「ふぇ~」と感嘆するしかありませんでした。

それから時は過ぎて2018年、トゥームレイダーは装いも新たにリブートされました。若き日のララ役に抜擢されたのはアリシア・ヴィキャンデル。スウェーデン出身の彼女はバレリーナから女優へ転身、2015年の『エクス・マキナ』で美貌のアンドロイドを演じて多くの映画賞を受賞。その後『コードネーム U.N.C.L.E.』を経て、『リリーのすべて』で見事アカデミー賞助演女優賞に輝きました。そんな演技派の彼女が、本作では一転して激しいアクションに挑戦。バレエで鍛えた身のこなしに10か月にも及ぶトレーニングを加えて、華麗な技を見せてくれます。

ただし本作が旧シリーズと違うのは、これがララ・クロフトの最初の冒険であり、いわば“トゥームレイダー:エピソードゼロ”だということ。もともと身体能力は高くジムに通って鍛えている設定とはいえ、映画序盤でのララは一介の女子学生に過ぎません。そんな彼女が父の足跡をたどるうちに様々な危機に襲われ、必死に切り抜けていく。泥まみれになって奮闘するその姿は、どんな危険もプロの余裕で切り抜けていた先代のアンジーとは全く違う、リアルなアクション感に溢れています。

日本語吹替え版でララを演じるのは甲斐田裕子さん。昨年の『ワンダーウーマン』から続き、今回も“闘う女”を演じます。実は私も以前に、ゲーム版の通算16作目となる『ライズ・オブ・トゥームレイダー』の日本語版収録をお手伝いした際に“甲斐田ララ”と御一緒させていただきました。ゲームの収録は映画と違い、完成された映像がありません。わずかなト書きと台詞の内容から、いまキャラクターがどんな状況なのかを想定しつつ収録をしていきます。そんな手探りのような状況でも、「ここ、さっき飛び降りた後だからたぶん崖にぶら下がってますよね!」なんて調子でバシバシと台詞を当てていく甲斐田さん。映像が無くてもそこにララがいるかのような迫真の演技でした。

そんな甲斐田ボイスを得て、吹替え版ではララ・クロフトの魅力も倍増です。そしてもう一人、ララの前に立ちふさがるマサイアス・ヴォーゲルを吹替えるのが諏訪部順一さん。御存知の端正ながらイヤらしい色気のある低音で、単純な悪役ではない複雑なキャラクターを創り出しています。

パワフルだった先代からバトンを受けたアリシア・ヴィキャンデル。ハイテクな戦闘服ではない、汚れたタンクトップとカーゴパンツ姿で、不器用ながらも果敢に危険に挑み、謎を解いていきます。新生ララ・クロフトの活躍を、ぜひ劇場で。
 

【ライズ オブ ザ トゥームレイダー – PS4】
ライズ オブ ザ トゥームレイダー 【CEROレーティング「Z」】 - PS4
ハマっていたころ家人に「あなた夜中に寝たまま崖よじ登ってたわよ」と言われました