田中敦子さんインタビュー

田中敦子さんCS映画専門チャンネル・ムービープラスで、人気声優で観る吹替版の新しい楽しみ方を提案する好評企画!「吹替王国」第12弾!

第12弾となる今回は、「吹替王国」建国初となる女性声優として、田中敦子さんが登場!
田中さんが、そのキャリアの中で最も長く担当しているキャラクター“草薙素子”が登場する押井守監督作の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊2.0』、今回がTV初放送となるケイト・ベッキンセール出演の『ミラクル・ニール!』、同じくケイト・ベッキンセールの吹替えを担当した『リーガル・マインド ~裏切りの法廷~』、エリザベス・シューの吹替えを担当した『インビジブル【地上波吹替版】』の4作品を放送!
その放送に先立ち行われた、田中敦子さんへのインタビューをどうぞお楽しみください!

 

——「吹替王国」はご存知でしたか?
はい。Twitterをやっているので、タイムラインにあがってくる吹替王国の話題や動画は以前から拝見していました。あとは、2017年8月に放送した「吹替王国」の山寺宏一さんと大塚明夫さんのインタビューを雑誌で拝見しました。そのインタビューの中で、私の名前を出してくださっていて嬉しかったです。

——「吹替王国」のオファーがあった時、どのように感じましたか?
今までのメンバーの方たちが素晴らしすぎて、私でいいのかしらと思いました。歴代の方々が男性のイメージだったので、それも含めて「私で大丈夫かしら」というのが第一印象です。でも、オファーをいただいて嬉しく思い感謝していますし、光栄です。

——おもしろCMのナレーション収録はいかがでしたか?
こういう楽しい企画は大好きなので、楽しんでやらせていただきました。見ている方たちにも喜んでいただけるんじゃないかなと思います。

——今日収録したCMで演じた3人のキャラクターの中では素子が一番低い、ドスのきいた声でした。自然にそういう声になるんでしょうか?
押井守監督から「素子の脳内設定は40~50代。世の中を知り尽くしてすべてを達観したような、ある種“枯れた”感じで演じてほしい」という指示がありました。1995年当時、私はまだ30代前半だったので、監督からのリクエストに応えることで精一杯でした。声が高いとか低いとかではなく、枯れた感じを表現するために抑揚を抑えるような演技になりました。

——「攻殻機動隊」で草薙素子を最初に演じたのは1995年です。その時と今とで、演じる側の心情の変化などはありますか?
アプローチの仕方は全く変わっていないです。私は生身の人間なのでどうしても年を取ってしまいますが、当初の印象を引き継ぎながら、大きく変わらないようにということを心がけています。

——ということは、今の方が役に近づいているのでは?
そうかもしれないです。年齢もそうですし、彼女は義体なので声は変わらないはずなんですけど、たぶん感覚的には今の方が近いのかもしれません。

——アニメーションと洋画の吹き替えに違いはありますか?
お芝居をするということに関しては、基本的には一緒です。特別何かが違うということはないんですけど、アニメーションと映画吹き替えは工程が違います。洋画吹き替えの場合は、音楽も効果音も編集も、すべてが完成された作品です。私たちはその完成品を観て、インスピレーションを受けてイメージを膨らませ、演じている役者さんの心情を日本語で表現するということが主体になってきます。一方、アニメーションの場合は、まだ絵も完全にできていないですし、完成品は監督の頭の中にしかないんですね。だから、現場でみんなで作っていくという印象があります。音響監督やスタッフの方たちとみんなでディスカッションをしながら作り上げていくものがアニメーションなんです。アニメのアフレコは、作品が仕上がるまでの途中段階にあるので、そういう違いがあると常々思っています。ですので、すべて自分で作ったものを収録当日にスタジオで表現しなければならない映画の吹き替えの方が、どちらかといえばシビアかもしれません。

田中敦子さん——おもしろCMのナレーション収録では、複数のキャラクターを瞬時に切り替える場面がありました。難しくないんでしょうか?
どの作品のどんな役も、すべて大変です。簡単にできる役というのはひとつもないし、やりやすい・やりにくいということもありません。ひとつひとつ魂を注ぎ込んで演じています。だから、自分で「こういう風に変えよう」というのではなく、役や女優さんから受けるインスピレーションだったり、アニメだったらキャラクターの絵を見て「こういう女性はこういう風にしゃべるんじゃないか」と想像しながらやっています。一日にいろんな役をやることもありますし、その時その時で役が私に憑依してくれればいいかなと思ってやっています。

