大塚明夫さんインタビュー

大塚明夫さん

 
CS映画専門チャンネル・ムービープラスで、「もっと吹替えで映画を観たい!」という視聴者の要望に応え、特定の声優をフィーチャーする「吹替王国」、その第2弾!

アニメーションの分野でも大活躍、洋画ではスティーヴン・セガール主演のほとんどの作品で吹替えを担当する大塚明夫さんが登場です!そのセガール主演3作品(『アウト・フォー・ジャスティス』、「撃鉄」シリーズ2作品)と、デンゼル・ワシントンを演じた『クリムゾン・タイド』、ドルフ・ラングレンを演じた『レッド・スコルピオン』の5作品を一挙放送。その放送に先立ち行われたインタビューの模様をお楽しみください。 

 
—-今回放送する作品で演じた俳優さんについての感想をお聞かせください。
大塚明夫さん:懐かしかったです。当時の(ドルフ・)ラングレンもデンゼル(・ワシントン)も若いですからね。
「吹替王国」の番宣CMの収録で久しぶりに声をあてたのですが、体が覚えていたのでスムーズに演じることができました。ドルフ・ラングレンの場合だと、身体が大きい雰囲気を出すような、ね。画を見た時にその雰囲気を出せるようにしています。あまり声を作るようにしてしまうと芝居がおろそかになりそうなので注意しています。
セガールについては、作品の中で彼に変化があれば、僕もそのように演じていますね。だけど、演劇、演じるということは彼の本領ではないと思うので、逆に変化のない普段の感じが出せるようにしていますね。
セガールは不敗の人、というイメージ。絶対に負けない人はどう喋るかなというところから考えます。相手を恫喝する必要もないですし、負けないわけですから(笑)。普通にしゃべっている方が、横隔膜が上がっていない、ゆるんでいる感じにした方が合っているのではないかと思います。その方が、敵にしてみたらイヤじゃないですか。セガールは僕の中では特別です。存在で勝負してくるので、彼の存在感を大切にしたほうがいいのではないかと思っています。

大塚明夫さん

—-吹替えで役を演じるときに注意されていることを教えてください。
作品によりますが、セリフが多い場面は繰り返し見て、現場で困らないようにします。早口でまくしたてたり、難しいセリフがあるような時は、口を合わせる作業の難度が上がるので確認します。翻訳の段階で合うように作っていただいていますけど、難しいのは、セリフが少ない時ですね。
(間を埋めるために)ゆっくり喋ってしまうと、何でもない「こんにちは」が意味を持ってしまったりするので。
演劇ではひと月くらい、役と向き合って練っていきますが、吹替えの時はその時間がないのです。でも吹替えの仕事は1日に複数の役を演じ分けたり、ということがあります。この仕事を10年も続ければ、関わった台本の数が(演劇とは)比較にならないほど多くなってきます。
数が多いということは、いち早くその役をつかむということ、すでに出来上がっている画と台本を見て、瞬時に演じる、役を作っていくということになるので、それが(吹替えの仕事には)必要な能力の一つになってくるのではないでしょうか。

ハリウッド一流の俳優さんにセリフをのせるときは、その人の呼吸からトレースしていかなければならない。その人の芝居をトレースするという作業が、言語は違いますが、面白いですね。
B級・C級作品に、一流作品の中で吸収したものをどう盛り込んでいくか。それによって、字幕で観た時はイマイチだった作品が、吹替版で見直したら“これ、面白いじゃん”ということもあります。特に昔の作品では、日本語吹替えがオリジナルを超えることが本当に多かった。『Mr.Boo!(※1)』という作品、あれは個人的には吹替版の方が絶対面白いと思います(笑)
とにかく、観てくれた人が面白いと思ってくれるか、ということが一番大事です。

演じる俳優さんの声のトーンを聞くこともありますが、声をなぞるのはあまり意味が無いと思っています。ビジュアルを最初に見た時に想像した音が出てきた方が、見ている人は違和感なく見られのではないかと思いますね。
僕たちが日本語をのせることで、その役者さんが持っている雰囲気・空気感を増幅できるか否か。難しいとは思いますが。

