『真夜中の処刑ゲーム』古川登志夫さんインタビュー

古川登志夫さん
 
2024年3月15日(金)、映画『真夜中の処刑ゲーム』がナイル大商店(nile-store.jp)にて独占販売開始となりました!
日本未公開作品ながら、1988年1月にテレビ朝日系「日曜洋画劇場」で放送されて高視聴率を獲得、解説の淀川長治氏が「息が止まるほど本当に怖い」と絶賛を送った作品です。
 
その「日曜洋画劇場」版日本語吹替えに、ジェフ・パスティル演じるグース役でご出演された、古川登志夫さんにインタビューを行いました!
古川さんの師匠となる中田浩二さんとの思い出、共演者の津嘉山正種さん幸田直子さん鈴置洋孝さん水島裕さんについて、さらには当時の吹替収録についての貴重なお話しに加え、ここまで披露して良いの?となった古川さんの演技のテクニックについてもお話しいただいております。
作品への深い洞察も見どころとして語っていただいたロングインタビューをぜひお楽しみください。


 
3/15発売『真夜中の処刑ゲーム』:販売ページはこちら


 
Q:映画『真夜中の処刑ゲーム』について、お聞かせください。吹替えを担当された、ジェフ・パスティル演じるグースという役ですが、最初から最後まで悪党でした。演じられていかがでしたでしょうか?
 
古川登志夫さん(以下・古川さん):僕が海外ドラマの吹き替えや、映画の日本語版の吹き替え、いわゆるアテレコという仕事始めたのは、25歳の時だったのですが、この作品は始めてから15年後ぐらいの40歳の頃に収録した作品です。
そのアテレコという作業が1番に面白くなっていた時期だったので、とにかくどんな仕事でも入ると嬉しくてしょうがなくて、一生懸命やっていた時期なのですね。少しでもセリフが多くて、少しでも大きな役をやりたいと思っていたので、当時の若手と呼ばれる中で頑張っていた時です。出番の多い役だったので、嬉しかった記憶があります。
もう善玉悪玉問わず、仕事ができること自体が嬉しかった、楽しかった時期ですね。
 
Q:その悪党たちのリーダー的な存在として、ダグ・レノックス演じるケイブ(レーゲン)が登場、吹替えを中田浩二さんが務められていました。口数は少ないものの、作品にかなりの緊張感をもたらしています。中田さんの演技を近くで見られて(聴かれて)いていかがでしたか?
 
古川さん:最初は師匠と共演できるということ自体が嬉しかった、というのもありますが、一方で緊張もあるわけです。師匠と一緒にやるわけですからね。その2つの気持ちが、ない交ぜになった雰囲気と心境を今でもよく覚えています。
中田浩二さんとの共演作品だったので、非常に印象深く、実は何度も観ている作品です。
中田浩二さんとは、お芝居の上でも舞台の上でも、劇団が一緒(劇団櫂(かい)、主宰が中田浩二さん)でしたので、吹替えの上でも師匠にあたる方で、非常に影響を強く受けました。とにかく上手いんですね、演技巧者の最たる方で。当時は、それをどうにか盗めないかと(笑)。当時は上手い先輩方が(多く)いらっしゃって、とりわけ上手い方の演技を、何度も聞いて、これを盗めないかというようなことを参考にしていたので、とてもよく覚えてる作品です。
 
Q:中田浩二さんについて、お聞かせください。また、印象的なエピソード等がありましたらお教えください。
 
古川さん:共演は初めてではなかったのですが、久々にお会いした現場でした。
僕も劇団を辞めていたので、久しぶりの再会ということで、「どうしてる?」という感じでしたね。
もう尊崇する師匠でありましたから、非常に緊張しました。一緒にやってること自体が、嬉しいんだけど、緊張。今にもダメ出しされそうだなというような心境でしたね。
 