——今回ケイト・ベッキンセールの2作品がラインアップに入っています。まったく違うキャラクターですが、同じ女優さんを演じるということで意識されることはありますか?
ケイト・ベッキンセールにしても、よくやらせていただくニコール・キッドマンにしても、作品によってキャラクターや役作りが全く違います。例えば、ケイト・ベッキンセールは『アンダーワールド』シリーズでの役柄と、今回放送する『ミラクル・ニール!』や『リーガル・マインド ~裏切りの法廷~』の役柄とでは全く違う表情ですよね。ハリウッドの女優さんって本当にすごいなと思います。その作品の役柄から受けるイメージで演じるので、作品ごとに違う表現になりますね。

——長く続くシリーズ作品で同じキャラクターをずっと演じるということもユニークですね。
そうですね。シリーズですと長いアプローチになっていくので、1作目の印象やその時の自分の役作りを思い出しながら、そこから逸脱しないような役作りを心がけています。

——キャラクターの成長もありますしね。
そうですね。シーンによって変わってくると思うんですけど、ストーリーに従って役作りも考えますね。

——『ミラクル・ニール!』はどんな現場でしたか?
ワンちゃんの声を岩崎ひろしさんがやられています。本家ではロビン・ウィリアムズさんがあてていらして、この役を最後に亡くなられたんです。ですので追悼という意味もありますし、岩崎さんはコメディがお好きな方なので、かなり色々盛り込んでいらしたと思います。楽しい現場だったことを覚えています。

——アドリブが来たらこうやって返そう、などは考えるんでしょうか?
そうですね。できる限り、アドリブが来たらアドリブで返したいですね。テストの時にやってくれればいいんですけど、本番で突然アドリブを入れてくる方もいるので、その時にうまく受けられないと「悔しい!もうちょっとうまい返しができたんじゃないか」って思ったり。シリアスなお芝居とはまた違う感覚の台詞まわしになったりということも、往々にしてありますね。

——頭の切れる女性の役が多いと思いますがが、もっと違う役を演じてみたいとか、型にはめないでほしいと思うことはありますか?
若くてキャリアが浅かったころは、ガンダムとか攻殻機動隊のように「戦う強い女性」の役がとても多くて、そうかと思うと小さな子供の優しいお母さんの役をいただいたり、演じるキャラクターが二極化していた時期がありました。その時は、その間にある色んな役を演じられるような声優に成長していけたらいいなと考えていました。

——そういうことができたと思った役や作品はありますか?
今回放送していただく『ミラクル・ニール!』はコメディ作品でもあり恋愛を主軸としたストーリーなので、そういう役をいただけるようになったということもありますし、『アンダーワールド』の頃からやらせていただいているケイト・ベッキンセールや、ニコール・キッドマン、エリザベス・シューなど、女優さんたちが色んな役を演じることで、私も彼女たちに導かれて色々な役をやらせていただけるようになったのかな、と感じています。

——声優として自信がついたと感じるきっかけになった作品はありますか?
今も自信はありません(笑)。役者の仕事というのは正解がないので、「これで大丈夫かしら」と毎日思いながら精一杯やるしかないんですけれど。幸運なことに、長く続くシリーズ作品にたくさん巡り合うことができました。『フレンズ』や『犯罪捜査官ネイビーファイル』、『コールドケース』、『エレメンタリー ホームズ&ワトソン in NY』なんかもそうだし、こうした状況をとても幸せだと思っています。長く続く作品をやらせていただくということは、この役は最後まで自分がきちんとやり遂げるしかないんだ、という意識が生まれてきて、まだまだ先が長いなと思ったこともありましたが、そういうことが自分を奮い立たせてここまで来られたんだと思います。もちろん、そういう意味では『攻殻機動隊』の素子もそうです。

田中敦子さん——田中さんにとって『攻殻機動隊』とは、どんな作品ですか?
この作品がなければ、たぶん私は今ここにこうしていないだろうと思うくらい、声優としての道標のような、そんな大切な作品です。この年になっても日々オーディションが繰り返され、受からないことの方が多いという状況において、声優人生の初期の頃に『攻殻機動隊』の素子役に選んでいただけたことは、非常に奇跡的なことだと感じています。

——もしかしたら、一番長く演じているキャラクターではないですか?
足かけという意味では一番長いと思います。95年から今年(2017年)の実写版『ゴースト・イン・ザ・シェル』の吹替えまで続いているという風に考えると、足かけ22年ということになりますね。

