ナレーションは前途多難!? 山路和弘『ムービープラス「プレミア・ナビ」』インタビュー

ムービープラスで毎週土曜日に、ハリウッド大作や世界のヒット作をお届けしている放送枠「YKK AP ムービープラス・プレミア」。映画本編が放送される前の3分間に、作品の見どころや最新情報をお届けする「プレミア・ナビ」が10月よりリニューアルすることになりました。同番組でナレーションを担当するのは、ジェイソン・ステイサムの吹替えでおなじみの山路和弘さん。10月から12月にかけて、自身の吹替参加作品も多数放送される山路さんに、ナレーション、吹替え、演じてきた俳優、そしてご家庭の様子まで聞いてみました!
 
 
──ナレーションを収録されたご感想と、作品にまつわる情報を本編放送前にナレーションで伝えるという試みに関して、どう思われたかを教えてください。
 
山路和弘さん(以下:山路):元々、私はナレーションは下手なんです。それも、ものすごく(笑)。さっきも、「ナビゲーターは声優の山路和弘です」というところで「声優」を削除してもらったんです。なんというか「声優」というのもおこがましくなってしまったものですから。要は自信がなくて。しかもこういう情報番組は、やはり情報をお伝えする番組ですから。情報がたくさんあると、どんどんカタカナの洪水になっていくんですよね、外国映画ですからね。それがやはり……ちょっと前途多難かな、と(笑)。自分で今終わってみて、ややブルーになりかけかなと(爆笑)。何とか乗り切ってみせますね。
 
 映画が始まる前にこういう情報があると分かりやすいですし、「ちょっと観てみようかな」って気になると思うんです。責任重大だと思いましたよね。がんばりますという感じです。
山路和弘さんインタビュー
 
──決まった時間に放送する、いわゆる「編成」というものがあるテレビ番組になるんですけれども、「テレビで観るからこその映画の魅力」は何だと思われますか?
 
山路:昔はみんなそうだったじゃないですか。いわゆる「今度のいついつに、あの映画がテレビであるんだよ」と、みんながお茶の間に集まって観る。映画館に集まるような感じに近いものがあると思うんですよね。それはやっぱりいいなって思うのと、たまたま点けたチャンネルでとある映画がやっていて、元々は観るつもりはなかったのに、そのまま観ちゃう。昔はすごくあったんですけど、そういう効果もあるだろうなと思います。映画好きの裾野を広げる感じになるんじゃないですかね。
 
──ナレーションはこれまでにも情報番組などでも経験されてきたと思いますが、普段の吹替えのお仕事と違う点、それぞれ難しい部分や今回重点を置かれたことを教えてください。
 
山路和弘さんインタビュー山路:やはりナレーションは言葉を伝えるのが第一にあるじゃないですか。その点で少し神経質にはなりますね。普段とは違う何か余計な力を使いますから、役を演じるというのとは違う“頭のシビれ方”っていうんですかね、いつもと違う疲労感があるんですよね。
 
 役をやるときは、言葉が少々不明瞭でも大丈夫なときってあるんです。画があることで説明がつきますし、しかも雰囲気がありますから。でも、ナレーションの場合だとそれができないんです。どれだけちゃんと言えているかという技術的なことを、すごく問われる感じです。独特の疲労感があります。
 
──なるほど。ちなみに奥様の朴璐美さんは、ナレーションの仕事をとても多くされてるじゃないですか。今回のことについてお話しされたりはしたんでしょうか?
 
山路:そうですね、彼女は(ナレーション仕事も)多いですね。「ちゃんとやらないと叩くよ」って言われました(笑)。ちゃんと覚えて、滑舌もしっかりとしないといけないんですけど、私はそういうのは得意じゃなくて、あんまり優秀な声優じゃないから、とんでもないですよね。
 
──以前のインタビューでもおっしゃっていましたが、吹替えで演じられる役柄としては、少し崩れた、やさぐれた感じのキャラクターが多いですね。あのテイストがお得意なら、余計にきちんとしゃべらなきゃいけないというのはプレッシャーかもしれないですね、
 
山路:そうですね、それでも、あんまりダラダラし過ぎないで、もうちょっと分かるようにしゃべってくださいって言われることもありますよ。作品によりますが、本当にズルズルになっていくタイプが多いですね。
 
──ドラマや舞台にも出演されていて、アニメにも参加されてらっしゃいますが、「外国映画の吹替え」という声の仕事の魅力については、どのように感じていらっしゃいますか?
 
