山寺宏一さんインタビュー

ふきカエルインタビュー山寺宏一さんCS映画専門チャンネル・ムービープラスで、「もっと吹替えで映画を観たい!」という視聴者の要望に応え、特定の声優をフィーチャーする「吹替王国」第11弾!

今回は、「吹替王国」建国2周年記念のスペシャル企画!
先日テレビ朝日で放送された、声優が選ぶ声優ランキング番組で堂々の1位を獲得、人気・実力ともに不動の地位を確立した声優界のレジェンド山寺宏一さんが登場!
2周年を記念して今回の「吹替王国」では、山寺さんと同世代で盟友の大塚明夫さんが特別ゲストとして登場した特別対談番組も放送!
そのお二人が共演した映画『マスク』のソフト未収録の地上波吹替版、山寺さんお気に入りの作品の一つ『オースティン・パワーズ:デラックス』、人気アクションコメディシリーズ『ラッシュアワー』、『ラッシュアワー2』を放送!
その放送に先立ち行われた、山寺宏一さんへのインタビューをどうぞお楽しみください!

 

——『マスク』でジム・キャリーを演じられた際の技術的に気をつけていたところ・工夫されたところをお聞かせください。
山寺宏一さん:とにかくジム・キャリーがマスクを被った後も面白い芝居をしているから、ジム・キャリーと同じような芝居を、同じような声でやれればいいなと思ってやってましたね。

——吹替えを演じる際は元の役者さんをイメージして演じられるのですか?
皆さんそうだと思いますけどね。声質に関しては不自然に聴こえてはいけないから、僕も不自然に聴こえない範囲でやっていますよ。ジム・キャリーについては似ているのか似ていないのかは分からないですけど、(変身前の)地のところは近づけて作っています。変身した後は彼が色々やるから、僕もやっていますね。歌って踊っていますよね。彼はすごく達者ですよね。あの歌うところもやりたかったんですけど、オリジナルの音声になったのかな。「歌は吹替えなくていいんですか?」って訊いたけど、あれも吹替えでやりたかったな(笑)。でもジム・キャリーが一番上手いんですけどね(笑)。誰なのか詳しくは知らないのですが、あのシーンをショーでコピーしている方がいますね。動画で観たことありますけど、ステージで、皆で再現しているショーがありましてね。うわぁすごいと思って、僕は踊りながらはとてもじゃないけど出来ないけど、歌うシーンは吹替えてみたかったな。

——今回放送される『オースティン・パワーズ』では複数の役を演じられていますね。
パート1が二役で、続編のデラックス(※今回放送)で三役、3作目の『ゴールドメンバー』で四役かな(笑)。それもね、本当に主演のマイク・マイヤーズさんが複数役をやっていますからね。オースティンが素の時には、僕、ちょっと似てると思っています。昔、形態顔まねっていうのをラジオのホームページを使ってやっていたんですけど、メガネをそっくりにして髪型も衣装も全部揃えて、真似したらね、すごくオースティン・パワーズに似ていましてね(笑)。『シュレック2』でマイク・マイヤーズとキャメロン・ディアスが来日したので、一緒にご飯を食べに行きましてね。その時に携帯の画像をマイク・マイヤーズに見せたらすごく喜んでくれて、「最高だ!」って言ってくれたんです。「ハリウッドの僕の事務所に送ってくれ!」って言われたので送ったんですけど、何の返事も来なかったですね(笑)。マイク・マイヤーズには「僕、実はオースティン・パワーズの吹替えをやってるんです」って言ったら「えー本当!嬉しい!」なんて言われましてね。そんなこともありました。吹替えをやってるとそんなこともあるんですよ。

——『ラッシュ・アワー』は、石丸さんとの掛け合いがすばらしいですね。
ジャッキー・チェンは、フィックスの中のフィックス、石丸博也さん。石丸さんとは、僕が生まれてはじめてアニメ作品のレギュラーになった時にご一緒させていただいたんですよ。『ボスコアドベンチャー』(1986年制作)という、中原茂さんが主役で、石丸さんと僕というトリオの話だったんです。皆さん全然ピンときてないと思います(笑)。あっという間に終了してしまったので(笑)。それが初めてのレギュラーだったので、すごく覚えています。石丸さんにはその時から可愛がっていただきましてね。石丸さんのジャッキー・チェンは小さい頃から聴いてましたけど、まさかご一緒させていただけるなんて思わなかったです。すごく嬉しかったですね。
クリス・タッカーは体はごついですけど声が高いですよね。(高いのが)全編を通してなのでね、声を張っているときはいいんですけど、シリアスな時やぼそぼそ話す時まで全部それでやらなきゃならなかったので、声質をキープするのが大変だったかな。でも、それをやるとちょっと自分がクリス・タッカーになったような気分になれるので良かったです。僕の場合ちょっとした方向性が声から入るというのはありますね。でも喜怒哀楽を全て表現しないといけないから不自然に聴こえないように注意しました。

