飯森盛良のふきカエ考古学

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日本人にとっての究極の『ゴッドファーザーPART I』今ここに誕生!の巻

前回予告した、野沢那智さん版『ゴッドファーザー』のふきカエ放送は2月の1日、2日、3日が初回放送でしたけれど、皆様お楽しみいただけましたでしょうか?まだまだ再放送はあります!自分で言うのもアレですが大変貴重な機会ですので、次こそはお見逃し・お録り逃しのなきように。
次回放送予定
『PART I』:2016年4/13(水)朝6時~、5/3(火・祝)夜5:45~
『PART II』:2016年4/14(木)朝6:30~、5/3(火・祝)夜9時~
『PART III』:2016年4/15(金)朝6時~、5/3(火・祝)深夜12:15~

すいませんが今回もこのネタで引っ張らせてください。このふきカエ放送がどういうプロセスを経て実現したのか、ということを今回は皆さんに開示することにいたしましょう。と言ってもこれ、うちのFacebookを覗いてくれている方には周知のこと。この作品に関して、Facebookではふきカエ放送を思いついてから放送までの過程を、よっぽど忙しくない限り都度都度つぶやいてきましたんで。今回ここで“まとめ”みたいに整理しますが、ふきカエ企画がリアルタイムに動いとているところに今後は参画してみたい、という方は、ぜひウチのFacebookも覗きに来てみてください。あと、すでにFacebookをお読みいただいている方、今回のここでの原稿は、かなりFacebookの過去投稿からのコピペ加筆であることを、前もってお断りしておきます。手抜きではありませんぞ!

さて、『ゴッドファーザー』は、ザ・シネマ10年の歴史の中で、これで放送するのは3度目でした。なので、ただ再放送するだけってのも芸が無いですし、業界的にはウチの競合チャンネルさんの方でもやられたばっかしだったので、どうにかウチらしい新機軸を打ち出そうと思って、ふきカエ版の有無を調べてみたんです。

当チャンネルでは、昔よる9時からのTV洋画劇場にて流れた懐かしの昭和ふきカエ名盤を発掘してHD化し現代に蘇らせる「厳選!吹き替えシネマ」という企画がありまして、これにちょうどいいだろう、と。この企画、当チャンネルの名物企画として、けっこう前から続けている。2007年からやっている。でも、であるならば前回『ゴッドファーザー』を放送した時にはどうしてI~IIIを野沢那智さん版でやろうと思わなかったのか?

実は、やろうとは思ってたんです。で、今回同様、権利元の方に照会してみたんですが、その時は何故か野沢那智さん版で揃わなかったんですなぁ。その時はソフト版で揃えるしかなかった。

なぜその時に野沢那智さん版で揃わなかったものが今回は揃ったのか?ウチは洋画チャンネルですんで、権利元というのは外国人です。ハリウッド映画なら当然アメリカ。外国人相手に「野沢那智版が欲しい」とか「水曜ロードショー版をくれ」とか言ってもいまいちピンとこないのは仕方ないことでしょう。向こうとしてはそこまでは管理しきれないというケースだってあると思いますし、そもそも、日本側で日本人のどなたかがヤラかしちゃってたというケースだってあるから、外人のせいにはできない。たとえば、「声優Aさんによるふきカエ」と登録されてるテープが実はBさんのものだった、といった場合です。声優さんに詳しくない人が作業したのか、あるいは単純な凡ミスなのか…。ウチで、「Aさん版がある」と聞いていて蓋を開けてみたらBさん版だったんで編成部一同ドッヒャ~、という場合。さらに最悪のケースだと「Aさん版をやります」と視聴者に予告しちゃったのにBさん版を流しちゃったという場合、こういう経緯であることが多い。もっとも、ザ・シネマ側でも中身ちゃんと聞いて確かめてないのかよ!という責任からは逃れられないので、無罪だとは言ってませんよ。我ながら、万死に値する!!と思っております。過去に何度かそういうことがありました。改めて視聴者各位に深くお詫び申し上げる次第です。

まぁ、ふきカエ素材はそんな感じでギッチギチではなくマッタリ管理されてることもありますので、数年前に「野沢那智版ではI~IIIが揃わない」と言われたものが、今回だと「揃います」となったとしても、別に驚くには値しないんです。ふきカエ発掘作業に07年から携わってきたワタクシといたしましては、「ありがちな話だよね」ってな感じです。まあまあ、杜撰だとお怒りめさるな。良い方にとらえてください。マッタリなおかげで、逆に、ふきカエ版がもう残っていないとされているテープだって、ある日どこからかひょっこり出てくるかもしれないんですから。実際、権利元から「ふきカエのテープはもう残ってない」との公式回答を受けて、それでも放送を実現したい某作品があったので一般視聴者からVHSテープの公募までしたところ、権利元の方から「よく探してみたら見つかったわ!」との連絡が飛び込んできた…というケースもあったぐらいですから。無いんじゃなくて有ったって話ですんで良いことです。前向きに考えましょう。でないと、ふきカエ考古学なんてやってられません。

