堀内賢雄さんインタビュー

ふきカエルインタビュー堀内賢雄さんCS映画専門チャンネル・ムービープラスで、「もっと吹替えで映画を観たい!」という視聴者の要望に応え、特定の声優をフィーチャーする「吹替王国」第10弾!

今回は、コメディからシリアスな洋画、海外ドラマやアニメでも大活躍の堀内賢雄さんが登場!「ビバヒル」のアイアン・ジーリング主演作『シャークネード』、ブラッド・ピット主演の『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』、ヴィンス・ヴォーン主演のコメディ『人生、サイコー!』、ルパート・エヴェレットの吹替えを担当したロマンチック・コメディ『ベスト・フレンズ・ウェディング』の4作品を放送。
その放送に先立ち、ふきカエルでは堀内賢雄さんにインタビューを行いました!吹替えへの取組み方などをたっぷり語っていただいたインタビューの模様をどうぞお楽しみください。声優を目指す方、視聴者の方へのメッセージもあります!
 

 

——今回アイアン・ジーリング主演の『シャークネード』をはじめとした作品を放送するということで、番組宣伝用動画のナレーション撮影(おもしろCM)もありましたがやってみていかがでしたか?まずはアイアン・ジーリングについて
堀内賢雄さん:おもしろCMのタッチが大好きで、張り切ってできました。
CMの中で、自分の名前を出していいのかな、っていうところもありましたけど、楽しんでしまいました(笑)。
『ビバリーヒルズ高校白書・青春白書』(以下、『ビバヒル』)の(アイアン・ジーリングが演じていた)スティーブは明るくて、お調子者でそのくせ気が小さくてナイーブなところもある、実は、僕自身のようなところがあるキャラクターでした。
『ビバヒル』が終わって、小さな役でしたが(アイアン・ジーリングが出演した)映画を2作くらい吹替えした後は、今後アイアン・ジーリングをアテることはないのかな、と思っていました。それがある日のこと、“主役だよ”と言われて、吹替えした作品が『シャークネード』でした。それがもう4作目まで作られてね。吹替えも担当してみて感じたのは、彼がすごく渋くてカッコいい人になっているなということでした。
『ビバヒル』の時代って(スティーブの声で)「スティーブでやんす」、とかちょっとコメディっぽいしゃべり方をしていたので、そのイメージのまま『シャークネード』でも、ちょっとおちゃらけた感じで収録に臨んだら、演出の方に“賢雄さん、真面目にやってください”って(笑)。ですので『シャークネード』は超渋いアイアン・ジーリングに仕上げています。一生懸命さが、あの作品を引き立てていると思いますね。
(おもしろCMの収録で)また演じることができて、うれしいですね。

——(おもしろCMでの)ブラッド・ピットについて
(おもしろCMの収録で)ふざけちゃっていいのかなって思いました(笑)。演じる僕は喜んでやっちゃうからいいんですけどね(笑)。楽しかったです。
あの作品(『インタビュー・ウィズ・バンパイア』)のトーンで面白くやるのはちょっとむずかしかったかな。
ブラピも最近はコミカルな役をやるようになってきたので、それを思い出して楽しんで演じました。

——今回の企画「吹替王国」について
うれしいですね。地道に階段を上がってきたようで。
人に恵まれて、監督に恵まれたのでね。上手くないけど必ず使ってくれたっていうのがありました。新人の当時は、“何々組”っていうのがあって可愛がってもらいましたね。
そういった方々に抜擢して使ってもらって、そこから端役になったり、ダメかなと思ったらもっと大きな役に付けてもらったり。そこに喜びを感じた時代でありました。

——海外ドラマのように長く同じ役を演じる場合と、洋画の場合では取り組み方に違いはありますか?
海外ドラマの場合は、いつ終わるのかっていうことも含めて、先がわからないことが多いですよね。どうやって展開するのかわからないというところを演じながら楽しませていただいています。
1本の作品として完結している映画の場合は先を知りつつもエンディングがわかっていないように演じています。
映画の場合は一発勝負だから、テンションの高い部分をそこ(収録時)に合わせて持っていかなきゃって気を使います。声の調子が悪い、なんて言ってられませんから、その収録日に合わせて何とかしなきゃならないことがありますね。
海外ドラマは先が見えていないことが、演じていて面白いです。徐々に謎が解明されていくところも面白いなって思いますね。
シリーズ物では、これから大活躍するのかなってキャラがいきなり死んじゃったり、予想がつかない分、役者もドキドキでどうなるんだっていうのを楽しみながらやっていることが多いです。

