浪川大輔さんインタビュー

浪川大輔さんCS映画専門チャンネル・ムービープラスで、人気声優で観る吹替版の新しい楽しみ方を提案する好評企画!「吹替王国」第13弾!

第13弾となる今回は、声優のみならず様々なジャンルで大活躍中の、浪川大輔さんが登場!
ヘイデン・クリステンセン、イライジャ・ウッドの吹替えを多くご担当する浪川さん。その浪川さんが吹替えを担当した、『ザ・レジェンド』(ヘイデン・クリステンセンを吹替え)、『ゾンビスクール!』と『ロード・オブ・ザ・リング』3部作(イライジャ・ウッドを吹替え)の5作品を今回の「吹替王国」で放送します!
その放送に先立ち行われた、浪川大輔さんへのインタビューをどうぞお楽しみください!

 

——「吹替王国」はご存知でしたか?
はい、もちろんです。第一回目の藤原啓治さんの回も観ましたし、山寺(宏一)さんと(大塚)明夫さんで『マスク』をやっていたのも観ています。

——「吹替王国」のオファーがあった時、どのように感じましたか?
錚々たる先輩方が出ている企画ですし、吹き替え自体が僕の声優としての出発点でもあったので、勝手に「出たいな」と思っていたんです。吹替えの良さを少しでも皆さんに伝えられたらいいなと思っていて、だからオファーをいただいた時は「やらせていただきたい」と思いました。

浪川大輔さん——おもしろCMのナレーション収録はいかがでしたか?
本当にふざけてるんだなと思いました(笑)。うまい具合に本編のシーンを使っているんですよね。CMでは、すごく早い口調でしゃべらせていただきました。今回収録した3バージョンはすべて違う役だったんですけど、ディレクターさんに「ひとつずつ撮りますか?いっぺんに撮りますか?」と言われて「どちらでもいいですよ」って言ったらいっぺんにやることになっちゃって(笑)。なんて声優泣かせなんだと思いました(笑)。
でも、シリーズ以外だと一回演じた役ってもう一度演じる機会がなかなかないので、懐かしさと新鮮さがよみがえってきました。当時『ロード・オブ・ザ・リング』を収録した時は時間もかかりましたし本当にしんどかったのですが、自分のターニングポイントになった作品でもありますので、こうやって取り上げてもらえるのはありがたいです。

——子役の頃から足掛け30年以上ご活躍ですが、途中7年ほど社会人経験をされています。その間も声優のお仕事はやられていたんですよね?
はい、やっていました。年に一本のレギュラーとかそういう感じでしたけど、その時もずっと仕事をつないでくれていたのは吹替えでした。昔だったら海外ドラマの『ロズウェル – 星の恋人たち』とかあの辺ですかね。単発の映画の吹替えだけ、という時期もありましたけど、そんな中でもずっとそばにいたのは吹替えだったなという印象です。

浪川大輔さん——『ロード・オブ・ザ・リング』は、ちょうどその7年の間に吹き替えられていますよね。
浪人して大学に行って卒業し、普通の会社員になったんですが、声優の仕事はずっと続けていきたいなと思っていました。でも続けていきたいという気持ちだけでは仕事はなくて。25歳の時に『ロード・オブ・ザ・リング』でイライジャ・ウッド、『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』でヘイデン・クリステンセンをやらせていただきました。27歳の時に山寺(宏一)さんにひっぱってもらって俳協(東京俳優生活協同組合)に入ったんですけど、『ロード・オブ・ザ・リング』と『スター・ウォーズ エピソード2/クローンの攻撃』をやった奴が入ってくるってことで丁寧に扱っていただいたんですが、それしか仕事がなくて(笑)。『ロード・オブ・ザ・リング』は1年に1本で、『スター・ウォーズ』に関してはエピソード2からなので、3年に1本という、ものすごくスパンの長い作品だったので、この2作品があったことでだいぶ助けられました。だからこの2作品に関しては、かなり思い出深いです。『ロード・オブ・ザ・リング』は3作品を1年ずつやって3年で終わってしまったんですけど、この作品のおかげで「吹替え」自体が世の中に浸透しましたし、本編も長いですが、ソフトに収録の6時間くらいあるスペシャル・エクステンデッド・エディションやメイキングも吹き替えさせていただいたので、すごく思い入れがある作品です。