中田浩二さんという方はスタジオでは非常に寡黙な方で、ご自分の出番以外のところでは文庫本などをよく読んでいらっしゃるんですね。収録前に共演の皆さんが日常会話してる中でも、じっと読んでおられていて、収録で自分の番が来るとパタッと閉じて、マイクの前でペラペラペラって喋って、また戻ってきて、本を読む、という余裕綽々なんですよね。
それで、当時はスタジオに灰皿が置いてありまして、自由にタバコが吸えたんですね。今だと考えられませんよね。マイクの前に立ったままでもタバコをもみ消すことができるような、ちょっと背の高い大きな灰皿が2、3か所に置いてあって、ヘビースモーカーの方が多い収録だと、皆さんがタバコを吸って煙がモクモクで、その煙で画面が見えなくなったりすることもありました(笑)。中田さんも缶に入っていたピース(タバコの銘柄)がお好きで、収録現場でタバコを吸っていて、自分の出番が来るとタバコをもみ消して、ペラペラって、セリフを言ったかと思うと、戻ってきて文庫を見て。
なんて余裕があるんだっていう、あの世代、いわゆる第一世代の先輩方というのは本当にプロ中のプロ、専門職という感じだったので、それはもう尊敬の対象でありました。特に中田さんは、当時の新聞の番組表の洋画劇場の枠では「中田浩二」と必ずといっていいほどお名前が出ている方だったので、尊敬しまくっていましたね。とにかく声優としての現場での佇まいであるとか、演技以外も、とにかくかっこいいんですね。で、それらをちょっとでも盗むことができればっていう風に思ってましたね。
 
Q:この作品では、中田さんの他、津嘉山正種さん、幸田直子さん、鈴置洋孝さん、水島裕さんとご共演されています。皆さんとご共演されたエピソードはありますか?(この作品に限らず)
 
古川さん:同年代の人たちが結構多くて、しかも親しい人たちが多かったので、それは現場が楽しみでしたね。ナレーションを担当していた西村知道さんは、僕と同い年です。津嘉山(正種)さん、幸田(直子)さん、水島裕ちゃん、皆さんよく知った人たちで、仕事をレギュラーでもご一緒したこともある人ばっかりだったので、そういう意味では、仲間が集まっているようで楽しかったですね。
鈴置(洋孝)くんとはバンド(スラップスティック)を一緒にやってたメンバーでした。彼がキーボード、僕はギターだったんですけれども、例えばコンサートの練習であるとか、レコーディングでも一緒だし、とにかくいる時間が長かったですね。友達以上の親友みたいな間柄でした。
水島裕ちゃんは、やや年代が下なんですが、そのバンドのコンサートの時はお手伝いに来てくれたりしたこともあって、現在でも仲良くお付き合いしています。
幸田さんとは映画『エイリアン』のシリーズで、シガニー・ウィーバー演じるリプリー役をずっと担当されていて、僕はそのシリーズに登場するビショップ役のランス・ヘンリクセンの声を担当して、共演していましたし、幸田さんのことは、女性声優陣のあの年代の中で、上手い役者さんだなと思っていましたね。
津嘉山さんとは最初にお会いしたのはアテレコの仕事ではなくて、沖縄が舞台の米軍基地の問題を扱った社会派の映画で、軍事工場に勤めている工員の役で、僕も出ていました。沖縄出身の津嘉山さんも方言指導も兼ねて出演されていて、アフレコの仕事をやる前からお会いしていた方ですね。
そんなよく見知った人たちの中に、師匠である中田さんがいらして緊張したのですが、楽しかったですね。
 
