帰ってきた!ダークボのふきカエ偏愛録

#76 くもじいが運び屋に!

お久しぶりです!
11年も居座った「ふきカエル大作戦」が突然終了してから、吹き替えの仕事自体ずっと休眠状態でしたが、久々に再始動したところで「吹替キングダム」さんからお呼びが。嬉しいねぇ!

テレビ各局が当たり前のように吹き替え版を制作していた「木曜洋画」の頃と違って、今はそれなりの企画が無いと作れない時代。何かできないかと探っているうちに、『ランボー ラスト・ブラッド』から1年以上経ってしまいましたが、ようやく見つけましたよ。
3月4日(月)夜7時~ BSテレ東「シネマクラッシュ」で放送の 『運び屋〈BSテレ東オリジナル吹き替え版〉』 です。

「シネマクラッシュ」では8年前、〈イーストウッド無双!〉と銘打って、クリント・イーストウッド御大の作品群をドドッとお送りしましたが、往年の名吹き替えにこだわって放送しながらも、1本くらいは新録したかったなあ、というのが心残りでした。
そしてようやく巡ってきたチャンスが、この『運び屋』です。
安全運転の高齢ドライバーなのを麻薬カルテルに利用され、結果的に凄腕の運び屋になった老人の実話を、制作当時88歳のイーストウッド監督が自ら主演して映画化。テレ東「午後のロードショー」では、ソフト版の吹き替え(御大の声は多田野曜平さん)で放送済みですが、やはり「テレビ吹き替え」を作りたくて。

このコラムでは何度も語ってきましたが、劇場版・ソフト版の吹き替えと「テレビ吹き替え」は、作る目的が違うのです。
前者の目的は、オリジナルのセリフ演出をそのまま日本語化すること。対してテレビ吹き替えの目的は、番組として観やすく、面白くすること。
例えば『運び屋』の劇中のスペイン語のセリフは、ソフト版ではスペイン語のままですが(声優陣がわざわざスペイン語でアテてます)、今回のBSテレ東版では、ほとんど日本語にしています。

そして「テレビ吹き替え」の最大の楽しみは、キャスティングでしょう。

そもそも今回の『運び屋』の企画は、イーストウッド御大が演じた主人公アール・ストーンの吹き替えを、名優・伊武雅刀さんが引き受けてくださったことで成立しました。
局からのリリース に載せたプロデューサーコメントでは、俺が伊武さんにお願いしたような体になってますが、思いも寄らなかった伊武さんの名前を挙げてくれたのは、演出の高橋剛さんです。ただし百戦錬磨の高橋ディレクターにとっても、伊武さんとの仕事は初めてでした。
伊武さんは今も声のお仕事自体はされていて、テレ東的には何と言っても「空から日本を見てみよう」の“くもじい”だし、最近はテレビで「スーモ!」の声を聞かない日はありませんよね。実は洋画も『シュレック』の劇場版などには参加されているのですが、実写洋画の吹き替えは実に40年ぶりとのこと。伊武さんご本人も、引き受けはしたもののかなり不安だったそうですが、スタジオで第一声を聴いた瞬間、一同おおっ!と。円熟したダンディボイスが、老境イーストウッドに見事にハマってました。

イーストウッド以外も華やかな顔ぶれの『運び屋』、伊武さん以外も気合いのキャスティングで固めました。
ベイツ捜査官(ブラッドリー・クーパー)は、高橋Dイチオシの田村真さん。なるほど見事なハマりっぷりで、今後ブラッドリーの定番になってくれるといいな、と。
アールの妻・メアリー(ダイアン・ウィースト)も、高橋Dのご推薦で大西多摩恵さん。本人に声がそっくりだから、ということで、確かに!
なぜか名前の無い主任捜査官(ローレンス・フィッシュバーン)は、もちろん玄田哲章さん。相変わらずご多忙のところ、地方での仕事から駆け付けてくれました。
そしてアールの娘・アイリス(アリソン・イーストウッド)は、三石琴乃さん。クリント御大とアリソンの父娘共演はこの映画の見どころの一つですが、実生活を反映したような、父への愛憎入り混じる娘のセリフを見事に表現した三石さんの演技は、今回の吹き替え版の聴きどころの一つです。
麻薬カルテルのボス・ラトン(アンディ・ガルシア)は、安原義人さん。原語のままで実は難しい「プル!」を見事に決めてくれて。さすが!
他にも楠大典さん谷昌樹さんなど、総勢25名の布陣になりました。ただ、コロナ禍で始まった少人数交替制の収録がまだ続いていて、全員集合で打ち上げられなかったのが残念。安原さんなんか、出番が終わったらいつの間にかいなくなってて。寂しいなあ。

ちなみに今回の『運び屋』の翻訳をお願いしたのは、大ベテランの平田勝茂さんですが、平田さんがかつて初めて手掛けたTVシリーズ「警察医サイモン・ロック」で主人公の声を吹き替えたのが、伊武雅刀さんでした。アフレコに立ち会ってくれた平田さんは、スタジオで伊武さんと数十年ぶりに再会!

俺が担当しているミニ番組「シネマ・アディクト」のナビゲーター、渡邉美穂さんも取材に来てくれたりして、大騒ぎの現場でしたが、ともあれ、期待以上のテレビ吹き替えが出来上がりました。
初の4K放送でもある『運び屋』BSテレ東オリジナル吹き替え版、どうぞお見逃しなく!

これで俺も、ようやく卒業かな。
いや、まだ企画は考え中ですよ。ではいつかまた!
 


シネマクラッシュ 『運び屋』BSテレ東オリジナル吹き替え版
2024年3月4日(月)夜7時~夜8:54
BSテレ東(BS7ch)/ BSテレ東4K(4K7ch) 全国無料放送

【キャスト】
クリント・イーストウッド(アール・ストーン):【声】伊武雅刀
ブラッドリー・クーパー(ベイツ捜査官):【声】田村真
ローレンス・フィッシュバーン(主任捜査官):【声】玄田哲章
ダイアン・ウィースト(メアリー):【声】大西多摩恵
アリソン・イーストウッド(アイリス):【声】三石琴乃
アンディ・ガルシア(ラトン):【声】安原義人
【監督】 クリント・イーストウッド
【脚本】 ニック・シェンク
【制作年・国】 2019年・アメリカ
【公式HP】→ シネマクラッシュ
●クリント・イーストウッドが演じた主人公アール・ストーンの声を務める伊武雅刀さん、そして田村真さん、玄田哲章さん、大西多摩恵さんからのコメントは →こちら
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