『マッドマックス 怒りのデス・ロード[ザ・シネマ新録版]』 安原義人インタビュー

7月27日(土)および8月にザ・シネマで放送を控える『マッドマックス 怒りのデス・ロード [ザ・シネマ新録版]』スペシャル・インタビュー第2弾は、マックス(トム・ハーディ)役・宮内敦士さんインタビュー&フュリオサ(シャーリーズ・セロン)役・本田貴子さんコメントに続き、イモータン・ジョー(ヒュー・キース=バーン)役・安原義人さんインタビューをお届け!ジョー!ジョー!イモータン・ジョー! ジョー!ジョー!イモータン・ジョー!

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●安原義人「イモータン・ジョーも、悪いけど、カッコイイよ!」

──今日はよろしくお願いします。非常にパワフルな演技で圧倒されました(笑)。

この役をやったヒュー・キース=バーンは、昔のやつ(第1作『マッドマックス』)にも出てたんですってね。まだ若かったでしょう?

──トーカッターという悪役です。1947年生まれですから、当時は32歳ですけど、強烈な存在感です。1982年に放送された吹替版では、坂口芳貞さんが担当されていました。

そうなんですか、坂口芳貞さんがやってたんだ!

──そのキース=バーン演じるイモータン・ジョーを、今回は安原さんが演じられましたが、感想はいかがですか?

本当はみんなで一緒に収録したかったんですけどね、フュリオサ役の本田貴子さんとかね。でも今回は抜き録りでしたから、なんだか孤独な感じ(苦笑)。

イモータン・ジョーはマスクを付けているから、「この声にどうせ後から加工するんでしょ?」なんて気楽に怒鳴っていたら、ディレクターさんから結構細かく演出されました。「世界に向かって叫んでください」だって? え? どういうことだそれは!?ってね(爆笑)。

それにしてもこの映画は面白いですよねえ。(公開当時70歳の)おじいさんが監督してるなんて思えないですからね。トム・ハーディもいいですよね。シャーリーズ・セロンは元々好きな女優なんだけど、やっぱりいい。

──第1作の吹替版でマックス役のメル・ギブソンを担当され、第2作『マッドマックス2』、第3作『マッドマックス/サンダードーム』でも、2015年の新録版でギブソンを演じられました。安原さんとゆかりの深いシリーズですが、最新作に悪役として参加されるのはどうお感じになりました?

いいね!と思いましたよ。で、俺は誰をやるの? ひょっとしてトム・ハーディ!?……そんなわけはないかと思いましたけど、なるほど、こういう手があったのかと。シリーズはずっとそうですけど、クセのある俳優たちが出てきますから、ちょっと得した感じはありますね。

──最近は悪役を演じられることも増えていますが、それでも安原さんの持ち味である軽妙さがあります。

自分がそういうふざけた人間ですから、必ず入れたくなっちゃうんです。ディレクターによっては、「そういうのは要らない」って言われて困っちゃうんですけど。

──今回のキャラクターは、そういう悪役とはまったく違うじゃないですか。どのように役作りされたんですか?

遊べないキャラクターでしたね。私は基本的に役作りをしないタイプなんです。自分の中にないものは表現できないから、自分の中にあるものと演じる役との共通点を自分の中で探すんです。で、このイモータン・ジョーは、自分の中にはないなあ……って(爆笑)。

と言いながらも、私も結構ワルなところがあるのと、子供のこととか、オンナのこととかが出てくるじゃないですか。ああいうところから、なるほど、コイツはただのワルじゃないんだなあ、きっと色々寂しい思いもしてるんじゃないかって考えていきましたね。やっぱりどんな悪にも人間っぽさがあると思いますよ。私は基本ワルが好きですから、いつも演じてて楽しいんですけど、パターンにハメて演じちゃうとつまらない。悪役は自分を悪いと思っていなくて、ただ「自分に対する愛」が他の人間より強いんだなということで、それはすごく分かるんですね。ジョーも、そういう気持ちが周りに悪い影響を与えていく、ということなんでしょうね。

ただ、このキャラクターはゴツいタイプだから、自分の軽めの声で大丈夫かな?とは思いました。

──そこは、キャラクターに寄せて作ったりされたんですか?