——いつもアニメーションに声をあてているものを、実写で吹き替えるというのはどんな気持ちなんでしょう。
この作品は、いくつかの転機があります。最初に95年の『攻殻機動隊』があって、次にテレビシリーズになる時、『イノセンス』、そして実写映画・・・、素子役は私じゃなくなってもおかしくないポイントがいくつもあったんですね。テレビシリーズの時も『イノセンス』の時もオーディションが行われていましたし。実写の時にはオーディションはなかったですけど、素子を演じたスカーレット・ヨハンソンは、ほかの声優さんや女優さんが吹き替えていらっしゃるケースが多かったので、流れとしてはそちらにオファーがいってもおかしくなかった。そういう状況であっても、「素子はまた私のところに来てくれた。私を選んでくれた」という不思議な気持ちになりました。実写版の時にもオリジナルメンバーを集めていただいた吹き替えの現場だったので、違和感も全くなく、アニメーションをあてていたときと同じように大塚(明夫)さんのバトーと山寺(宏一)さんのトグサについていけばいいんだなという気持ちで演じていました。
山寺さんがご自分の出番がないときに、後ろで私のミラ少佐と大塚さんのバトーの会話を聞いていらして、「目をつぶって聞いているとさ、アニメの時と全く一緒だよね。アニメーションが浮かんでくるよね」って言ってくださったことがとても嬉しくて。この仕事を20年以上やり続けてきたことへの、神様からのご褒美なのかなという感じがしています。

——声優としての抱負を教えてください。
先日「金曜ロード Show!」で放送する『ジュラシック・ワールド』の新録制作に呼んでいただきました。もちろん、それまでビデオグラムに収録されている吹替映画を放送することはあったと思うんですが、新録は7年振りと伺いました。「そんなに長い間作られていなかったんだ!」と思いまして。だって、私たちは毎週のように○○劇場や○○ロードショーで放送する作品を吹き替えていたんです。今回「吹替王国」で放送する『インビジブル』も、日曜洋画劇場で放送した作品ですしね。7年振りに制作された『ジュラシック・ワールド』の吹き替えメンバーには、仲間由紀恵さんをはじめとするタレントさんがいらっしゃいましたけれど、この中に私を起用していただけたことは、とても新鮮に感じましたし認めてもらえたのかなという気持ちがしました。すごく嬉しかったです。
タレントさんにしかできないことがたくさんあるけれど、そういう中でも、常に同じ土俵で戦えるような自分でいたいと感じました。悔しい思いをすることもたくさんあるけれど、「自分がここにいる」ということを伝えたいし、「ここにいられることが幸せ」と思える現場にたくさん巡り会いたいなと思います。

——最後に、「吹替王国」を楽しみにしている視聴者の方へのメッセージをお願いします。
今回放送していただく4作品は、それぞれいろんなジャンルから選んでいただいたバラエティに富んだラインアップになっています。20年以上前にやらせていただいたキャラクター素子を演じた『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊2.0』があり、テレビ放送用に収録した『インビジブル』があり、最近DVDパッケージ用に収録した『ミラクル・ニール!』があり・・・。役柄も含めて、色んなバージョンの私の吹き替えを楽しんでいただけたら幸せです。そして役だけでなく、20数年前の『攻殻機動隊』から今に続く田中敦子の歴史みたいなものもあわせて注目していただけると、より一層「吹替王国」を楽しんでいただけるんじゃないかと思います。ぜひ、ご覧ください!

ムービープラス YouTubeチャンネルでは、田中敦子さん吹替えによるオモシロ番宣CMを4バージョンを配信中!
 

田中敦子さん[プロフィール]
田中敦子
(たなか あつこ)
11月14日生まれ。群馬県出身。
低めで艶やかな声色が特徴で、頭の切れるスマートな女性や、戦う強い女性の役を多く担当。
アニメ作品はもちろん、映画やドラマでハリウッド女優の声を多く担当しており、ニコール・キッドマン、ケイト・ベッキンセール、ジュリア・ロバーツなどを務める実力派としても知られている。
ふきカエル大作戦プレゼンツ“凄ワザ吹替えプロジェクト”特別編『長く熱い週末』(1980年製作のイギリス映画)ではヘレン・ミレンの吹替えを担当した。
→“凄ワザ吹替えプロジェクト”特別編『長く熱い週末』についてはこちら
 

2017年12月23日(土・祝)昼1時~夜8:55放送
ムービープラス
「吹替王国 #12 声優:田中敦子」

※番組の放送は終了しました。
movieplus.jp