Q:最近の収録では、お一人で収録ということが多いと思いますが、当時の収録体制について、お教えください。
 
古川さん:日本語版の吹き替えにあたっては、僕たちの当時では、台本を(収録の)前日だったり、あるいは当日行ってもらうんですよ。
例えば、『白バイ野郎ジョン&パンチ』(1977年~83年に制作された海外ドラマ。ジョン役を田中秀幸さん、パンチ役を古川登志夫さんが吹替えした。)は、1時間のドラマなのですが、収録当日に台本をもらうんですよ。毎回、主役として喋ってるわけですが、今回もセリフが多いな(笑)って、台本のチェックをし始めて、そして皆さんで(その回の本編の)下見を1回するんですね。1時間ドラマですから、1時間かかるわけですよね。そこで台本に印を入れたり、それからテスト、ラストテスト、本番の順ですね。これが定番の時間の流れで収録してくわけですね。だから、自分の用意できることというと、よくて前日、ひどいと当日。そんな、かなり過酷な状況でしたね。それでも僕らは準備をしましたし、またアナログでしたからフィルムの掛け替えや、ビデオになってからも巻き戻しなどで時間が掛かっていましたね。今はデジタルなので必要な場所をすぐ出すことができるし、1番いいなと思うのは、事前に素材がいただけて勉強ができるということと、それと収録時間が短縮されたということは大きな違いで、今の声優の方たちは幸せだなと思いますね(笑)。
 
当時は(スタジオに)多いと20人ぐらい、少なくとも10人ぐらいが同時に入っていました。もちろん出番のあるなしで3人しか出ないシーンだと、それだけで録りましょうということにもなっていましたね。
当時はロール分け(CMが入るタイミングで台本に入る区切り。ロール単位で収録する)が長かったんですよね。一ロール目はまず朝10時から始まると30分ぐらいの長いロールを、収録で一気に回すんですね。
それから午後になって20分の2ロール目、さらに3ロール目に進むと15分っていう風に後ろに行くにしたがって、短くなっていくのですね。
演技をする声優も段々と疲れてくるから、大変なのは早いうちに、元気なうちに録音してしまおうってことなんでしょうね。最初の30分のロールの収録だと、自分の出番が少ないとずっと待つことが多くて大変なんですね、(音が入るとNGになるので)咳払いもできない。そんな感じの現場でしたね。
 
Q:NGは出せない状況でしたか?
 
古川さん:まあ、それは人間ですから、(NGを出すことも)あるんですけれどね。でも、当時の錚々たる先輩方は、これが憎たらしいことに(NGを)出さないんですよ(笑)。トチらないんですよね。それでね、僕らが若手の頃に、セリフがちょっとこぼれたりしてNGになると、先輩に「余分に喋ったからってギャラがたくさんもらえるわけじゃないから、ちゃんと合わせろ」なんて言われるんです。「いや、合わせたいのですが、、、もっと頑張ります」って返す感じになるのですが、本当にNGを出さない先輩たちで、セリフもピタッピタッと合わせますし、演技はお上手で、余裕綽々ですし。だから、新人の頃はいつもスタジオの隅っこで凝り固まって硬くなっていた感じでしたね。厳しい先輩方も、多かったです。
 
Q:厳しい先輩の思い出といえば?
 
古川さん:当時のタバコの話もそうですけれども、もう1つあるとすれば、とにかく先輩方が怖かったですね(笑)。今だと確実にパワハラで問題になるようなことがごく当たり前にあったんですよ(笑)。それから演出家の方もとても怖くて、演出家と我々声優というのは、表現者同士、アーティスト同士と言うんでしょうか、今では対等な感じですけども、当時は上意下達的に上からガーンと、言われますので、非常に言葉が荒かったですね。
『空飛ぶモンティ・パイソン』の収録現場では、僕と西村さん、小宮和枝さんが若手でいたのですが、1番端の席で縮こまっていましたね(笑)。
出演されていらっしゃるのは広川太一郎さん、山田康雄さん、近石真介さん、納谷悟朗さん、そういう方たちが、「いやーアテレコって難しいな」なんて冗談を言っていて、山田康雄さんは「(ものまねしながら!)こんなの簡単だ~」なんて言いながら演じている。そんな収録現場で、縮こまっているんですよ(笑)。一言喋ってトチりでもしたら、「おい、今日は素人が来てるぞ、時間かかるから週刊誌かなんかない? 今日は夕方までかかるよ」みたいなことを、聞こえよがしに言われるもんだから余計にこうなってしまう(肩を縮めてお身体を小さくする)。そんな時代でしたね。だから1番印象に残ってるのは、今で言うと確実にパワハラと思われるようなダメ出し。それが日常茶飯事でしたね。
それと、タバコを吸ってる状況とかがですね、今と全く違いましたね。その当時はね。今、同じことをやったら大変ですよね。タバコはもちろん全面禁止ですし、そんなパワハラをする先輩なんかがいたら大変です。今の時代では仕事をやっていけなくなってしまうでしょうね。
 
Q:実写作品とアニメ作品とで、収録の違いはありますか?
 