—-セガールやラングレンなど、アクション系俳優や固定の役柄のイメージが付くことについて、どう感じていらっしゃいますか。
多くの先輩方は、皆さんご自身の役(FIX俳優)を持っていたので、僕はそれでいいと思っています。

—-スネーク役(ゲーム『メタルギアソリッド』シリーズ)、バトー役(アニメ『攻殻機動隊』シリーズ)、セガール役(映画)と各世代・各ジャンルのファンから認知されていることについてのご感想を。
ありがとうございます。世代の空白を作らないようにがんばっていきます(笑)。

—-アニメのアフレコ時に注意していることを教えてください。
アニメの場合は自分の“間”で演じることができます。先に誰かが演じたわけではないので、その分自由度は高いです。演じるキャラクターをデフォルメして、カリカチュアして、どのように表現するのか、という自由度はあるのですが簡単ではありませんね。
キャラクターに立体感を持たせるのがセリフなので、役者は嘘のセリフを言ってはいけません。

大塚明夫さん

—-声優になったきっかけを教えてください。
父(※2)から“お前、声の仕事やる?”っていわれたから“やる”っていっただけです(笑)。当時は芝居しかやっていなくて、アルバイトだけで生活していました。
声優をやるのは簡単だけれど、生き残っていくのはとても大変なことなので、簡単に考えない方がいいかなと思います。
最近は吹替えの仕事が少ないので、ぜひ皆さんに運動を起こしていただけるとありがたいです(笑)。
一流の俳優さんの吹替えをすることで、自分に使えなかった表現が使えるようになったり、学んだりする楽しさがあるし、演劇で学んだことを吹替えに持ち込んだり、吹替えで学んだことを演劇に持ち込むというフィードバックも楽しいので、もっと吹替えが増えるといいですね。

—-大塚さんの考える「吹替えの魅力」を教えてください。
字幕を見ないでいいので、画面に集中できる点が良いですよね。
自分では、若い時には(勉強のために)ひたすら吹替版を観ていたのですが、近頃は自分だったらこうするのにとか、あの役だったらこの人だなぁと考えてしまうことが多くて、純粋に映画を楽しめなくなっていますね。
最近、DVDやBlu-rayに吹替版が複数入っている商品が出ているじゃないですか、あれは良いですよね。色んな方が演じた吹替えを聞き比べて欲しいです。

—-今回の特集放送について
声の若さとセリフの拙さ(笑)が見所だと思います。どの作品もしばらく前の作品ですから。自分が聞いても若いなと思って恥ずかしいのですけれども、それに加えて今回みたいにCMで自分の顔を出すなんて“何て恥知らずな”(笑)って。
いつかは、女性向けにロマンス系映画の大塚明夫特集をやって欲しいですね。(出演している)数は少ないのですが(笑)。

※1)マイケル・ホイ主演の1976年の香港のコメディ映画。1979年日本公開。CX系「ゴールデン洋画劇場」で、広川太一郎、ツービートを配役し、アドリブ満載の吹替えで放送された。
※2)俳優・声優の大塚周夫氏。リチャード・ウィドマーク、チャールズ・ブロンソンのFIX声優としても知られる。2015年1月15日逝去。
 

大塚明夫さん

[プロフィール]大塚明夫(おおつかあきお)
声優・俳優・ナレーター。
1959年11月24日生まれ。東京都出身。血液型はB型。
洋画の吹替えでおなじみ、言わずと知れた超実力派声優。
アニメでは『ブラック・ジャック』のブラック・ジャック役や
『攻殻機動隊』のバトー役、
洋画ではスティーヴン・セガールの声を担当するなど、
幅広く活躍中。
 
 

※この特集の放送は終了しました
CS映画専門チャンネル・ムービープラス
「吹替王国 #2 声優:大塚明夫」

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