吉田Dのオススメふきカエル

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『真冬の夜のミステリー』

このところ寒い日が続いておりますが皆さまいかがお過ごしでしょうか。暖冬といわれる当節でもさすがに2月ともなれば寒い日は寒い。つい出かけるのも億劫になりがちですが、そんなときの強い味方が配信系の作品たち。基本的には映画館原理主義者の当方としましても、お家でぬくぬくしながら映画を楽しめるなんていい時代だよなあ、と思わざるを得ません。そんな冬の夜にぴったりな上質のミステリー作品をご紹介します。

吉田D『ナイブズ・アウト:グラス・オニオン』

監督:ライアン・ジョンソン
出演:ダニエル・クレイグ エドワード・ノートン
Netflixにて配信中

 

IT企業の大富豪マイルズ・ブロンは地中海に所有する孤島に親しい友人たちを招待し、ミステリーゲームを開催する。しかし島で実際に殺人事件が発生。遊びだったはずのゲームは一転して恐ろしい事件となり、参加者は容疑者候補となってしまう。風変わりな名探偵ブノワ・ブランは、事件に隠された真相を明らかにすべく調査に乗り出す。
 

ジェームズ・ボンド役を無事(?)任期満了で降板したダニエル・クレイグが、ボンドとは180度違う曲者の名探偵に扮した人気シリーズの第二弾が登場。こちらでは体ではなくアタマを使って(もちろんQ課の開発した秘密兵器もナシ)入り組んだ謎を解き明かし、事件の真相を暴いていきます。

名探偵ブランが初めて登場したのは2019年に劇場公開された『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』。巨額の富を築いたベストセラー作家が刺殺され、彼を取り巻く一族はそれぞれに動機を持つ怪しい奴ばかり。何重にも入り乱れた謎の糸を探偵ブランが明晰な推理で紐解いていく過程は、この手の推理劇の王道であるオールスター・キャストたちの名演も相まって一級のエンターテインメントに仕上がっておりました。

その大ヒットから4年後に登場した本作も、基本的な構図は同じ。大富豪が所有するプライベート・アイランドというある種の密室を舞台として、一癖も二癖もある容疑者たちと名探偵との頭脳戦が展開します。監督・脚本は前作に続きライアン・ジョンソン。『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』で名を馳せた監督の次回作が地味な推理劇だったのが当時は意外に思えましたが、彼が敬愛する推理小説の大家アガサ・クリスティを研究しつくして書き上げたオリジナル脚本には、古典的ともいえる舞台の中に個性豊かなキャラクターが魅力的に描かれていました。その手腕は続編となる本作でも健在です。

主役のブラン探偵を演じるのはもちろんダニエル・クレイグ、日本語版はこちらも同じく藤真秀さん。2009年の『007/カジノ・ロワイヤル(日曜洋画劇場版)』でクレイグの吹替えに大抜擢され、その後の007シリーズ全作で主役の声を担当しました。2012年の『007/スカイフォール』では吹替え版が劇場公開され、“テレビ放送版のキャスティングがオフィシャルとして認められる”という吹替え業界では珍しいケースになったのも記憶に新しいところ。
脇を固める宮本充さん、佐古真弓さんといった芸達者に加え、被害者のアシスタント役であるイーサン・ホークの声にちゃんと咲野俊介さんが当てられているのがうれしいですねえ。こういう脇のキャスティングでニヤリとできるのも上質な吹替え版を楽しむときの醍醐味であります。
⇒吹替え版のスタッフ・キャストはこちら
 

吉田D『ほの蒼き瞳』

監督:スコット・クーパー
出演:クリスチャン・ベイル ハリー・メリング
Netflixにて配信中

 

1830年の冬。ウエストポイント陸軍士官学校で発見された一人の士官候補生の死体は、心臓が巧妙にくり抜かれていた。学校の体面に傷がつくことを懸念した幹部は、事件の解決を地元に住む元刑事ランドーに依頼。詩を愛する風変わりな士官候補生エドガー・アラン・ポーを助手として捜査を始めたランドーは、やがて恐ろしい闇の領域へと踏み込んでいく。
 

さて続いては19世紀が舞台のミステリー。雪に閉ざされた冬の夜、閉鎖的な陸軍士官学校で起きた陰惨な連続殺人事件に、自身も暗い過去を持つ元刑事が挑みます。その主人公の助手となるのが士官学校の生徒であるエドガー・アラン・ポー。彼は後に怪奇小説作家として名を残すことになります。

主役の元刑事にはバットマン(『ダークナイト』ほか)からチェイニー副大統領(『バイス』)、マーヴェル映画の悪役(『ソー:ラブ&サンダー』)まで変幻自在のカメレオン俳優クリスチャン・ベイル。スピルバーグ監督が太平洋戦争を描いた歴史ドラマ『太陽の帝国』で戦闘機に憧れていた少年が、今ではこんなやさぐれた中年男を演じるようになったんですねえ。そして彼を取り巻くのがこちらもかつては可憐な少女だった“なまいきシャルロット”ことシャルロット・ゲンズブール、『X-ファイル』のスカリー捜査官ジリアン・アンダーソン、存在自体が怪しい役ならこの人、の名脇役トビー・ジョーンズといった面々。心臓をくり抜くという儀式めいた殺人事件は案の定オカルト的な展開に…と思いきや物語は二転三転、誰も予想しなかった衝撃のラストへ。そして観終わった瞬間、もう一度頭から見直したくなること間違いなし。

さて続いては19世紀が舞台のミステリー。雪に閉ざされた冬の夜、閉鎖的な陸軍士官学校で起きた陰惨な連続殺人事件に、自身も暗い過去を持つ元刑事が挑みます。その主人公の助手となるのが士官学校の生徒であるエドガー・アラン・ポー。彼は後に怪奇小説作家として名を残すことになります。

日本語版で主人公を演じるのは内田夕夜さん。陰鬱な瞳の奥に情念を湛えた複雑なキャラクターをさすがの演技力で見事に表現しています。対するエドガー・アラン・ポーの声は入野自由さん。『DUNE/デューン 砂の惑星』のティモシー・シャラメを始め繊細な美青年役の多い若手の実力派ですが、本作のポーのような“ギリギリのアブない奴”感もまた良し。

今回の二作はミステリーの常道として、劇中には様々な伏線が巧みに張り巡らされています。「え、あれってそういうことだったの!?」となったときに何度でも見返せるという点で、配信というメディアはミステリーに向いているんじゃないでしょうか。寒い冬の夜、熱いコーヒーカップを片手に謎解きに挑戦してみませんか?