古川さん:そうですね、基本的に、アニメの方が実は難度が高い感じがします。
というのは、海外ドラマだと、耳でオリジナル音声を聞きながら日本語に吹き替えていくわけですよね。ですから、簡単に言うと、男女の会話だと、画面を見ていなくても、女性が喋り終わって男性が始まれば自分だっていうことがわかるわけで。特にそういう単純な場面だと、画面をキチンと見なくても、つまり台本だけ見ててもできちゃうぐらいのところがあるんですが、アニメというのは口パク・口の動きを見なければなりませんよね。オリジナル音声はありませんので、その(アニメの)口の動きを見るときというのは、同時にまたセリフも喋ってるときですから、台本も見なければならない。同時に見るってことはできないので、どうするかということなんですけれども、台本を少し高めに上げまして、スタジオの画面の高さに合わせて、台本を読んでいくわけです。文字を追っかける方がメインになって、その先に画像がぼんやり見えてるんですよね。
口の動きが大きい場合だと、動いてるのがわかるので、大体はそれでやりくりできるのですが、左目で台本、右目で画面を見れればいいけれど、それは不可能なので、どちらかを目で追ってしまいますよね。そういう意味でアニメは難度が高い。
そして、ギャランティの話にもちょっと関連あるんですが(笑)、アニメの方が実は基本料金がちょっとだけ高いんですね。多分その難度のせいだと僕は思うんですが、その辺のところが大きな違いではないでしょうかね。
 
Q:アニメでも、当時は先ほどお話しいただいた海外ドラマのように当日に台本をもらうのでしょうか?
 
古川さん:それがもう普通でしたね。アニメでも現場におはようございますって、入っていくと、うず高く台本が積んであって、その日に収録する声優さんが1冊ずつ台本を取っていって、それからチェックして、「今日は、俺大変だ」、「お当番の日だ(自分の役がセリフを多くしゃべる回)」とか、「今日は少なくて楽だ」とか、当日に初めて分かるというような状態で、それから皆で見て、収録が始まるっていう段取りで、いわゆる過酷な状況でしたね。
 
Q:役作りはできましたか?
 
古川さん:もうその場でとにかく対応しかないんですね。
ですから、早くチェックするというのが求められるスキルなわけですね。新人であればあるほど、そのチェックに時間がかかります。先輩方はものすごいスピードでチェックして、演技もオッケー、いつでもどうぞなんて感じなんですよ。僕らとしては、「先輩はもう終わってるよ、大変だ大変だ、先輩を待たせると大変だ」みたいな感じでしたね。
 
Q:若手時代は兼ね役もありましたか?
 
古川さん:そう、あの頃は、役がダブることも普通でしたね。ごく普通でした。僕も結構やりましたけど、永井(一郎)さんなんて、『機動戦士ガンダム』では20役くらいやってるんじゃないでしょうかね(笑)。『ガンダム』の最初、1回目の第1話の時はですね、僕はジオン軍側の役をやっていたんですよ。
そして第2話から演じていたカイ・シデンが出てくるんですが、その時は連邦軍。両方とも結構演じていて、行ったり来たり、収録するロールごとに、どんどん役を入れかえて、を現場で当日に言われたりしていました。
カイという役については多分脇役で、顔も脇役的な顔をしてるし(笑)、2話から出てきたけど、すぐ死んじゃうよな、脇の脇役だな、なんて思っていたら、ずっと長いこと生き残っていて、その後のユニコーン(『機動戦士ガンダムUC[ユニコーン]』)に至るまでずっと生き残っているキャラクターになってびっくりしましたね。
その当時、自分自身は主人公だったり、台本の1番前に名前があるような作品を何本かやり始めていた頃だったのですが、『ガンダム』では(共演の)古谷徹さんが1番うまいじゃんみたいな感じのことを言いながら、あまり乗った気分ではなくてやってたんですね。若かった頃ですからね、古谷徹さん、池田秀一さんといった錚々たるメンバーがいらして、(紹介される時にも)結構時間が経ってから名前が出てくるんで、すぐ死んじゃうだろうな、なんて言っていたのですが、最後まで生き残ってくれて、大切な役になっていきました。
 