山路和弘さんインタビュー山路:吹替えるという仕事は何ていうんですかね……映画の画面を観ながら、自分が担当する役者と対峙しながらやるわけなんですが、ある種の“憑依感”があるんです。役者さんが自分に乗り移ったみたいな。二枚目の役ばっかりやってる方は、普段から段々(二枚目の俳優と同じように)そうなっていく可能性がありますよね。その辺は楽しさもあるし、恐ろしさもあるというか。普通に(顔出しの)役者として出演する場合においても、その辺が影響してくるとまずいなと思ったり、逆にそれを使わせてもらおうと思ったりもしますけどもね。
 
──吹替えで演じるにあたっては、事前にその俳優のことをすごくリサーチされるのでしょうか?
 
山路:昔でしたら「この役者だったら、必ずこの声優がやる」ということだったんですけども、最近は同じ役者でも、良い人を演じている場合はこの声優で、悪い人を演じているときはこの声優で、ということがありますから、その役者自身を研究しても仕方がないところがあるじゃないですか。ウィレム・デフォーが良い人の役をやるときは森田順平さんで、悪い役をやると私に来たりするってあるんですよね(笑)。ですから、その画面を観て、そのときそのときで変わっている役者の演技を見るという感じですかね。
 
 アニメはこれから自分で(キャラクターを)作っていくっていう感覚があるんですけども、映画の吹替えは、ひとつひとつその役者のリアクションをずっと追うわけなんです。セリフは「イエス」と言っているのに、今ここ首は横に降ったぞ、みたいなことがあったりするので、それを確認するのは割と大変な作業ではありますよね。作品をチェックしながら情報を集めて、それを台本に全部書き込む人もいます。私はあんまり書かないタイプではあるんですけど、もうギッシリの人もいますからね。そういう仕事だと思っています。
 
 面白い仕事ですよね。それこそ、向こうの役者をずっと見て、勉強させてもらえますからね。あの息の使い方とか、私は何十年間でそれを勉強させてもらった気がします。
 
──今回のナレーションでは、ご自身が吹替えに参加された作品の紹介もされています。自分で自分の参加作品を紹介するのはいかがでしたか?
 
山路:だいぶ慣れましたけどねえ……自分の参加作品を観るということ自体にだいぶ慣れたんですけど、いまだに少しこそばゆいところはありますね。しかも、それを自分で紹介するとなるともっと大変なんですが、自分の声が流れるわけじゃないから何とかいけるかなと思いましたね。そこで自分の声も流れてたら、もう本当に拷問のようになっちゃう(笑)。自分の声が嫌いなんですよ。養成所でよく先生に怒られたりとか、声にはすごくコンプレックスがあったんです。まさかこんな仕事でやっていけるとは思わなかったですから。それがいまだに残ってるんでしょうね。
 
──今回発表になったラインナップでは、ジェイソン・ステイサムの『PARKER/パーカー』、アル・パチーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』、ウディ・ハレルソンの『ゾンビランド』、ソン・ガンホの『パラサイト 半地下の家族』が並んでいますが、山路さんの演技の幅を堪能できる多彩な作品群だと思います。印象に残っている作品を教えてください。
 
山路:全部それぞれ強く印象に残っていますよ。ジェイソン・ステイサムは、彼の映画はとにかく数が多いので、『PARKER』自体というよりも、ステイサム自体が頭に残ってるというのがあるんですけども、そういう意味でいうと、他の役者も全部そうですね。ハレルソンもすごく印象に残ってまして、顔を見ながらやってると本人みたいに口が歪んでくるんですよね、不思議と。我々はそうやって画面を見てやってるから、仕草がうつってくるんです。それによって何となくつかめる気がするというか、分かってきたりするもんなんです。私は自分では“演技の幅”はないと思っているんですが、ただその人を見てやってると、自ずとその何か異なるものが出てくるのかなっていうぐらいですね。
 
──ソン・ガンホや『チェイサー』のキム・ヨンソクの吹替えも担当されていますが、「向こうの役者と対峙する」という点では、英語圏の人とアジア圏の人では言葉の切れ目や息づかいがかなり違うのではないでしょうか? 実際に吹替えをされて、どう感じられていますか?
 