——『ロード・オブ・ザ・リング』収録中の思い出や、何かエピソードはありますか?
当時は劇場用の吹替版って、あんまり作られていなかったんですけど、1作目は全員揃って収録しました。アラゴルン役の(大塚)芳忠さんなんて、夕方にスタジオに入ってから夜の11時くらいまでの間、一言も収録せずに帰ったりとかしていましたよ。「あの大塚芳忠を、一言もしゃべらせることなく帰すなんて!」って思いました。一方、僕はセリフがいっぱいあるように見えますけど、ほぼ喘ぎ声なのでずっと「はぁはぁ」言ってました。それか「ガンダルフー!!」とか「指輪を・・・指輪を・・・」しか言ってなかった(笑)。マイクを2本、上と下にセットして、シーンに合わせてどっちのマイクを使うかを決めたりだとか、収録方法にもすごくこだわっていました。吹替えとしても、挑戦しながらやっていた現場だったなという印象があります。

——初めて洋画の吹替えをされたのは、何という作品だったんですか?
『白バイ野郎 ジョン&パンチ』という作品のシリーズ最終章にあたる『白バイ野郎 パンチ&ボビー』という作品で、小学3年生くらいの時です。その辺の通りすがりの子供の役で、「こんにちは」とか「バイバイ」とかしかセリフがなかったと思います。今の新人声優さんと同じで、いきなり主役ではなく下積みからでした。当時は、『グーニーズ』とか『ネバーエンディング・ストーリー』とか『E.T.』とか、子供がメインの映画が多くて。そんな時代に、たまたま僕が『E.T.』をやらせてもらったんです。聞いた話によると、『E.T.』はスピルバーグ監督が吹替版を作っちゃダメって言っていたそうなんです。日本としては、子供に観てほしい映画だから、ぜひ吹替版を作りたいとお願いしたそうなんですが、それでも許可が下りなかったらしくて。なので、たぶん劇場公開時には日本語吹替版はなかったはずです。だけど、その後も吹替版の制作を交渉していて、スピルバーグ監督が「主役をこの子の声にしてくれ」とOKが出たそうなんです。これがきっかけで、ほかのお仕事のオファーも来るようになりました。その後、スピルバーグ監督が初めてディズニーと組んだ『アメリカ物語』というアニメ映画も、指名でオファーをいただき主人公をやらせていただきました。収録は厳しくて大変でしたが、『E.T.』をやっていたおかげでこの役ができたので、感謝しています。

——イライジャ・ウッドを演じる時に役作りで意識していることは?
イライジャ・ウッドだからこうやろう、とは全然思っていません。彼も僕と同じように子役からやっている人なんです。以前彼のインタビューを読ませてもらったんですけど、身長が低いとか目が綺麗すぎるとか周りから言われたりして、大人の役作りが上手くできずに悩んでいたみたいなんです。僕も同じで、大人の役がなかなか上手くできない時期があったので、そういう部分をリンクできればいいなと思ってやっています。無理に大人の役を作るんじゃなくて、今ある彼のすべてを使って演じているんだということをちゃんと理解した上で演じたいというか。「自分がこうしたい」ではなく、「イライジャがやりたいことをやってあげたい」という気持ちです。

浪川大輔さん——今回、おもしろCMで『ロード・オブ・ザ・リング』のイライジャを演じてみていかがでしたか?
イライジャのように、何度も吹き替えさせてもらっている場合はあまり忘れないです。『ロード・オブ・ザ・リング』や『スター・ウォーズ』は何年間もやらせてもらっているので、この二人(イライジャ・ウッドとヘイデン・クリステンセン)に関しては、すぐにその時に戻れるような感じです。逆に難しかったのは、変わりすぎちゃったエドワード・ファーロングとかジェイク・ギレンホール。ジェイクは、若い時に『デイ・アフター・トゥモロー』でやらせてもらったんですけど、今はムキムキになっちゃって、マッチョに変身しました(笑)。あそこまで変わられちゃうと難しいですね。イライジャは、雰囲気は変えてきても見た目はあまり変わらない人なので、そういう意味ではヒントをたくさんもらえる感じですね。

——『ゾンビスクール!』は楽しい作品ですが、演じてみていかがでしたか?
まず、チキンナゲットを食べてゾンビになるって設定が「はぁ?」って感じですよね(笑)。意外とアメリカンジョークって分かりづらかったりもするので、日本語で分かりやすく伝えるにはどうすればいいかなと考えてやっています。コメディの場合は、教科書通りじゃなくていい場合が多いので、ちょっとしたやり取りやリアクションで与える印象が大きく変わるような場合には、どんどん積極的にアドリブを入れたりしたいですね。石丸(博也)さんがジャッキー・チェンの映画の走っているシーンで「あー、疲れた」と入れるのは、「それってただの石丸さんの本心じゃない?」って思うときもありますけど(笑)。でも、そういうセリフがぴったり合って聞こえるというか、そういうものが吹替えの面白さでもあると思います。シリアスな映画ではあまりできないかもしれないけど、『ゾンビスクール!』のような楽しい雰囲気の作品には、そういうものを混ぜても許されるのかなと思って、楽しんでやっています。