Q:兼ね役をいくつも演じるのにも、役作りは出来ないですよね?
 
古川さん:やっぱりもうほぼ即興で、臨機応変にやんなきゃいけない。
永井さんは技をお持ちで、それはびっくりするほど変えられるんです。どんな役でもその場で、全然違うように表現されるので、驚きましたね。自分でもできるのかなっていう感じでした。
あの当時は、ダブリ役を演じるのは本当に普通で、役をいくつやってもギャラは同じでしたね(笑)。
 
Q:他にも当時の収録で印象に残っているエピソードはありますか?
 
古川さん:全員が怖い先輩ばっかりじゃなくて、親切な方、優しい方もおられましたね。怖い方が大半でしたけれども(笑)。
富山敬さん、内海賢二さん、錚々たるメンバーですけど、このお2人は優しかったですね。
内海賢二さんは、僕らが現場でダメ出しされて落ち込んでいる時、帰り際に「おい、登志夫、ちょっとお茶でも飲もうか」なんて誘ってくださって。
「ああいう時にはね、お前こうすんだよ。あの時お前きついこと言われてたけどね、俺はあの演技で良かったと思うよ。あれはディレクターがダメだから」とか言ってくれてね(笑)、慰めてくれるんですよ。
それで、笑い方とかも教えてくださって。「あの場面はね、ああいう役の場合はね、普通に笑うんじゃなくて、こんなふうに笑うんだ」って喫茶店とかで聴かせてくれるんですよ。
優しい方だなと思って。お会いして間もない頃なのに「登志夫、登志夫」って名前で呼んでくださって、スタジオでは「お前、俺の隣に座れ」って隣りに座らせてくれて。
新人の僕らは普通は座れない場所ですけど、そんなところに呼んでくれて、色々親しそうに話してくださるんですね。内海さんや富山敬さんがあんなに親しく話してる奴ならば、あまりきついこと言えないなって、ディレクターさんにも気を使ってもらえるようになって。そんなところまで考えてくださって、よく話しかけてくださって、優しい人だな、こんな先輩に将来になろうということを、飲みに行ったりすると皆で話してましたよ。ああいう先輩になろうぜって。本当に優しかったですね。
そんな内海さん、富山さんを見習っておりますので、僕はスタジオでは多分、優しい先輩で通ってるはずです(笑)。きっとですけどね(笑)。
それに、野沢雅子さん。あの方も本当に優しいのですね。(収録で誰かが)トチると、「NG」と出る。もちろんノーグッドのことですが、録り直し、となるわけです。そうすると、野沢さんが「N・野沢だけ、G・グッド。私だけ良かったわ」なんて言って(笑)、笑わせるんですよ。そうすると新人も笑ってしまって。さらに「私の若い頃は、あなたほどもできなかったわよ、あなた、すごいわよ、お菓子でも食べなさい、ちょっと肩揉んであげるから、まあコーヒーでも飲みなさい」と言って、先輩が後輩にコーヒー入れちゃうんですよ。昔はみんな逆でしたけれどもね。そんなところがあって、野沢雅子さんのお名前は、僕は一回で覚えましたね。
それから、もっとお仕事でご一緒するようになってから、見習ってみようかなと思って、後輩に「コーヒーなんかどう」なんて言ってみたりしましたよね。
 