山路:アジア人をやるというのは、やっぱり難しいんですよね。顔つきが我々に近いから、違和感が出だすとはっきりと意識するようになりますから。そこが演じる側にしても観る側にしても難しいと思うんですけれど、幸い私が担当してる役者っていうのが、やっぱりあんまりハキハキとしゃべる人間じゃないんですよ。そのおかげで助かってはいるんですけどね。ソン・ガンホもキム・ユンソクも好きですよ。特にキム・ユンソクは独特の色の強い役者って言いますかね、実は彼が大好きで。『チェイサー』がとても好きで、好きな役者だと、作品チェックのときにも余計に見方がしつこくなってしまうんですよね。
 
──観る側も慣れてないと、同じ東洋の人の顔で吹替えになっているのは違和感があります。
 
山路:特にテレビドラマになるともっと違和感が出てきますね。それは、画質やフィルム目のきめの細かさの問題かもしれませんし、それはその声を担当する声優も最初に感じる部分でもあると思います。収録で隣でやってる人を見て、これは難しいぞ、締めてかからないといけないなって最初に思ったことを覚えています。
 
──それはどういう風に克服されていったんですか?
 
山路:どうなんでしょうね……韓流ブームで作品が一気にわっと出たときがあったじゃないですか、あのときにかなり違和感があったと思うんですよね。でも今はみんなそれぞれアジア人の吹替えをすることにも慣れましたし、観ることにも慣れたんじゃないですかね。視聴者の皆さんも演じる側も、微妙に、自分なりに克服してるんじゃないかなと思いますね。
山路和弘さんインタビュー
 
──視聴者の方にも、意識して観てほしい面白いポイントですね。それでは、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』と『ゾンビランド』についての印象を教えてください。
 
山路:アル・パチーノは、同じ時期にもう1本、『アイリッシュマン』がありましたね。それをやってからそんなに経っていない頃でしたね。アル・パチーノは昔から、『スケアクロウ』の頃からずっと作品を観ていますけども、まさか自分で吹替えることになるとは思わなかったですけど、若いときの声から比べると、今の声や雰囲気はものすごく変わってきてると思うんですね。あの方が年を取って、自分がそれにアテるのはすごく違和感がなくなってきたんです。
 
 『スカーフェイス』の頃は、とにかく必死で吹替えた覚えがあって、あれになんとか合わせようとしていたのが、今はステイサムをやるのに近いくらい楽になってきているというか。不思議な感じなんですけどね。いつくらいからですかね……『ヒート』辺りでしょうか、急に「俺はもう年取ったんだから」っていうやり方をしていて、あの開き直り方を見ていると、こっちもすごくやりやすくなりましたよね。
 
──以前は、野沢那智さんがアル・パチーノの吹替えを多く担当されていましたが、後継者を意識するようなことはあるんでしょうか?
 
山路:いやいや、野沢さんはもう(自分とは)違いますからね! あの方はとにかく色んなことをやっていらっしゃいましたけど、なんと言ったってアラン・ドロンの声がありましたから。あの方には“二の線”がすごくあるんですよね。
 
 『ゴッドファーザー』のとき(2001年のDVD版新規録音。テレビ放送版は野沢那智がパチーノ役を担当)は本当に驚きました。本当に自分がやっていいのかと思いましたね。『スカーフェイス』はギラギラしたチンピラ役じゃないですか、でも『ゴッドファーザー』は映画としての空気感がまるで違う。そこに入っちゃっていいのかなと、すごく思いましたね。しかもパート1とパート2をやっていいのかと。パート3(テレビ放送版・ソフト版ともに野沢がパチーノ役を担当)はもう何年かしたら、野沢さんに手を合わせながら、ぜひやらせていただきたいですね。でも、やっぱり野沢さんはまるで私とは違う、永遠に超えられない大先輩。そんな感じであの方を見ています。
 
──『ゾンビランド』のウディ・ハレルソンに関してはいかがでしょうか?
 