さて、野沢那智さん版でI~IIIがほぼ確実に揃いそうだ、それでテープを取り寄せてみた、それで中身を聞いたら本当に野沢さんの声だと自分の耳で確認できた(Aさん版と聞いてて実際聞いてみたらBさんだった、ってことがたまにありますんで自分の耳で聞くまで信用できない)、というところまで漕ぎ着けて、もう間違いない、企画GOだと、ようやく昨年11/11、このことについて初めてFacebook上に書き込みました。そろそろ2月の番組編成のFIXを始めようかという時期です。結果、SNS上でかつてないほどの凄まじい反響がありました。なので、いつもより細やかに、本件に関しては逐一、Facebook上で進捗を視聴者に向け報告していこうという方針をとりました。

一番気になるのはカット版かノーカットかということ。一緒に届いた台本で即チェックし、Facebook上で報告です。

まずはPART I。ふきカエ台本を見ると昭和51年10月13日と20日に水曜ロードショーで初回放送されたもので、台本にはCMを抜きにした合計尺も書いてあるのですが、それによると尺は合計174分14秒。プロも使っている信頼性の高い映画WEBサイト「IMDb(インターネット・ムービー・データベース)」によれば劇場公開時の尺も175分となっているので、TV初回放送時はノーカットだったということです。

続いて『PART II』。こちらも昭和55年11月5日と12日に水曜ロードショーで初回放送されたもので、合計尺176分41秒。肝心のIMDbを見てみると公開時の尺は202 分となっている。つまりTV放映では202分-176分=20分以上カットされてしまったということです。この台本がふきカエ版初回放送時のものであることは表紙の放送日の記載から明らかなので、その台本自体に176分41秒だと印刷されてしまっている以上、ノーカット版は制作自体されたことがなかった、と断定できます。って何言ってるのかちょっと解りにくい?

何を言いたいか『PART III』について読めばお解りいただけるでしょう。ここの『III』を読んだ後でもう一度上の『II』についてのパラグラフを再読いただければ、何を言ってるのか次こそ理解できると思います。で、『III』。局が移ってフジテレビのゴールデン洋画劇場で94年11月19日に放送されました。この『III』だけが、台本に合計尺か書かれてなかった。これが大問題でして、『I』と『II』の日テレ台本との大きな違いです。合計尺が書いてあれば、そのTV放映時の尺と劇場公開当時の尺を比べ、ノーカット版かカット版かをほぼ特定できるからです。オープニングのコーポレート・ロゴ(本作はパラマウント作品なのであのお馴染みの山のマーク)なんかはノーカットの場合でもTVではカットされますんで、劇場版より少しはTVノーカット版の方が短くなるかもしれませんけど、ほとんど同じ長さです。前記の『I』で、TV尺が174分14秒、公開時の尺も175分というのがまさしくこのケースに該当します。

反対に『II』の、TV尺176分41秒、公開時202 分というのは、どう考えてもカットされていることを意味しています。

で、問題の『III』。台本に合計尺が書かれていない。テープを再生して実際に尺を計算してみると141分45秒でした。IMDbによると公開時の尺は162 分。なので『II』と同様カットされてる、と普通は思いますよね?

でも、このテープが再放送か再々放送時のものだった場合、その時にカットされて141分45秒にされちゃった可能性だってある。元は162 分だったかもしれないんです。TVで映画を見て育った世代ならよくご存知の通り、TV洋画劇場って初回はノーカットでも、同じ映画を2回目・3回目にかける時ってカットすることが往々にしてありますよね?だから、もしかしたら初回放送版は162 分あったのかもしれないけれど、今回ウチに届いたテープは再放送・再々放送時のもので、だから141分45秒にカットされたものだったのかもしれない。あるいは逆に、『II』と同様『III』も初回放送時から141分45秒のカット版しか作られなかったのかもしれない。判らない。初回放送時の台本に「162 分」か「141分45秒」かどちらか明記されてれば、答えは『I』、『II』と同じように一発で出るんですが、フジテレビ版の『III』の台本にはそれが書いてなかったのでややっこしいことになった。

届いちゃったのが141分45秒のテープだからって、もしノーカット162 分初回放送版が存在するんだったら、ワタクシとしては当然そっちの方を放送したい!カット版なんてヤだ。で、初回放送の1994年11月19日の放送を覚えている一般の方にtwitter上とFacebook上でカットされてたかノーカットだったか公開質問してみました。すると「初回放送を観ていましたが、確かカット版だったと思います。」という証言がtwitter上で寄せられたのが、まず大きな決め手となった。