——『ゾンビスクール!』の吹替版の見どころは?
あまり突き詰めると迷走する可能性がありますが(笑)。観たまんまを感じてキャッチしていただくだけで楽しめる、「これぞアメリカ映画」になっていると思います。

——コメディは吹き替えの方が楽しいと思います。
仕掛けが多い作品は、視覚も聴覚もフルに使って観た方が面白いですよね。特に4Dのように、全身で映画を楽しむのであれば、視覚も字幕にとらわれず、役者の表情を見ていただきたいですね。僕は、役者さんのイラっとした顔とかにちょっと味付けして表現したいタイプなので、何度もやらせてもらっている役者さんを演じる時には癖を拾いやすいですね。
声優というのは影武者だと思います。表に出る必要はないんじゃないかな、と僕の場合は思います。

浪川大輔さん——アニメでも大活躍中ですが、吹替えとの違いについて教えてください。
吹替えに関しては小さい頃からやってきているので、まだまだ極めてはいないんですけど、だいぶ身に染みついているとは思います。吹替えで生きてきたという想いがあるので、自分の中ではホームというか、戻ってこられたという感覚があります。実はアニメは、まだ慣れていないです。もう全然だめです。アニメってゼロから作り上げていくじゃないですか。それが苦しくて苦しくて・・・。これでいいのかな?って悩みながらなんとかやっています。もちろん吹替えでも悩みながらやるものもありますけど、吹替えは安心する。だから、わがままかもしれないけど、アニメも吹替えも両方バランスよくやりたいというのはあります。声優さんによっては、どちらかひとつに絞る方もいらっしゃいますけど、僕は両方やっていたい。

——浪川さんが達成感を感じるのはどういう時ですか?
役者やキャラクターの後ろに陰の存在としているのが声優だと思っているので、達成感はずっとないですね。「これで合ってた?」ってご本人に聞いてみたいです。もし達成感を味わえるとすれば、観た人が面白かったと言ってくれる時じゃないでしょうか。吹替えをしていて達成感を感じるということは、ないです。
僕、せっかちで飽きっぽい性格なんですけど、声優の仕事って答えがなかなか出てこないですし、なかなか達成感を得られないからこそ、「もっとできることはないのか、あるんじゃないのか」って思って続けられているんじゃないかと思います。「自分はこれをやったんだ!」のようなおごりは一切ないです。「僕の全盛期は12歳です」とかいつも言ってるんですけど(笑)。あの時は「やってやる!」と思いながらやっていたんですが、今はまったく違います。でも、いただいた役は全力でやるようにはしています。

——最後に、「吹替王国」を楽しみにしている視聴者の方へのメッセージをお願いします。
今回「吹替王国」で放送する5作品って、一日で連続放送するんですよね?『ロード・オブ・ザ・リング』3部作だけで10時間くらいあるのに・・・ムービープラスさん、大丈夫なんですか?(笑)
それはさておき(笑)、吹替えがこうしてクローズアップされるのはすごく嬉しいです。声優というのは陰ながらの仕事かもしれませんが、こうしてこだわって作っているんだということを知っていただけたらと思います。“命を懸けて”と言ったら大げさかもしれませんが、色んな挫折をしながら人生を懸けて、自分がホームと呼べるところでなんとかやってきました。もちろん映画自体の面白さも楽しんでいただければ、それだけで十分幸せです。皆さんで吹替えや映画の世界を盛り上げていってくれたらありがたいと思いますので、今後ともよろしくお願いいたします!

浪川大輔さん[プロフィール]
浪川大輔
(なみかわ だいすけ)
4月2日生まれ。東京都出身。
9歳から子役として活動し、『白バイ野郎 パンチ&ボビー』の吹替えで声優デビュー。代表作に『スター・ウォーズ』シリーズのアナキン・スカイウォーカー役、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのフロド・バキンズ役、『ターミネーター2』ジョン・コナー役など数多くの作品に出演。2013年からは歌手活動も行い単独ライブを開催するなど、幅広く活躍している人気声優。
 

2018年2月12日(月・祝)朝10:15~深夜12:15放送
ムービープラス
「吹替王国 #13 声優:浪川大輔」

※番組の放送は終了しました。
movieplus.jp