ダークボのふきカエ偏愛録

#54 【温故知新シリーズ】 そこは流れで・・・

どうやら令和初のテレビふきカエは、ザ・シネマさんの『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(まさに快挙!)のようで。思えばこのシリーズ、『マッドマックス2』と『マッドマックス/サンダードーム』はブルーレイの再発時に、第1作の日テレ版に合わせてマックス=安原義人さんで新録されてますから、ふきカエ制作のモチベーションと歴史がいろいろねじれてて面白いですね。

ただ俺は、「テレビふきカエ」なるものの本質は「編集して放送する」ことにあると思っているので、往年の地上波ふきカエをリスペクトしつつも、ノーカット・ノーCMで制作されるザ・シネマさんのお仕事は、特殊な立ち位置にある気がします。
平成の終わり頃に何本か作ってみて、今や最前線のディレクターやスタッフの皆さんにも「編集して放送する」ノウハウを知らない人が多くなってしまったのを痛感しました。ここはウチが(他局でも構いませんが)現場を提供して経験値を積んでもらわないと、テレビふきカエの伝統が失われてしまう・・・と危機感を覚えてはいるものの、なかなか次の企画が決まらなくてね。まあ令和元年中には何かやりたいと思ってますが。

「編集して放送する」ふきカエというのは、まずは
①限られた放送時間内に収める
そして
②本編中にCMを入れる
という民放局の都合で黙認されている作業ですが、それをクリアしつつ
③とにかく面白い番組にする
というのがミッションですから、そのために、オリジナルにはない様々な演出を加えます。
(最近、劇場版の「タレントふきカエ」について意見を求められることがありますが、あれはノーカット・ノーCMで観せる前提での演出の一つであって、我々とは方向性が違います)

具体的には、尺に合わせて本編を編集した上で、セリフをいじったり、声優さんに原音とは違ったテンションで演技してもらったりするわけですが、時にはストーリーや「オチ」までちょいと変えてしまうことだってあります(オリジナルの監督が観たら激怒するかもね)。

ダークボのふきカエ偏愛録

一つ思い出したのが、2000年に「木曜洋画」で放送した『デストラクション/制御不能』
FBI捜査官のニック(ロレンツォ・ラマス/声は家中宏さん)とケリー(クリステン・クローク/小山茉美さん)が、トチ狂った元軍人デイシー(ゲイリー・ビューシイ/樋浦勉さん)と闘い、最終的には上司タガート(ロイ・シャイダー/佐々木梅治さん)とも対決するストーリーです。
声優陣の熱演、殊に樋浦勉さんの頭の血管がブチ切れそうな絶叫芝居で、オリジナル(一応公開作だよ)の5割増しくらいキレッキレのアクションに仕上がりつつあったんですが、エピローグのナレーションがこんな感じで・・・(以下採録)


    ニックとケリーは(中略)現在はFBIアカデミーで犯罪心理学を教えている
    タガートとデイシーも短期講習の教材として取り上げられている
    そして今度のバレンタインデーの頃には、ニックとケリーの子供が生まれる予定である


・・・ここまで台本通りにアテてもらったところ、「何だそれ」という声と共にスタジオ内に失笑が溢れまして。
壼井正ディレクターと即相談し、後日再編集してエピローグごとカットしました。

ダークボのふきカエ偏愛録

エピローグのカットと言えば、2005年放送『ブレイド2』の台本打ちにて。
ヴァンパイアハンターのブレイド(ウェズリー・スナイプス/声はもちろん大塚明夫さん)が、新たな強敵リーパーズとの闘いで、ヴァンパイアチームとまさかのタッグ。共闘のうち、ブレイドはヴァイパイア美女戦士(レオノラ・ヴァレラ/当時、明夫さんの奥様だった沢海陽子さんをキャスティングしたのがミソ)とイイ感じになるのですが、二人には悲劇的な別れが・・・という涙のエンディング。
と思いきや映画はさらに続き、エピローグでは、すっかり立ち直り本来の仕事に戻ったブレイドが、再びヴァンパイアを狩りまくるのです。少し前まで、あれほど情を交わしてたくせに・・・と納得が行かずにいたところ、同じことを考えてたらしい向山宏志ディレクターが「これ全部切っちゃっていいですか?」と。
二つ返事でOKしたので、このエピローグは台本にもありません。やっぱあそこで終わっちゃった方がよかったんじゃないすか、ギレルモ・デル・トロさん?(とオスカー監督に意見する)

まあこの2例は蛇足な部分を切った程度のことで、もっと罪深い改変をしちゃったケースも多々ありますが、大声では言えませんな。
ともあれ、こういうオリジナルを逸脱したアレンジは、あくまで局の責任で、局プロデューサーが決断しないとできません。
なので、テレビ局がほとんどふきカエを作らなくなった今、制作現場にはそういう発想すら生まれないのです。これぞ「テレビふきカエ」の極意なんだけど。つまらないなあ。
俺が現役でいる限り、この「決断」のしかたを後進に伝えていきたいのですが、まずは現場を作らないとね。

さて、ここからは番宣です。
「指輪物語」「ホビットの冒険」の作者の伝記映画『トールキン 旅のはじまり』(『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のニュークスことニコラス・ホルト主演ですね)が8/30(金)に公開されますが、折しもBSテレ東では、4月に無料テレビ初放送した「ホビット」3部作を、8~9月に再放送。
ふきカエは新録しませんが、ただ再放送するのも芸がないので、「16:9フルフレームバージョン」の映像を新たに取り寄せました(初回放送はシネスコ・レターボックス版)。

8/11(日) 午後2時~ 『ホビット 思いがけない冒険』〈特別版〉
8/18(日) 午後2時~ 『ホビット 竜に奪われた王国』〈特別版〉
9/15(日) 午後2時~ 『ホビット 決戦のゆくえ』〈特別版〉

何とこれが本邦初公開! 画面いっぱいに展開するド迫力のトールキン=ピージャク世界をお楽しみください。
視聴者プレゼントもありますよ!

 

[作品画像はYahoo!映画、Amazon.co.jpより]
※Amazonのページで紹介しているDVD・ブルーレイ等のソフトは、日本語吹替え音声を収録していなかったり、このページで紹介しているものとは異なるバージョンの日本語吹替え音声を収録している場合や既に廃盤となっている場合もありますので、ご購入等の際はご注意ください。