この日のゴールデン洋画劇場が夜9時からの3時間拡大版だったということだけは台本に書いてあります。それが書いてなくても図書館で当時の新聞を調べれば簡単に判ることです。このように放送枠が何時間枠だったかは調べる方法がある。でも、知りたいのはその3時間枠のうち、CM等を抜かした本編実尺が何時間何分だったかです。

で、この画像。

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これは今回ウチに届いた『ゴッドファーザーIII』の台本のキャスト表部分であります。

右端に「R-1」〜「R-11」という項目があって、業界用語で「ロールいち」、「ロールじゅういち」と読みます。R-1とR-2の間にCMが入ります。R-1の前にも入りますし(ゴールデン洋画の和田誠画伯のOPもここ)、R-11の後にだって入る(予告編とゴールデン洋画のエンドクレジットも)。つまり、放送時には、3時間の放送枠に12回CMその他が入っていたことになります。

仮に1回のCMが2分間だったと仮定してみます。するとCMだけ合計したら2分×12回=24分間になる。仮の話であくまで試算ですよ?

この日のゴールデン洋画劇場は21:04〜23:54までの拡大170分枠でした。今回ウチに届いたテープの本編実尺(CMを抜いた、映画本編映像だけ合計した尺)が141分45秒、四捨五入して142分+CM合計尺24分(仮)=166分。170分の放送枠に一応ピッタリ収まりますね。さらに4分ほどCM入れられる余裕がある。

では、もしこのテープが再放送時にカットされたもので、初回放送時にはノーカット版でちゃんと放送されてたんだ、とするとどうでしょう?『III』公開時の尺162 分+CM24分=186分となり、170分枠にはぜんぜん収まりきらなくなってしまいます。

ということで、各CMが仮に2分間であったなら、30秒CM4本か15秒8本が入るぐらいのCMの入り具合だったなら、という仮定に立てばですが(かなり妥当で現実的なシミュレーションだと思いますが)、おそらく、ゴールデン洋画劇場版『ゴッドファーザーIII』は、当初から141分45秒で作られたもので、162分のノーカット版は制作されたことがなかったに違いない、なぜならノーカットにCM24分間(仮)を足したら初回放送時の21:04〜23:54の放送時間にハマらなくなっちゃうから、という証明が成り立って、先の「初回放送を観ていましたが、確かカット版だったと思います。」というtwitterで寄せられた証言を裏付けることができるのです。

さあ、今や結論は出た!『I』だけがノーカット版で、『II』と『III』は残念ながらカット版ということが判明しました。そこで、『II』と『III』はかつてTV洋画劇場で流れたまんま、カットされたシーンはカットされっぱなしのままで、HD化とノートリミングのビスタサイズにワイド化するだけで済ませることにしましたが、『I』は奇跡的にノーカット版が残されていたということで、これだけはきちんと、現状望みうるベストな形に修復しなければならない!カネもかかれば手間暇もかかるがあえてそれを厭わない!ふきカエ考古学者を自任する者のそれが後世への務めだ!これはメセナである!という大盤振る舞い持ってけ泥棒スタンスで臨むことに。まぁ、別の言い方をすれば「年度末でちょっと余ってたからね…」という言い方もできなくはないのであるが!!

で、コッポラ監督が自らが監修したデジタル・リストア(修復)版を絵の元素材に用いることに。いやはや、カネかかったわ!「なんてことだ!私の記憶よりずっと美しい!」と監督本人が思わず叫んだというほどヤバいクオリティの映像と、40年の時を超え今日に再び姿を現した昭和51年水曜ロードショーの旧式テープに閉じ込められている、野沢那智さんはじめ昭和の名人たちが吹き込んだ音声。その絵と音が奇跡の合体を遂げ、我々日本人にとっての究極の『ゴッドファーザーPART I』が、今、ここに初めて誕生することになったのであります!

いちおう『II』と『III』も残しておいた方がいいかとは思いますが、『I』こそが2016年現在の日本国民にとっての究極版。BDに残せる環境の方はとりあえず残し、さらに上の仕様が登場するまで永久保存版として取っておくに如くはないと、ワタクシ、本件の直接担当者でありながら、臆面もなく胸を張りたい次第なのであります!

飯森盛良のふきカエ考古学

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*DVD収録情報等は2016年2月末時点のものです。

前回(2016年1月更新)のふきカエレビュー「ザ・シネマ開局10周年。10年目の衝撃の告白「最初の1年半はアンチふきカエ派だった」!の巻」はこちら