飯森盛良のふきカエ考古学

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幻のふきカエ音源がレイダース的に人知れず死蔵されている倉庫が、ネバダの砂漠のど真ん中に実在した!の巻(か?)

今、11月2日(金)公開の『華氏119』のマスコミ試写から帰ってきてこの原稿に着手したところですが、興奮冷めやらんな!前からマイケル・ムーアは我がヒーローだけど、さすがに今回は泣いた。闘志を注魂されましたね。闘わねばな俺も!(誰と!?)

この手の映画って、ふきカエやるのかな?情報量多いから超ふきカエ向きコンテンツだとは思います(字幕だと情報量が大幅に目減りし原語の要約にしかならない。あ、今回、字幕監修なんと池上彰さんです)。一方で、あのトランプさんのダミ声、誰がどんなに巧くアテるにせよ、ふきカエだとどうやっても“コレジャナイ感”あるとも思うんだよな…本人の声みんなニュースで知ってるし。

ドキュメンタリーで(劇映画なら仕方ないが)どうしても歴史上の有名人物やトランプやヒットラーをふきカエる場合、是非「ボイスオーバー」でやってほしいもんです。ほら、英語のうっすら原音の上から日本語ふきカエをかぶせるやつ。あれだと“コレジャナイ感”生じない。

以上は興奮のあまりの全然関係ない余談。今回は「激レア映画、買い付けてきました!」というウチの名物特集で11月にお届けする、本邦初公開や未DVD化といったド珍作群からの1本、『モリー』という映画について書こうと思ってたんだ。

飯森11月レビュー

これ、エリザベス・シューとアーロン・エッカート(以下アロエカ)共演作。アロエカはLAで広告会社でバリバリ働いてる男。シューがその妹なんだけれども、重い自閉症で施設に入れられてる。その施設が閉鎖されるってんで、他界した両親に代わりお兄さんが引き取るんだけれど、慣れない介護で生活がわりとメチャクチャに。そんな時「脳外科手術をすれば症状が劇的に好転するかも」との医者からの提案が…。

99年の米映画。ハートウォーミングな家族のドラマで、良作だと思います。が、ワタクシが何にも増してこの映画に惹かれるのは、綺麗だから!99年のLAが舞台なんですが、業界人アロエカがシューを引き取って暮らすロフトアパートメントのセットの、なんとカッコいいことか!内装、家具、雑貨、男臭くてヤバい!英語で「ラフ・インテリア」ってやつだな。一方のロケ撮でも、ビーチ、ドジャースタジアム、LAの日差し…すべてがキラめいてる。服も綺麗だし。これ、今後の人生で何度も見返すことになりそうだ。綺麗すぎて!見てるとα波ダダ漏れ。90年代って、本当に物がこういう風に見えた時代だったんですよね。懐かしいなぁ。

最近トランプさんが「中距離核戦力全廃条約から離脱する」なんてまたぞろキナ臭いことを言い出しましたが、あれが調印された87年ぐらいから冷戦が終結に向かって大きく動き、壁崩壊→ソ連解体→俺ら西側資本主義陣営の完勝確定!もう核戦争なんて起こりえない!! 平和と繁栄の新世紀の幕がもうじき上がるんだ!!! から90年代は始まりました。日本では91年にバブルが崩壊しちゃいましたけど、それでもしばらくは今と比べ物にならない攻めマインドも惰性で持続してましたし。カネもあったし消費もしてた。ましてアメリカは、そこからがバブルですから!クリントン政権による、製造業・重工業→金融・ITへの立国産業の大転換。空前の好景気。90年代末にはITバブルに突入。

…その平和と繁栄の甘い夢から、2001年の9月11日に覚めてしまうのです。クロトワなら「短けえ夢だったなぁ…」と嘆くところ。とにかく、冷戦には勝ち、9.11は起こる前の、これほど平和と繁栄の予感しかしない10年間は、他に無かった!この時代に作られた映画には、しばしば、カネの心配がいらない人の目にだけ見える、まぶしすぎる世界、美しい文物で彩られた、物質的に豊かな世界が、期せずしてか意図してか、焼き付けられてしまっていることが多々あるのです。

そんな中でもこの『モリー』は、最高に綺麗な1本だと感じました(前にこの場に書いた、当時の日本のCMも、同じ種類のリッチ感が漂ってて、好きだったなぁ)。若い皆さん、本当に90年代の頃は、世界がこの映画のように見えていたんですよ!