最近はコロナという特殊な事情がありましたから、1人で収録、多くても2人。最近でも、気を遣っていますが、まだ予断を許さない状況もありますが、3人から5人ぐらいと収録状況になりましたけれども。でも、やはりそういった先輩後輩の交流というなものは、どうしても薄くなってしまいましたね。
そういう意味では、いい時代に仕事がたくさんできたなと思います。
 
今は、配信やDVDソフト等で過去のコンテンツが残っていますので、そういったものを観たり聴いたりすることでも、もちろん勉強になるんですけれども、生で、そばで聞いていると、その声優としての在り方、演技プランの立て方、それからダメ出しをされた時のその変え方ですね、そういうようなものがわかるので、やっぱり生で、そばで生声の演技を聞くということが大変勉強になると思いますね。
 
Q:印象に残っている作品はありますか?
 
古川さん:参加した作品は結構、覚えてますね。僕、記憶力がいい方だってよく言われるんですけど、1番最初にやった『FBIアメリカ連邦警察』(1965年~1974年制作のドラマ)というテレビドラマがあって、その作品にも中田さんが出ていらしたんですが、その番組で自分が喋ったセリフを覚えてるんですよ。たった一言でしたけど、結構長くて。新人の僕にとっては長めのセリフで、パトカーにFBIの本部から連絡が来るんですね。そうすると、そこで警官が出て、無線でやり取りをするというシーンでした。その時に無線から聞こえてくる声を演じたのですが、その時のセリフが、「現場から30メートル離れたところにチャーニックの車を見つけました。急行してください」という、その程度なんです。セリフの中に出る名前まで覚えてるんですが、その時は全然合わなくて。結局はオンリー(一人で別録りすること)で収録することになって、後から映像に音だけ加えてもらうってことになったんですね。そうしたら中田さんが自分の弟子でもあるからって、「俺が背中をポンって叩いたら喋れ」、みたいに収録に付き添ってくれて、ポンって叩いてもらったのですが、出なくなっちゃうんですよ。逆にね。もう緊張してて、そんなことが最初にありましたね。そういったことも含めて、結構ね、折々にやった仕事・作品っていうのはよく覚えてますね。
最初にこんなレギュラーをやったな、この時は大変だったな、とか、先ほど話した『モンティ・パイソン』は本当に大変でしたね(笑)。
結構アニメも海外ドラマも結構鮮烈に覚えてますね。特にアテレコは僕、大好きだったので、この仕事で将来通したいと思うくらい、海外ドラマの吹替えをする仕事が大好きでしたね。
アニメの方がずっと後なんですよね。25歳で僕は海外ドラマの吹替え出演を始めて、アニメは30歳の時に初めて主役をいただいて、それからですので、海外ドラマの方が先なんですね。
 
Q:新人の頃から現在で、演じ方や取り組み方に違いはありますか?
 