——例えばジャッキー・チェンといえば石丸さん、といったお決まりの声優さんがありましたが、今では同じ演者でも作品によって別の声優さんが吹替える傾向が高まっています。その変化についてどのように思いますか?
それだけ色々な俳優さんをやれるチャンスがあり、それを与えていただいていると思います。楽しいですが、占有率は下がっていますね。でも、一回は(演技を)見てもらえるわけですからね。それで次のオファーが来ないのは自分の実力不足だということです。その人にあまり合ってなかったんだな、という皆さんの判断ですからしょうがないですね。だから、チャンスを与えられたってことだけでもありがたいと喜ばなきゃならないです。もしFIXで仕事が来ていたら、こんなに色々な役をやれていないと思うんです。とりあえず、バラエティ番組等で(これまで担当した役の)数だけを出すときにはとてもいいですよね(笑)。“たくさんやってますね~、すごいですね~”なんて言われますけど「いやいや、他の人もそんな感じですよ」って言ってます(笑)。「色々やってるんです」って一応言っとかないとね(笑)。一回しか担当していない作品も書きますからね。“この人も担当してるんですか!”って言われると「一回か二回なんだけど」とか。

——色んな役者さんを演じられる、というのは利点ですね。
そうですね。あと、作品によって俳優も色々お芝居を変えて雰囲気が違うから、この雰囲気が得意な人はこういうのっていうものがあるんでしょうね。コメディとシリアスどちらが得意?って聞かれても、僕はこっちです、というのが無いんですよね。とにかく与えられたものを演じるっていうことですね。

——先ほど番組収録中にものまねが技量を磨く上で有効だとおっしゃってましたが・・・
さっき明夫さんが言っていたのは芝居のニュアンスの掴み方だとか吹替えるときの台詞回しだとか、向こうの俳優がこうしていたらこういう風に演じるといった部分のことだと思うんです。先輩たちの演技をものまねするのであって、普段のものまね番組でやってるような声色を真似るってことではないですね。芸術やアートなり、何でもまずは真似るところから入って、そこからオリジナルをのせていくというものだと思います。先輩たちが目の前で演じている素晴らしいお手本がありましたからね。吹替えって最初はどういう風に演じていいのか全くわからないと思います。英語を日本語にするってどういうことだ、みたいな。オリジナルではこういう風に芝居している、そこに日本語をどういう風にのせるんだっていうことは、(現場で)先輩を見て学んできたと思います。

ふきカエルインタビュー山寺宏一さん——今声優を目指す若者が増えている現状をどう思われますか?
若手は昔から常にどんどん増えていますけど、さらにその数が多くなっていますよね。養成所も色々な事務所も増えました。とても良いことですよね。昔はそんなに(声優の)人数はいなかったのに、今は何でこんなにたくさんのレジェンド達がいるんだろうってすごく不思議ですよね。
今のように人数が多くて、中々出て来られなくても、切磋琢磨してきた人たちが残ってくればいいのかなって思います。だから、どうしても需要と供給のバランスでいうと一人がやるお仕事が少なくなってしまいますね。昔のように毎日吹替えの仕事をしていたっていう先輩たちがいるじゃないですか。海外ドラマを毎日やって、週末映画をやるとか、それで経験値を伸ばしてくるというか、作品が(声優を)育ててくれるっていうのはあると思いますね。経験値がどんどん上がってね。今はネット配信の作品もあって、お仕事が増えているようですが、その何倍も声優がいるから中々一人が良い作品で良い仕事をやるっていうのが大変になっていると思います。

——山寺さんはアニメでも大活躍中ですが、吹替えならではの魅力・難しさを教えてください。
吹替えとアニメを分けるのも難しくて、アニメでも吹替えのアニメがありますよね。だから、お手本があるかないかという所ですかね。
もちろん制作側からこういう風にして欲しいという注文はありますが、日本のオリジナルアニメなどには自分が最初に声を入れるから、比較的自由に演じることが出来ますね。吹替えの場合、実写ではもちろんそのオリジナルの役者本人がしゃべっていて、それがお手本になるので、演じる際の手掛かりが多いですね。何を期待されているかによりますけど、そこからはみだして自分の個性をのせていくのはとても難しいことだと思います。(吹替えでは)“オリジナルとそっくりとかいらないよ、自分の味を出してくれ、昔の先輩たちはそうだっただろ”、みたいな視聴者の方もいるかもしれませんし。僕は中々その要求にはお応え出来ていないですねぇ…。そこまでの個性の強さとかアドリブに対するセンスがないと感じていますので・・・。だから“吹替えをしているって感じがしなかったよ”って、 “吹替えというのを忘れて観ていました”って言われるのが最大の褒め言葉だと思います。

