ダークボのふきカエ偏愛録

#75 理屈じゃないんです！

気が付くと、もう11年以上も続けてるこのコラム。初回から一貫して語り続けてきたのは「テレビふきカエ」の魅力だが、そんなジジイの叫びもむなしく、若い映画ファン、テレビファン（むしろ配信ファンか）には日に日に話が通じなくなっているのを感じる。
これまで何度も書いてきたことだが・・・劇場版・ソフト版（配信版もかな）のノーカットふきカエと「テレビふきカエ」は、別物です！
例外もあるが、概して前者の主旨は、オリジナルのセリフを正しく日本語に置き換えること。文化の違いなどで日本人には意味不明な表現があっても、そのまま伝わればいい。一方、テレビふきカエは、時にオリジナルを無視してでも「番組として面白くする」のが目的なのです。わかりにくいところはわかりやすく、盛りまくった表現に置き換える。
そんなことが許されるのか？ダメなんすよ、実は。大抵の作品は、本編のカットも含めて、オリジナルのプロデューサーの許可なくいじってはいけない契約になってるから。まあ『クン・パオ！燃えよ鉄拳』やウディ・アレンの『What’s Up, Tiger Lily？』（わかります？）じゃないけど、勝手にいじられる監督の身になってみれば当然だよね。
それでも「テレビふきカエ」が作られてきたのは、ふきカエと言えばテレビだけのものだった昭和のテレビマンの努力と、配給会社の皆さんの懐の深さの賜物でした。でも映画番組自体が減り、配給もハリウッド直下のブランチが主流になった今では、そんな昭和の常識も忘れられつつあるようで。

昭和の終わり、俺がこの業界に飛び込むきっかけとなったのは、映画ではなく、学生時代に下宿で観ていた「特捜刑事マイアミ・バイス」「全米熱中ＴＶ！ファミリータイズ」などのふきカエドラマだった。
運命に導かれるようにその担当部署「映画部」に入った頃、直属の先輩が担当していたのが「木曜洋画劇場」と、あの破天荒なドラマシリーズ「俺がハマーだ！」。

ダークボのふきカエ偏愛録「俺がハマーだ！」の先輩プロデューサー（故人）はバラエティ番組等の制作出身で、映画部の仕事は自分の本分じゃない、くらいに思っていた人だったが、ふきカエ制作にはその演出センスをブチ込んだ。結果、スレッジ・ハマー刑事＝羽佐間道夫さんの「理屈じゃないんです」とか、数々の名セリフが生まれた次第。

そんな先輩Ｐの背中を見ながら（マイペースでずいぶん叱られたけどね）、俺は「木曜洋画」の見習いになり、劇場未公開作品だらけのラインアップを「ふきカエで面白くする」ことを叩き込まれた。
忘れられないのは、当時『ポリス・アカデミー』で大人気だったスティーヴ・グッテンバーグ主演のコメディ『ドクターズ・アカデミー／全員暴走中！』。正直、この木曜洋画オリジナルの邦題ほど迫力はなく、イマイチ笑えない映画だったが、これを笑えるようにしようと、先輩がバラエティ番組の若手構成作家を連れてきて。みんなで徹夜で議論して台本を作ったな。その構成作家さんは、今では「２４時間テレビ」や「日本アカデミー賞授賞式」のチーフ作家ですよ。

従来の「テレビふきカエ」はこうやって作るものだった、ということを知る人は、もはやふきカエ専門の制作会社にさえほとんどいなくなった。
俺は出世もせず、今も昭和と同じふきカエ作りを細々と続けているが、それは仕事を発注することで、テレビ局だけでなく制作会社の皆さんにも「テレビふきカエ」を体得してほしいから。
でも、そろそろ限界かな・・・。

さて、おそらくこの「ふきカエル大作戦！」でも大々的にＰＲされてると思いますが。
かつて俺を修羅の道に誘い込んだ鬼番組「俺がハマーだ！」が、ブルーレイＢＯＸになって帰ってくるってよ！ＤＶＤとは見違えるような高画質にリマスターされてるとの噂。俺のマギーも黒光りしてるぜ！
一家に一箱のマストアイテム！羽佐間道夫さんと内海賢二さんのガチンコ対決、盛りに盛ったセリフで、「テレビふきカエ」の真髄をお楽しみください。