飯森盛良のふきカエ考古学

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ザ・シネマ開局10周年。10年目の衝撃の告白「最初の1年半はアンチふきカエ派だった」!の巻

ウチのチャンネルなんですが、12月で10周年を迎えました。思い返せば開局して1年半を経過した夏に、『ダーティハリー』全作の山田康雄さんふきカエ版をやったのが、ウチのふきカエ尊重路線の原点。当時は山田さん音源が収録されてるソフトがまだ出てなかったので、駆け出しのチャンネルがやったにしては、そこそこ話題を呼んだんですよ。

今考えるとけしくりからん話なんですが、それまで1年半の間、ふきカエを放送しようとは、夢にも思ってなかったのです。そういう発想すら無かった。ワタクシ自身、洗脳からまだ覚めてなかったとしか言いようがありません。洗脳というのは「映画は字幕でノーカットで見るのが正解。カットされてるふきカエのTV版なんて、ケっ!」ってな、TV洋画劇場が減ってVHSレンタルが席巻していた時代に支配的だった、たいへん偏った考え方のこと。けしくりからん!

この考えに恥ずかしながらワタクシ自身も洗脳されてて、疑ってみもしない、完璧にマトリックス側の住人だった訳ですが、その洗脳が解けるキッカケとなったのが山田さんの『ダーティハリー』でして、「いや、これはどう考えてもふきカエ以外にないだろ!」と思ったんですなぁ。

この瞬間に、パンっと音がして洗脳が解けて、「『ダーティハリー』のようにふきカエでやった方かいい映画って、考えたら他にも山ほどあるぞ!」と、ふきカエ尊重を高く掲げるようになったという次第なのです。「映画専門チャンネルなんだから、映画をノーカットの字幕版で放送するのが当然」から、「映画専門チャンネルなんだから、過去の懐かしいふきカエ名盤を発掘してくるのは当然」への大転換。業界でも、けっこう先駆的な方だったと思いますよ(と臆面もなく自画自賛)。

以来、「昭和のTV洋画劇場で流れた懐かしのふきカエを発掘する」というコンセプトでやってきて、少なくとも月に最低1本はそういう幻のふきカエ映画をオンエアするようにしてきましたが、やはり、ワタクシ自身が子供の頃に見ているという素材を探し当ててきて、2〜30年ぶりに再見した時なんかは、泣けてくるよなノスタルジアがこみ上げてくるんですなぁ。いゃ〜、ふきカエって、本っ当にいいものですね!と心から思う瞬間であります。民放さんでやって視聴率けっこう獲った作品なんて、日本全国で何百万人が見たかしれませんから、このノスタルジアは多くの皆さんと共有できてるんじゃないでしょうか。字幕だと、この感興はわかないんですなぁ。

ところで。「映画は字幕でノーカットで見るのが正解。カットされてるふきカエのTV版なんて、ケっ」という考え方がかつて支配的になった理由も、まぁ、わからなくはないんですよ。ってか、かく言うワタクシ自身も見事に洗脳されてたクチなんだから。80年台後半からレンタルが普及しましたが、ノーカット・ノーCMで、タイトルバックやエンドロール付きで映画を見れる、ということが、やはり無邪気に嬉しかったんですなぁ当時は。それ以前は、その状態で見るためにはカネかけて映画館に足を運ぶしかなかったのが、何分の一かの料金で自宅のTVで見られる時代が到来した時、そっちに飛びつきたくなっちゃったのも、無理はない。

でも、それってマニアの発想だったのではないか?日本人一般の平均的な考え方ではなかったのではないか?ワタクシ自身マニアですし周囲も映画マニアばっかりだったので、そうと気付かなかったんですが、字幕派が圧倒的多数を占めたことなど当時でもなかったのでは!?と、今では疑っておるのです。ウチがふきカエ尊重路線を始める前に、念のためリサーチをかけたんですが、その時点で字幕・ふきカエ支持層は「ほぼ半々」という調査結果が出てますし。

で、ふきカエを始めてみると、「子育て中なので字幕だと集中して見れないから助かる」とか、「家事やりながらでも楽しめるので助かる」とか、「歳とって字幕は目がキツいから助かる」といったご意見がたくさん寄せられるようになったのですが、まさにこれこそが、マニアではない、日本人一般の平均的な声って感じですよね。

「映画は字幕でノーカットで見るのが正解」というのは、映画マニアのかなりマニアックな主張であって、それがレンタル普及期に勢いを得て、実勢以上に音量デカく聞こえていただけで、実は、サイレント・マジョリティーはいつだってかなりの数ふきカエを支持してたのではないか?

そのマニアな風潮が蔓延したことが、結果的には、洋画人口を減らすことにつながったんじゃないかと、ワタクシ思っておるのです。洋画が、TVで、ふきカエで日常的にやってる。カットされてたって構わない、タイトルバックやエンドロールなんか無くても問題なし、という環境こそが、洋画人口をキープする上で不可欠だったのではないか? その環境が失われた時、洋画を見る習慣そのものが弱まってしまった。特にTV洋画劇場が無いと、子供たちがその習慣を身につけづらいってのが深刻にイタい。次の世代の洋画ファンが育ってかないので。

もっとも、不毛な字幕vsふきカエ論争を煽る気は、ワタクシには毛頭ありません。ってか正直に白状すると、この場でこんなこと書いたら怒られるかもしれませんが、新しい映画を見る時にはいちおうまず字幕で見る、ってなスタンスなぐらいですから、アンチ字幕派でもなんでもないんです。

でも、この、洋画人口が減ってる、ってヤバい現実の背景には、これは「映画は字幕でノーカットで見るのが正解」風潮の行き過ぎた蔓延がある、とは確信しとりまして、したがってバランスをとる意味で、意識的にふきカエの方を応援する、洋画専門チャンネルの立場として、ふきカエの楽しさを声を大にして宣伝していく、ということを、開局1年半めから、ずっと続けている訳です。

次の10年も、ふきカエを全力でバックアップしていきますぞ!