——今回放送される『ラッシュアワー』や『オースティン・パワーズ:デラックス』の魅力をお話いただきたいです。
『ラッシュアワー』は面白いです(笑)。とても良くできたバディ・コメディ・アクションムービーだと思います。絶対合わなさそうな二人が・・・まぁ大抵バディムービーって合わなそうな二人が合ってくるのが面白いんですけどね(笑)。最初から合いそうな二人を出しても一つも面白くない(笑)。そういう意味では、『48時間』以上にギャップのある二人だと思いますが、この二人が繰り広げるすごくテンポのいいコメディ・アクション・ムービーだと思います。あと続編の魅力はチャン・ツィイーが出てます。大好きなんです。

——ここを観てほしい!というところはありますか?
アジア人とノリノリな黒人の違い!石丸さんが最終的に歌うんですよね。僕も歌わなきゃいけないことがありましたけど、石丸さんが歌うところです!さっき言った『ボスコアドベンチャー』で、当時、男三人の歌をレコーディングして、それが僕にとってはじめてのレコーディングだったんですよ。キャラクターソングというか、中原さんと石丸さんと僕、カエル、亀、カワウソで歌いました(笑)。石丸さんが歌うのが好きじゃないってことで、石丸さんが“歌なんか歌いたくねぇんだ”って言って、それぞれのソロのところで“山寺、これお前が歌え”って言われて、「あの、これ石丸さんのキャラクターのパートなんで・・・」って言ったら、“いいんだよ、俺は歌いたくねぇんだよ。いいんだよ、そんな細かいことは。お前が歌え”って(笑)、ど新人の僕が石丸さんにそう言われてどうしよう・・・って迷ったんですけど、もちろん石丸さんが歌いましたね(笑)。それ以来のデュエットでした(笑)。お楽しみに!
『オースティン・パワーズ:デラックス』はもう本当にこんなにおバカなコメディ、ほんっとうにどうしようもなく好きで、いまだに続編を作ってほしいって思っているんですよ。『ゴールドメンバー』で終わってしまっているので、僕、マイク・マイヤーズにずっと作り続けてくださいってお願いしたんですけどね。もうとにかく何から何まで好きなんです。色々な映画のパロディで、トム・クルーズも出ますからね。トム・クルーズは『ゴールドメンバー』のときでしたか。(トム・クルーズのキャラクターの吹替えも)やらせていただいてるんでおいしかったですね。すごくセンスが良くて、キャストも豪華なのに、バカだなぁってあのノリ。大変でしたけど楽しんでやらせていただきました。Dr.イーブルは自分が担当して吹替えた役の中でダントツで好きなキャラクターなので、特にDr.イーブルを見てほしいですね。2位がファット・バスタードですけど(笑)。たくさん演じてきた中で2つとも入ってんのかいっていう(笑)。でもそのくらい好きですねぇ。Dr.イーブルはもう、どうしても小指たっちゃいますもん。(小指を立てながら)「モジョォ、ミニ・ミー?」ってやると立っちゃいますね。一回「おはスタ」の増刊号でDr.イーブルの格好をして、ここにミニ・ミーの人形をつけて芸をやったんですよ。それで芸人さんと戦いました(笑)。「どっちが面白いか対決」でDr.イーブルをやりましたね。これ権利とってないかもしれないですから言わない方がいいかもしれない(笑)。でも、そのぐらい大好きなんです!

——最後に、楽しみに待っている視聴者に向けてメッセージをお願いします!
この吹替王国の企画に出させていただいて本当に嬉しく思っております。今回ムービープラスで放送する4作品は本当にお気に入りの作品で、中々自分のやった作品に自信は持てないのですが、この4作品はとにかく自信を持ってオススメできるとても楽しい作品ばかりです。ぜひたくさんの方に観ていただき、映画の楽しさと共に吹替えで観る楽しさを味わっていただければと思います!
 

山寺宏一さんと特別ゲストの大塚明夫さんに、『マスク』収録当時の様子や、お互いの印象、共演したい作品などを語っていただいたインタビューの模様はこちら!

2017年8月20日(日)夕方4:45~深夜1時放送
ムービープラス
「2ヶ月連続!吹替王国 大感謝祭 吹替王国 #11 声優:山寺宏一」

※番組の放送は終了しました。
movieplus.jp