——アニメ・ゲームとの違い
基本的に演じるということに関しては同じだと思います。
作品によっては、“デフォルメしてください”って言われるのと、“洋画のようにリアリティを持って”と言われることがあって内容によってはバラバラになることがあります。
そこは本当に監督さん次第だと思っています。
洋画でコミカルなキャラクターがきても、リアリティの中でその役を演じますが、アニメーションの時にコミカルなキャラクターがきたら、こんなのありえないよっていうくらいハジけて演技をすることがあります。
最近のゲームで、僕が呼ばれる作品では、“洋画の感じであまり膨らませないで演じてください”、ということが多いです。
昔は、25年くらい前だと、お芝居の演出家に“声出せ、張れ張れ”って言われてきたんだけど、今の技術だと“そんなに声は出さなくてもいいよ”って言われることもあるし、いろんな収録形態があって、そんな時は右往左往してしまうこともありますね。
そういったスタイルの部分はすごく変化してきたと思います。
“声を前に出せ、出せ”って言われて長い間訓練を受けてきたので、“ぼそぼそでいいんです”って言われると、どういう風にしゃべるんだろう(笑)ってなる時もありますね。
とにかく“声を出せ、モノローグでも出せ”ってシゴかれてきましたから。
最近のアニメで“賢雄さん、囁くくらいでいいですから”と言われて、そんな訓練受けたことないから、普通にしゃべるとそれでも張りすぎらしくて、「えーこんなんでいいの」というくらいの声でしゃべったらそれでOKっていわれるんですよ。実際にオンエアを見るとすごくきれいな音になっていてね。
ですので、僕の中でも一生懸命勉強中という部分もあります!
技術の進歩で、アニメもゲームも色んなものが監督によって違う時代になりましたね。

——最初の吹替え作品について
デビュー作というのは、TBSの特撮で『アンドロメロス』という作品のアンドロウルフ役をオーディションで勝ち取りました。特撮作品なので口が動かないので何とかなりました(笑)。
その後大きな役では、『サイコアーマー・ゴーバリアン』というアニメ作品のハンス・シュルツという役でした。これができなくて悲惨だったんですよ(笑)。音響監督の岩浪美和さんに“当時、賢雄さんのためにどれだけ時間が掛かったか”って今でも言われますよ(笑)。当時はテープですから、作業が大変だったと思いますね。
やっぱり難しかったですねぇ。でもその時に、この世界で必ず何とかしてみせるって思いがあって、現在に至ります。
洋画では『バファロウ平原』がデビュー作です。ロナルド・レーガン主演で大統領になる前の役者の頃の作品です。僕は端役だったんですけど、それが洋画のデビュー作です。

——堀内さんの長いキャリアの中で、ご自身でここは変えていないということはありますか?
一番大事なことは馴れ合いにならないということですね。長くやっているとどうしても少し傲慢になってしまう部分があると思うんですね。キャリアがあるということは勝手がわかるけれど、芝居というのは別のものであると思っています。
与えられたものに対して、如何に真摯に向き合えるか、しかないですよね。年齢的な味わいが出てくるかもしれないけど、与えられた役を受け止めて、どれだけ若い時と同じように喜べて、その役を魅力的にできるかしかないのではないかなと思います。
若い人が一生懸命やっているのを見て、どれだけ自分も気持ちを乗せられるのかな、といつも戦っているかな。そういうのはやっぱり楽しいです。
何年もやっていれば全ての人がうまくいくというのとは全然違いますからね。
演技的な部分でキャリアがあるからいい、なんていうのを感じたことは一度もないですね。みんな同じです。
ただ長くやっていると、みんな労わってくれます(笑)。

ふきカエルインタビュー堀内賢雄さん——オファーがきた役を演じられるかなと思うことはありますか?
思いますね。でもそれが楽しみですね。
もの作りって、例えば主役を演じている人に、主役だからってあれこれ言わないってことはないですからね。
怒られるとかではなくて、違うと思うことは違うし、作品を作っていくには仕方がないことだと思います。
未だにガンガンに言われますけど、“いい感じになりましたね”と言われた時には喜びを感じます。
監督に指示されて、心の中では「違う」と思いながら演じてたらできませんよね。「よーし、近づけてやる」って思いますね。

——近づける作業はどのように行いますか?
いいことをきいてくれましたね(笑)。
人間だから感情的になるのですが、投げてしまったり、カチンときたら終わりですね。そこは冷静に受け止めて、ニュートラルに戻して、とにかくやってみる、ということですね。
でも、それは声を変えたりということではないです。気持ちの部分をまずは切り替えて、勢いでしゃべってみるとか、作品の肝となる部分の気持ちが伝わっていけば何とかなりますね。
こんなにキャリアがあるのにとか、こんなに言われて恥ずかしいとか、そういうメンタルの部分は本当に余計です。
若い頃は、こんなにダメ出しを受けて恥ずかしいって舞い上がっちゃったものですが、歳を取ってひとつだけいいことというのは、冷静に、「何回でもやりましょう」って言えるようになったことですね。
ちょっと傲慢な言い方ですが、後ろにいる方を信用できるというか、演者だけで作品を作っているのではなくて、監督やキャラクターの設定を考えている方がいるのに、演者が“こうだ”と進めても上手くいかないですよね。
やはりみんなで作っている、というのをすごく感じますよね。