なお、この『モリー』については、ウチの音声番組でワタクシ、映画ライターなかざわひでゆきさんと熱く50分間もダベっております。ココです。よろしければ是非こちらもご笑聴を。

さて、ふきカエの話。実は11月の字幕版よりも10分長い機内上映版ふきカエを12月にお届けします。シュー小山田詩乃さん、アロエカ宮本充さん。これ劇場公開がちょっと延期となり、でも機内上映のラインナップからは外し忘れて当初予定のままだったので、映画館よりも飛行機での上映が先になっちゃった、しかも後から公開された劇場版は10分カットされていた、という経緯で、そのような変則的事態になったそうな。

機内上映版をやる場合、ウチ的には割高になるのです。飛行機用として作られたものを勝手にダマでTV放送する訳にもいかず、CS業界として流用させてください、改めて幾らかお支払いしますから、という「転用費」を払わないといけないので(ここらへんの裏事情は以前書いた。ココ)。ワタクシの担当してるウチのチャンネルのふきカエ枠では、原則「むかし地上波で見て懐かしいという人が結構な数いる」ふきカエしか取り上げませんので、普通だったら機内上映版という、見た人がかなり限られ、しかも大好きでVHS録画し繰り返し見た人は確実にゼロ人、というバージョンにニーズは感じないのですが、今回はこの「とはいえ10分長い」という点にメリットを感じて、異例のこととして機内版もお届けすることにしました。

でも、かつての機内上映版って、声優陣けっこう豪華で侮れないんですよね。あれもっと見れるようになったらいいのに。実はワタクシ、業界の古老から「ネバダの砂漠の真ん中にレイダースの倉庫に似た日本の某航空会社の倉庫があってのぅ、そこにはいにしえの伝説の声優たちがアテた機内上映版のテープが、再放送・ソフト収録されるアテもなく、人知れず死蔵されていておるのじゃ、まるでアーク《聖櫃》のようにのぅ」という神話を聞かされたことがあるのですけど、本当なのだろうか…。

最後に、実はこの『モリー』とセットでご覧いただきたい、ほぼ同時期に作られた映画があるので、それの宣伝を。『ディアボロス/悪魔の扉』という、キアヌ・リーヴス(CV:堀内賢雄)とアル・パチーノ(CV:小川真司)の97年のスリラーなのですが、これは『モリー』とは表と裏のような作品。「繁栄」と「堕落」って表裏一体でしょ?90年代の繁栄は、実は堕落への門だった。あそこから入って行って21世紀へと堕ちてった…。そこは、一部の者にだけ使い切れないほどの高所得を与え、大多数の貧困を尻目に想像を絶する虚栄と退廃を独占的に許しているような、堕落した未来。まさに、いま我々が住んでいる、この2018年の世界そのものです。その到来を21年前に予言した映画が『ディアボロス』なのです。

序盤、高級取りのNYの名士たちだけの豪勢なパーティーのシーンが出てくる。「ドナルド・トランプ氏も来てるみたいよ」なんてセリフが飛び出します。あと中盤のシーン、大富豪の不動産王が住んでいる、NYを見渡すタワーマンションのペントハウス。内装は金ぴかピン、ベルサイユ宮殿のパチもんとしか言いようがなく悪趣味きわまりない。『モリー』と違ってセンスゼロ。皆さんこの部屋には絶対に見覚えがあるはず。ニュースで!

なんなんだこの97年の映画は!? これって悪魔の予言か何かか!?

…いや、ダメだ、もうかなりの文字数オーバーだ!この『ディアボロス』の話の続きは、ウチのチャンネルのブログの方にお越しください。続きはそっちに書きます。