アンソニーの吹替え事件ファイル

第3回 淀川長治氏が『こんな映画かけるなら「日曜洋画劇場」降りる』と激怒した問題作品とは?

今回は、実は映画番組担当者としては、あぶら汗だくだく、心臓バクバク、顔色真っ青となった恐怖の体験である。是非、これから読まれる方は自分がこの立場になったらどうしよう、という気分で一読して欲しい。
作品は、1992年9月6日「日曜洋画劇場」で放送されたアメリカ映画『クラス・オブ・1999』(1990)。監督は『処刑教室』(1982)、『炎の少女チャーリー』(1984)、『コマンドー』(1985)、『リトルトウキョー殺人課』(1991)、『必殺処刑コップ』(1993)等の 監督マーク・L・レスターである。

アンソニーの吹替え事件ファイル

内容は、1999年のシアトル。無法地帯と化したケネディ高校に、パンク・グループのブラックハーツ団を率いるコディ(ブラッドレイ・グレッグ)が舞い戻って来た。たちまち学園内に抗争の嵐が吹き荒れる。ラングフォード校長(マルコム・マクダウェル!)は教育委員長でロボット工学者でもあるフォレスト博士(ステイシー・キーチ)の提案に従って、学内の治安を取り戻すべく、アンドロイド教師の導入を決定、アンドロイド教師たち(3人のうちの1人の女性教師はパム・グリア!)は過激な暴力で生徒らを鎮圧していく。それに疑問を持ったコディは校長の娘クリスティ(トレーシー・リン)と調査を開始する。さらにフォレストとアンドロイド教師たちは、ブラックハーツ団を対立するレザーヘッド団と闘うように仕向けて共倒れさせようと画策する。コディたちはその企みに気づき、生き残ったパンク集団メンバーと連合・協力して、アンドロイド教師たちとの対決に臨む。激しい戦闘の中、次々倒れていくメンバーたち‥。

一言で言えば、SFタッチの荒廃した学園ものであるが、不良学生の鎮圧にターミネーターばりのアンドロイド教師が3体派遣され、学生たちと死闘を繰り広げる!学校の荒廃ぶりなどはとても授業をするどころではない描写である。学生が暴徒集団、この地域自体が無差別発砲区となっており、警察も立ち入れない。ヤクも当たり前。刑務所から出てきたばかりの主人公がいきなり街中で銃撃される。生徒は校門で武器を提出しなければならない程の設定!校内ではカツアゲ・喧嘩・拳銃所持・麻薬の常用が平然と行われている。そこに来たアンドロイド教師たちは指令室からの指令で「懲罰」という体罰を始めるが、段々エスカレートしていき、次々と殺しまでに発展していく‥。メジャー大作ほどの制作費はないと思われるが、アンドロイドの武器は、腕が火炎放射器やドリルとなったり、小型ミサイルを発射したりと、クライマックスは『コマンドー』の監督だけにド迫力のアクション満載で飽きさせない。

しかも、この日本語吹き替え版の出演声優陣が凄い!1992年の放送なので、主役の高校生に堀内賢雄!ひょっとしたら私が堀内氏を主役でお願いした初めての作品ではないか、と記憶する。相手役に渕崎ゆり子、校長に堀勝之祐、ロボット工学者に石田太郎、アンドロイド3体に有川博、若本規夫、吉田理保子という声だけで貫禄十分の恐怖の布陣!

そして、いよいよ解説試写のために、淀川長治氏に観てもらうことになったのだが‥。
試写が始まると、早々町と学校の荒廃ぶりが延々と続く。まず、2ロール終わったあたりでベテランの女性社員が「こんな映画、日曜洋画でかけていいの?」と試写室を出ていく‥。こちらとしては、マルコム・マクダウェルやステイシー・キーチ、パム・グリア等の有名曲者俳優が出ていることで、淀川氏の興味を引こうとするが‥。表情を見ていると誰でもわかるように表情が険しくなっていく‥。「ひどいなあ」を連発し始め、試写が終わると、決定的な一言「こんな映画かけるなら日曜洋画の解説をやめる!」が出てしまう。困った先輩社員からは「日曜洋画での放送を止めて、深夜枠に落とせないのか?」と言われるもそれなりの放送権料のものが簡単に深夜枠の予算におさまるわけはない。こちらとしては、単なる1本のB級アクション映画のつもりだったのだが‥。困惑している我々を見て、さすがに淀川氏も「まあいい。やりましょ。」と一応納得。それでも、実際の解説でははっきり覚えてはいないが、「昔の学校を描いた映画では不良が出てきても教師の方には何かしら愛があったが、この映画には全くない。今日はこんな下品な映画を観てもらいました。」というような感じで締めくくった。

我々の心配をよそに、視聴率は20.5%と予想以上であった。取りすぎと言っても良い数字である。当時は「ターミネーター」系アクションSFが真っ盛りだった状況だったので、その要素が受けたと思われる。特に視聴者からのクレームもなかったようだ。社内でも「よく20%とったなあ」と言われても嬉しさは特になし。しかし後にスポンサーからは、「我々が期待するような映画ではない。視聴率が取れれば良いというものではない!」と面と向かって言われてしまった。ということで、2回目は深夜落ちとなった。20%以上取った作品で2回目が深夜落ちになったのは、これが初と思う。

この作品、国内ではDVDは廃盤である。購入元は今はないアスキー・ピクチャーズのため、日本語吹き替え版が現存しているか心配である。

なお、主役の堀内賢雄氏と昔話をすると、必ずこの話が出てくる。
一時はどうなるかと思ったが、これも忘れられない冷や汗・あぶら汗いっぱいの一つの思い出話である。

 

☆☆☆なんと!堀内賢雄さんからこの作品について、当時について、貴重なコメントが届きました!☆☆☆
堀内賢雄さんのコメントはここをクリック
『クラス・オブ・1999』は私にとって忘れることの出来ない思い出です。
錚々たるメンバーに囲まれ緊張しっぱなしの収録でした。
役者はキャラクターに魂を入れる事だけ考えろと常に言われ続けていたので、そればかり考えていました。
私の役割はそれで終わり、福吉さんはじめ、スタッフ、役者で打ち上げをしたのを覚えています。
オンエアも終わり、視聴率も良く、万々歳と思いきや、福吉さんに後日お会いしたら、『いやぁ〜だいぶ叱られました』と浮かない顔。
洋画全盛時代のなせる思い出話です。

堀内賢雄


 
 
[作品画像はAmazon.co.jpより]
※Amazonのページで紹介しているDVD・ブルーレイ等のソフトは、今回紹介する日本語吹替え音声を収録しておりませんので、ご購入等の際はご注意ください。
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『クラス・オブ・1999/処刑教室2』