山路:役者としては大好きですよ。でも、ああいうキャラクターをやる、コメディっぽい映画は初めてだったので、何だろう、いったい何をやらせるんだろう……と思いながら最初は観ていたんです。なんか変な役者だなあって。でも、段々段々その魅力にほだされていくというか、口が曲がっていくというか(笑)。いや、あの人はすごくいい役者さんですよ。こういう役はあんまり経験がなかったんです。今後もまた機会があれば、どんどん演じていきたい役者さんですね。
 
──先程も名前が出ましたが、『パラサイト』のソン・ガンホについてのエピソードも教えていただけるとありがたいです。
 
山路:ソン・ガンホは、なんて言うんですかね、今回特に“力を抜いてる感じ”がすごくするんですね。それが意図的に分かってやっているのか何なのか、分からない芝居がいっぱいあったんです。割と「俺が俺が」と自己主張して前に出てくる人だったのに、今回はそういうのがなくて、「単にここに存在しています」っていう、フラッと入ってくるという、その感じをどうしたら出せるかな……と、家でリハーサルをやりながら、妻とも「どうしたらいいんだろう?」と話していました。
 
 幸いなことに「金曜ロードショー」でも放送されましたし、これはブルーレイ/DVDのソフト版と放送版で二度やってるんですけども、他のメンバーが変わって二度チャレンジできたので、そういう意味では、ソン・ガンホを堪能させてもらったところはありますね。
 
──奥様にも相談されるくらい、役作りには苦しまれたということなんですね。
 
山路:よく相談しちゃうんですよね。うちは罵り合いとかよくしますよ、「すごい違う」とか言って(笑)。
 
──映画を吹替えで楽しむ方々に向けて、メッセージをいただけますか?
 
山路和弘さんインタビュー山路:吹替えは、とにかく字幕という「文字」を読むというストレスなしに観られるメリットがありますね。今の時代はゆっくりしゃべる映画がないものですから、色んな情報を(画面の)前でも後ろでも言ってて、それを全部翻訳して入れなきゃいけないとなると、吹替えでしかできなくなっちゃいますよね。字面では追い付けないから、そういう意味では、我々の仕事はとても意義のあるものだと思ってるんです。
 
 やはり言葉が違いますからね。英語圏の人って日本人と違って、ケンカの間はずっと2人で怒鳴り続けてるじゃないですか。道の両側を歩きながら、ずっと文句を言い合って歩いている人たちを見たことがありますけど、これは字幕じゃ無理だろうって思ったことがあります。クリストフ・ヴァルツの『おとなのけんか』でしたっけ、4人くらいでワーッと言い合ってましたが、あんなのは絶対字幕じゃ追い切れない。そういう意味で、吹替えというものは使えますぜ、と(笑)。
 
 映画のすべてを楽しむには、やはり吹替えでということがあるかしれませんね。でも、できれば字幕と吹替えの両方で観てほしい気もします。吹替えることによって、作品の雰囲気や解釈が違うものになるときもありますしね。ぜひ、楽しんでいただきたいと思います
 
──最後に、ご自宅で映画を観る際のこだわりなどありましたら教えてください。
 
山路:映画を観るときには……まず、途中で邪魔されないように猫にエサをあげるのがあるんですね。あとは、アールグレイの紅茶でシラフで観るか、あるいは日本酒を置いて、つまみと一緒に。つまみは自分で作ります(笑)。
 

(取材・構成:村上健一)

 
 
【山路和弘 プロフィール】
1954年生まれ/三重県出身。劇団青年座演技部所属。映画、ドラマ、舞台への出演に加え、声優として数多くの洋画作品で日本語吹替えを担当している。ジェイソン・ステイサム、ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、ショーン・ペン、アル・パチーノ、ソン・ガンホなどの吹替えで知られ、2021年の第15回声優アワードでは外国映画・ドラマ賞に輝いた。妻は声優としても活躍する女優・朴璐美。
 


 

プレミア・ナビ』 ※レギュラー枠『YKK AP ムービープラス・プレミア』の冒頭3分間 
山路和弘さんインタビュー放送日時:毎週土曜夜8:56/毎週日曜の午後/毎週火曜夜9時
声優の山路和弘が、映画本編の始まる前に、作品の見どころやキャスト・監督の紹介、公開当時の情報、ときにはキャストのフリーコメントなど、映画がさらに楽しめる魅力的な情報をお届けする3分のナビゲーション番組!
movieplus.jp