——これまで演じたキャラクターでご自身に近い役柄はありましたか?
『宇宙船レッド・ドワーフ号』の(デイビッド・)リスター、あの単純さはちょっと似ているかも(笑)。あの作品はすごく面白かったし、近いかなと思いますね。

——コメディ作品はお好きですか?
好きですね。人が笑ってくれることや、その“間”がうまくハマった時はすごくいいなって、楽しいなって思いますね。
コメディってやりたがる人は多いのですが、できる人は少ないじゃないですか、そこは少しだけ優越感に浸っちゃいますね(笑)。大師匠である、羽佐間道夫さんの演技を見ていると、いつも「勉強になるなぁ」って思いますね。

——演じる際にアドリブを入れることはありますか?
ふきカエルの“凄ワザ”プロジェクト作品()の『危険戦隊 デンジャー5』だけなんですよ、これまでの俳優人生でアドリブを入れたのって(笑)。吹替えを始めた時の先輩が怖い方で、台本を直すことにすごく怒る方だったんですよ。『ビバヒル』の「そうでやんす」とか「やったるでぇ」とか、あんな風に変えちゃってと言われるのですが、台本通りなんですよ。
ジャッキー・チェン主演の『ドラゴンロード』で実況アナウンサー役を演じたのですが、僕の前に広川太一郎さんが演じられていました(85年フジテレビ・ゴールデン洋画劇場版)。その時は監督から、“賢雄さんなりの広川太一郎さんで作ってきて”と言われたので、その時は自分で台本を書いて演じましたね。
台本に“アドリブで”と書いてあったら努力してアドリブを入れるのですが、そうじゃないものは、本当にいじらないですね。
だからどれだけアドリブを入れているように見せられるか、観た人に“あんなにアドリブ入れて”って言われて、「実は僕は何もしていないよ」って返すのが自分の喜びのひとつでもありますね(笑)。
皆にアドリブについて言われるのですが、結構真面目なんですよ、僕(笑)。
※“凄ワザ”プロジェクトについてはこちらから

——『危険戦隊デンジャー5』でのアドリブについて
みんなで演じながらライブ感のノリを出すのは、難しかったですね。
反省としては、のべつ幕無しアドリブを入れるなってことですね(笑)。
でも、また機会があれば楽しみたいですね。お客さんを入れて、観客の皆さんには正規の台本を配って、どのくらい変えているかを見ながら楽しんでもらえるようなことをやってみたら面白いんじゃないかな。

——映画を鑑賞する時は字幕派ですか?吹替え派ですか?
吹替えで観ます。情報量が多いのが魅力です。複数でしゃべる絡みがあっても、吹替えなら頭に入ってきますよね。翻訳家の方たちのレベルも上がっているし、良い日本語のセリフになってきているし、お芝居をわかっている方たちと色々な方が加わって良いものを作っていこうという気持ちが伝わってきますよ。

——地上波での映画放送が減ってきていますね
そうですね。代わって劇場の吹替え版上映が少し増えてきたかな、でも残念です。

——地上波だけの吹替え版を放送している時代もありました
僕が新人だった頃は、同じ映画作品を月に4回収録することがありました。それはなぜかというと、テレビ版、ビデオ版に加えて機内上映版を各社別々に収録していたからなんです。監督も変わるので、演じる役も変わってね。この監督はこうなのに、あの監督にはこういう風に見られているのか、ってよく思いました。
最近はそれぞれ違うことがなくなってきましたが、当時は毎回収録が4回もあったら仕事だらけでしてね(笑)。この状態が続いたら一生仕事には困らないなぁって思ってましたが、1本録ってそれを使い回せばいいって誰かが気付くだろって考えていました。そういう発想はいつか出ますよね(笑)。その発想が実際に出てからはあっという間でしたね。その時代は吹替えの全盛期で、先輩方のワザも色々見させてもらって、いい時代に関わることができましたね。