作り倒すことはしないです。叫ぶシーンも多いですけど、無理して喉を潰しちゃって、当分仕事できなくなるのも困りますから、「自分の声」を使うしかない。自分の音にない幅を出したら、喉は潰れてしまいます。「潰しちゃうと終わり」という考え方なんです。だから、普段使っている音で表現する。まったく(自分に)ない音は使えないです。

──過去のインタビューでもそうですが、安原さんのお話には、喉のケアについての話がよく出ますね。

喉を潰してしまうときというのは、「嘘」をやっているときです。舞台でも何でもそうですけど、自分で感じてもいないこと表現しようとする……「嘘」ですよね、それをやろうとすると、やっぱり喉に出るんです。

──「ご自身の中にあるもの」でちゃんと表現できれば、叫びも無理せず出せるということですか?

「用意」はしちゃダメという感覚です。セリフは、相手のセリフを聞いてそれに応えるということですから、あらかじめ「こういう音を出すぞ」と構えがちなんですが、そうして用意しちゃうと、それはもう作りごと(嘘)になっちゃうじゃないですか。だから、相手のセリフにいかに自然に「用意」しないで反応するか。それができてない、嘘をついてしまうと、喉をやっちゃいますね。

今回のキャラクターがちゃんとできているかどうかは別にして、嘘はやめようという感覚だったのは確かですね。誰かのセリフの影響を受けて出てくる声が正しいだろうから、一緒にやる相手がいた方が良かったんですけど、最近の映画は完成度が高いから、なかなか一緒に録れないみたいですよね。だからセリフがどう絡むか、出来上がりが楽しみです。

──『~怒りのデス・ロード』は、2004年頃までメル・ギブソンがマックスを演じることで企画が進んでいた映画で、結局トム・ハーディに変わりましたが、マックスという人は前3作から継続している同じキャラクターなんですよね。ギブソンとして、そのマックスを演じてきた安原さんから見て、今回のマックスはどう映りましたか?

なるほど、そうか、そうですよね、同じ人でした。言われるまで忘れてましたよ(笑)。上手い描き方をするなと思いますね。

──以前に、メル・ギブソンは、意外にチャーミングな一面のある、面白みのある俳優とおっしゃっていたんですが、トム・ハーディはどういう役者に見えましたか?

ギブソンは、『マッドマックス』シリーズの後に、どんどんコメディタッチの作品に出演するようになりましたよね。『リーサル・ウェポン』シリーズもそういう一面がありましたし。

それに比べると、ハーディは本当に実力派俳優なんですよね。映画によってガラッと変わって出てきて、本当に力のある俳優だと思います。最近のアメリカ映画に出てくる俳優はみんなそうで、作品によって雰囲気を変えて出てくる。顔付きが違うんです。ジェラルド・バトラーも活劇に出てくることが多い俳優ですけど、映画によってしゃべり方まで変えてきます。今の俳優は、すごく力があるんだと思いますよね。

──昔は、声優もFIX制でしたし、スターはどんな映画に出ても同じ雰囲気でしたね。

そう、変えない。それがスターだという考え方だったと思いますし、今はそういう俳優はいないですよね。それじゃ通用しません。

作品によって向こうの俳優の印象が違うから、声をアテる人も違うという状況になるんです。こっちからしたら、「なんだ今回は俺じゃないのか」ということはよくあるんですけど、力のある俳優にアテていると楽しいですよね。勉強にもなるし、すごいなあって。こういう人たちと自分は同じ職業なんだという気持ちになれます。

──お好きなシーンと見どころを教えてください。

作品全体が楽しいですよね。映画館で観たんですけど、ここまで本当にワクワクする映画はあまりないですよ。どういう風にロケをしたのか、たくさん人が死んでるんじゃないかと思うくらいのすごい迫力で、文句なしに楽しめる。これこそ映画、これこそ活劇。

個人的にはシャーリーズ・セロンが好きなんです。カッコよくて色っぽいでしょ。彼女を観てるだけでも元が取れる(笑)。それに、こういうアクション主体の作品でも、向こうの人たちは、手を抜かないですね。子供だましみたいなことは絶対やらない。どんなに荒唐無稽な話でも、きっちりとリアルにやる。それがハリウッド映画の面白いところだし、見習いたいところですよね。

イモータン・ジョーも、悪いけど、カッコイイよ! 今回のセリフが入ったら、素晴らしいですよ、多分(笑)。スタッフの皆さんが、ちゃんと作り上げてくれると思います。

マッドマックス 怒りのデス・ロード[ザ・シネマ新録版]安原義人プロフィール
イモータン・ジョー(ヒュー・キース=バーン)役

ミッキー・ローク、メル・ギブソン、ゲイリー・オールドマンら幾多のハリウッドスターの声を受け持ってきた大ベテラン。『マッドマックス』、『マッドマックス2』、『マッドマックス/サンダードーム』 ほか。