古川さん:1番大きく変わったところは、昔はプロデューサーさんやディレクターさんが収録前にこんな役ですよとか、こんなストーリーですよって話してくださったり、レクチャーがあったんですね。長編だとね。それを聞いて、そして自分で画を観て、台本を読んで、こんな感じか、これは悪玉なんだなとか。大雑把に役柄をくくるわけですね。悪玉だ、チンピラだ、いい人だ、優しい人だ、と。ところが今は、自分の演技プランの立て方、これは企業秘密のようなものなのですが、まず、この役が悪い役だ、誰が見ても悪役だと思うと、その対極にある善良な部分みたいなものはどこかにないのかと探るんですね。対極にあるものを探る。そうすると、その間の演技の幅、レンジというものが変わってくる。その振幅の部分を演じることによって、そのキャラクターに深みが出るとか魅力が出るとか、そんなことを考えるように最近はなりましたね。
例えば、これはいつも話すのですが、『ONE PIECE』の(ポートガス・D・)エースというアニメーションのキャラクターは、白ひげ海賊団2番隊隊長ということで、白ひげ海賊団の強い男っていうイメージで喋りますよね。
昔だったら強い男らしく、凛々しく喋っただけにするかもしれませんが、その対極にあるもの、強い男にとっての弱いものってなんだとか、あるいは厳しい男の優しい部分ってなんだろうかって対極を探ると、弟思いの優しい兄というような、映像が浮かんできて、そういう場面がイメージできるんですね。
原作を読んで、やはりそうだなと思って、そういったキャラクターを作るためには、強い2番隊隊長という側面だけではなくて、馬鹿みたいに優しいところを作ろうと、その振幅を出そうというようなことを考えて。それで、これも役者の欲みたいなものでしょうけれども、この物語の中のこの部分はきつく、そしてこの部分は優しく言おうとかっていうことから始まって、あるいは、このページの中のこの部分は強く、この部分は優しく、もっと言ってしまうと、たった1度のセリフの中のこの部分を強く、この部分は優しくっていう風に、こう考える癖が出来てくるんですね。
『ONE PIECE』で田中真弓さんが演じてらっしゃるルフィに対する優しい兄という立ち位置ですね。そこで、「出来の悪い弟を持つと兄貴は心配なんだ」と、こういうセリフがあって、それを言う時に快活に言うと、昔だと「(一定の早い調子で)出来の悪い弟を持つと兄貴は心配なんだ」って、パーンとやって作ったと思うんですが、強さとその対極にある弟思いの優しさを、たった1行のセリフで演じる、その両方を込められないかとかいうような欲が出てきて、それならばと、前半強く、後半だけ優しく喋るっていうことを考えるんですね。
これは『うる星やつら』(アニメの1981年版で主人公諸星あたるを演じた)の時に教わったんですが、連続の不連続ということを当時の音響監督の方がおっしゃっていて「古川くんは連続の不連続ができるね」と。最初に軟派なあたるのセリフを言いつつ、後半で2枚目にポンと変えていくっていうようなことができる、というようなことを聞いてから、なるほど、“連続の不連続”ね。じゃあと強いセリフとしてそのセリフを言って、後半で弟への優しさを出そうと思って、こんな風にやってみたんですね。(※アニメ『ONE PIECE』でのエースのセリフを思い出してください)「出来の悪い弟を持つと」この辺までは強いんですが、「兄貴は心配なんだ」って、こう優しくする。そうするとその幅が出る、たった1行でも、たった1ページの中のこのセリフ、あるいは全体の中でもこのシーンは、っていう風に考えるようになったところが、以前と大きな違いでしょうかね。
演技プランにちょっと欲が出てくるというか。そうすると、(『ドラゴンボールZ』の)ピッコロという役でもコワモテの格闘技の選手として悪役的に登場した人物が、悟飯に修行をつける時は、実は優しい師匠なんですね。それも同じようにきつく言いながら、優しく言う振幅を出すと、ピッコロというキャラクターに幅が出てきて魅力的なキャラクターになる。
そして、それがうまく出せるとファンレターが増えるんだ(笑)。
あのシーンが、あのセリフがすごく好きです。というファンレターを送ってきてくださる方がいて、それから声真似する方があのシーンを真似するんですね。
それを見ると、よし、これで良かったのかなと思ってみたり。そんなところは、そういった役への立ち向かい方として、やや企業秘密的な話ですが、変わってきたところでしょうかね。
 