——観る側のこだわりと思い入れもそれぞれの作品にありますよね
子供の頃、父親とTVドラマの『コンバット!』をいつもテレビで見ていました。主役のビック・モロー演じるサンダース軍曹を田中信夫さんが吹替えをされていたのが、耳に焼き付いていましてね。この世界に入って一番感動したのが、田中信夫さんにお会いできたことで、この声だ!って感激しました。
その話を、同じく『コンバット!』に吹替えで参加していた羽佐間道夫さん(ジャック・ホーガン演じるカービー上等兵役)にしましてね。そうしたら“賢雄、それは違う、俺の声を憶えているはずだ”って(笑)、「いやいや、違いますって(笑)、そこで目立とうとしてどうするんですか(笑)」なんて笑い合いました。
それぞれの人に忘れられない“声”、“作品”がありますよね。

——ファンの方からの声や想いを感じたことはありますか?
そうですね。ファンの方からお手紙をいただいたりしています。
感じ方は色々とあると思いますが、“堀内賢雄バージョン”というのを自信を持ってやっていますので、ファンの方には楽しんで自由に感じていただければうれしいです。
でも、聞き比べ企画とかあっても、他の人のは観ないかな、僕より上手いかも知れないからね(笑)!

——これまで声優として、演じてきて
音楽やDJの世界に行きたかったのですが、奥が深くて、わからないことが多かったです。その時は曲を詳しく知ることや、リズムに乗ってしゃべったり、心地よくしゃべるということをしていたんです。
演技の世界に飛び込んでからは、“かっこつけてしゃべるんじゃない”なんて、これまでとは真逆のことを言われてね、師匠のたてかべ和也が一緒にいてくれて、とにかく形になるまで必死にやっていこうと思ってやっていました。
いまでも“賢雄さん、すごいです!”なんて言われることはないですよ。“アホか”なんていわれることはしょちゅうですけどね(笑)。でも、ずっと“アホ”でいたい(笑)。
何も言われなくなったら、おしまいかなって。
「こんなのできるかな」っていう仕事でも楽しくなってくるし、“もっと過激に”って指示でも「もうすぐ60歳なのに」って言いつつ演じています(笑)。毎回お仕事は戦いです。

——声優を目指す方へのアドバイス
声を作るなと言ってますね。
キャラクターの性格をきちんと見極めて、それから声を出していったほうがいいよ、と言っています。イメージで作っていくと、インチキっぽくなるというか、リアリティを感じなくなるのでそこは伝えますね。
この間も“老人役”を受けたウチの若手が、監督曰く55歳くらいかなっていう設定の吹替えで、息も絶え絶えのひどいかすれ声で“わしが…”なんて始めたので、「あほかお前、おれは59歳だけど、そんなしゃべり方してるか」(笑)って。
そういうイメージで、声を作ってしまうことがすごくイヤですね、老人と言われたら55歳でもかすれ声を出したり、安直に声を作ってしまうことはやめたほうがいいよと言いますね。
キャラクターの登場シーンが少なくても、そこは自分の中で性格付けをしていけば、そのキャラクターに対しての声が出てくるはずですよね。そこを怠って声を作るだけだと、嘘っぽくなってしまいますね。
楽をして作ることをしてしまうと、それがクセになって常にそれをしてしまう。そうすると自分というもの、個性が無くなってしまう。“これがオレだ”という売りがなければ、この世界で長くやっていけないです。
声を作る、ということからは何も始まっていかない気がします。
僕自身は“器用じゃないなぁ”なんて言われて苦労することもありますが、丁度いいのかも知れませんね。変な色をつけない分、ここまでやってこられたのかもしれないです。

——「吹替王国」をご覧になる方へのメッセージ
これまで色んな方が出演された特集に声をかけていただいて、このような機会をもらえてとてもうれしいです。
ここまで吹替えをしてきた仕事のおしゃべりもできましたし、僕にとってもうれしいことです。
ムービープラスのファンの方には、吹替えをする人も含めて、たくさんの映画好きが関わっているということがわかると思いますので、ファンの方々にも映画を、そして吹替えを盛り上げていただければいいなと思います。ありがとうございました。

ふきカエルインタビュー堀内賢雄さん[プロフィール]
堀内賢雄(ほりうち けんゆう)

7月30日生まれ。静岡県出身。
特技は野球。
洋画だけでなく、海外ドラマ、アニメーション、ゲームの声優として、またナレーターとしても活躍を続けている。
出演する作品も多岐に渡り、シリアスからコメディまでほとんどのジャンルをこなしている。
長期に亘り放送されたTVドラマの吹替えも多く、『ビバリーヒルズ高校&青春白書』のスティーブ役、『宇宙船レッド・ドワーフ号』のリスター役、『フルハウス』『フラーハウス』のジェシー役でお茶の間でもお馴染み。
ふきカエル“凄ワザ”プロジェクト第2弾『危険戦隊デンジャー5 ~我らの敵は総統閣下~』では、主力メンバーのひとり、タッカーを担当した。

 
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「吹替王国 #10 声優:堀内賢雄」

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