さて、最後に番宣を。10周年ということで、10本の貴重なふきカエを発掘して1月末からお届けしてまいります。DVD/BDに収録されていない吹き替え音源だったり、そもそもDVD/BD化されてなかったりと、凄まじくレアな音源もこの中には数多く含まれます。『ザ・キープ』、『世界殺人公社』は既報ですが、『ゴッドファーザー』三部作の野沢那智さん版、これはヤバいですぞ!これなんかまさに、当時、民放さんで何パー視聴率獲ったんだ!?日本全国で何百万人が視聴したんだ!?というコンテンツ。これがソフトに未収録で見れない状態になっちゃってたんですが、その状態が解消されますんで!ゆめゆめお見のがし・お録り逃しのなきように!!

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日本語吹替版“王道+激レア10”放送予定作品
(1)『(吹)ザ・キープ』 ※未DVD化
‘89年日本テレビ 特選シネマ版
ユルゲン・プロホノフ(池田勝)、ガブリエル・バーン(谷口節)、イアン・マッケラン(内田稔)、スコット・グレン(津嘉山正種)ほか
⇒番組ホームページ 2016年1/18(月)23:00~放送

(2)『(吹)世界殺人公社』 ※未DVD化
‘75年TBS月曜ロードショー版
オリヴァー・リード(田中信夫)、ダイアナ・リグ(沢田敏子)、テリー・サヴァラス(森山周一郎)ほか
⇒番組ホームページ 2016年1/20(水)23:30~放送

(3)『(吹)がい骨』 ※DVD未収録
‘73年日本テレビ 水曜ロードショー版
ピーター・カッシング(川辺久造)、クリストファー・リー(嶋俊介)、パトリック・ワイマーク(二見忠男)ほか
⇒番組ホームページ 2016年1/21(木)23:00~放送

(4)『(吹)ファール・プレイ』 ※DVD未収録
‘82年テレビ朝日 日曜洋画劇場版
ゴールディ・ホーン(藤田淑子)、チェビー・チェイス(岩崎信忠)、ダドリー・ムーア(広川太一郎)、ブライアン・デネヒー(飯塚昭三)ほか
⇒番組ホームページ 2016年1/27(水)23:00~放送

(5)『(吹)ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』WOWOW追加収録版
‘88年フジテレビ ゴールデン洋画劇場版+WOWOW追加収録
ニコラス・ロウ(山寺宏一)、アラン・コックス(松野太紀)、ソフィー・ワード(折笠愛)、アンソニー・ヒギンズ(堀勝之祐)ほか
⇒番組ホームページ 2016年1/29(金)23:15~放送

(6)『(吹)ローマの休日』3バージョン聞き比べ
‘79年テレビ朝日 日曜洋画劇場 池田昌子版 および ’94年フジテレビ ゴールデン洋画劇場 鈴鹿千春版 および ’04年日本テレビ 金曜ロードショーすずきまゆみ版
⇒[池田昌子版]番組ホームページ 2016年1/25(月)23:00~放送
⇒[すずきまゆみ版]番組ホームページ 2016年1/28(木)深夜00:00~放送
⇒[鈴鹿千春版]番組ホームページ 2016年1/19(火)23:45~放送

(7)『(吹)スタンド・バイ・ミー』VHS版&TV版聞き比べ
VHS土井美加版 および ‘89年フジテレビ ゴールデン洋画劇場版
⇒[ビデオ版]番組ホームページ 2016年1/26(火)23:45~放送
⇒[フジテレビ版]番組ホームページ 2016年1/22(金)23:00~放送

(8)『(吹)ゴッドファーザー』野沢那智版 ※DVD未収録
‘76年日本テレビ 水曜ロードショー版
マーロン・ブランド(鈴木瑞穂)、アル・パチーノ(野沢那智)、ジェームズ・カーン(穂積隆信)、ジョン・カザール(大塚国夫)、ダイアン・キートン(鈴木弘子)、ロバート・デュヴァル(森川公也)ほか
⇒番組ホームページ 2016年2/1(月)21:00~、2/24(水)13:00~、2/28(日)14:30~放送

(9)『(吹)ゴッドファーザーPART II』野沢那智版 ※DVD未収録
‘80年日本テレビ 水曜ロードショー版
アル・パチーノ(野沢那智)、ロバート・デ・ニーロ(青野武)、ジョン・カザール(大塚国夫)、ダイアン・キートン(鈴木弘子)、ロバート・デュヴァル(森川公也)ほか
⇒番組ホームページ 2016年2/2(火)21:00~、2/25(木)13:00~、2/28(日)17:45~放送

(10)『(吹)ゴッドファーザーPART III』野沢那智版 ※DVD未収録
‘94年フジテレビ ゴールデン洋画劇場版
アル・パチーノ(野沢那智)、ダイアン・キートン(鈴木弘子)、アンディ・ガルシア(江原正士)、ソフィア・コッポラ(鈴鹿千春)ほか
⇒番組ホームページ 2016年2/3(水)21:00~、2/26(金)13:00~、2/28(日)21:00~放送

飯森盛良のふきカエ考古学

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*DVD収録情報等は2015年12月末時点のものです。

前回(2015年11月更新)のふきカエレビュー「不思議時空、発生!幻のDVD/BD未発売『ザ・キープ』をノーカット字幕放送し、さらに、幻の幻、ふきカエ放送まで敢行!!」はこちら