Q:最後にこの作品の吹替えで聴いて欲しい部分、作品の見どころを教えてください
 
古川さん:声優の仕事としては、どのセリフも漏らさず聞いていただきたいです(笑)。
作品的に言うと、そのテーマ、主題に注目して欲しいですね。
警察官がストライキを起こして治安状態が悪くなることの中で起こる籠城劇で、サスペンス・アクションですけれども、この作品テーマはなんだろうかと考えるのも、映画を観る楽しみでしょうか。
平和な日常の中に潜んでいる狂気、これはどうして生まれるのか。警察官は治安を守る、市民を守る、正義の側ということであるし、警察官に限らず、法を守るということで言えば裁判官もそうでしょうし、あるいは聖職者も善な感じがしますよね。そういった方たちも元々は普通の人間であるわけですよね。聖書の言葉の中に「義人はいない。一人もいない」という言葉があって、人間っていうのは原罪という罪を持っていて、どんな立派な人でも、どんな法の番人であっても、ある時突然、状況によって豹変することがある。狂気に変わる。
この作品のラストシーンでもすごく物語られていて、そういう意味でも、普通の人、一見平和な日常の中に隠されている、そこに紛れ込んでいる狂気のようなもの、あるいは自分も含めて普通の人間であるはずなんだけども、その自分の中の異常性とか、そういったものが含まれてるんだっていうのがテーマのような気がするんですね。
そういう意味を考えながら観ると、この『真夜中の処刑ゲーム』という作品は、そんなに予算がかかっているように見えない、撮り方も、CGもなく、お金をかけてるわけでもない、そんな作品でありながら、籠城劇として成功しているのは、ずっと最後まで物語に引っ張られていっちゃうからですね。そして最後にどんでん返しのようなシーンで終わる。
これはうまい作り方だなと思いましたね。
 
 
真夜中の処刑ゲーム
【ストーリー】
警官によるストライキ突入で無法地帯と化した街に、凶悪な自警団が出現。「秩序の回復」を掲げて性的マイノリティの人々が集まるバーを襲撃し、客と店員を惨殺する。隙を見て逃亡した男性はアパートの一室に助けを求め、そこに集まっていた5人の男女は、彼を匿うことを決意。複雑な構造のアパート内にブービートラップを仕掛け、自警団との全面対決を開始する!
 
【スタッフ】
監督・製作:ポール・ドノヴァン(「機甲戦虫紀LEXX」)、マウラ・オコンネル/製作:マイケル・ドノヴァン(『ボウリング・フォー・コロンバイン2002』)/脚本:ポール・ドノヴァン/撮影:レス・クリツァン(「機甲戦虫紀LEXX」)/音楽:ピーター・ジャーミン、ドリュー・キング
 
【キャスト】
トム・ナディーニ(声:津嘉山正種)、ブレンダ・バジネット(声:幸田直子)、ダリル・ハネイ (声:鈴置洋孝)、ダグ・レノックス(声:中田浩二)、ジェフ・パスティル(声:古川登志夫
 
【復刻台本セット特別版】
真夜中の処刑ゲーム
『真夜中の処刑ゲーム 2Kリマスター版ブルーレイ』
価格:8,800円(消費税・送料込み)
 
【通常版】
真夜中の処刑ゲーム
『真夜中の処刑ゲーム 2Kリマスター版ブルーレイ』
価格:6,930円(消費税・送料込み)
 
◆「日曜洋画劇場」放送で解説・淀川長治氏が大絶賛、「未体験ゾーンの映画たち2024」で劇場公開を果たした本作が待望のブルーレイ化!
◆米国Severin Films制作の2Kマスターによる高精細な本編映像をお届け。抜けるように明瞭な画質、暗い場面もクッキリ分かる!
◆豪華声優による「日曜洋画劇場」(1988年放送)の吹替版を完全収録!しかもオリジナルのモノラル吹替に加え、疑似ステレオ吹替を初収録。
◆特典映像は112分!
1)過去DVDの4:3フルフレーム版も字幕・吹替付きで収録、上下がカットされず情報量が多い!
2)予告編を2種類収録(タイトルコールが異なる「SIEGE」「SELF DEFENSE」版)
3)ブルーレイ用PV
4)処刑ダイジェスト(吹替のみ)本編の見せ場を15分に凝縮!
◆8ページリーフレット(十字折り)封入
表面は解説、裏面は舞台となったアパートの詳細間取り図!(4P)
 
『真夜中の処刑ゲーム 2Kリマスター版ブルーレイ』
2024年3月15日(金)発売(「ナイル大商店 nile-store.jp」専売)
発売元:フィールドワークス
© 1982 SALTER PRODUCTIONS LIMITED.