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『007』製作50周年記念特集4  吉田プロデューサー

2013年3月9日。筆者はまだ肌寒い六本木の街を抜け、とある収録現場を訪ねました。今日はそのスタジオで「007 TV吹替初収録特別版DVD-BOX 第四期」の目玉となる『慰めの報酬』の新規録音が行われているのです。あちこちのスタジオを飛び回っている声優やフリーランスのスタッフ諸氏とは違い、筆者のような制作会社の社員が商売敵である他社様の仕事場に伺うことは滅多にありません。「うわ、ウチより立派なビルじゃん」「玄関綺麗だしロビー広いし」「スタジオの機材も高そう…って何だ俺は産業スパイか」等々、へっぴり腰でスタジオに足を踏み入れました。

迎えてくれたのは、吹替え版の演出家である鍛治谷功ディレクター。TV版『カジノ・ロワイヤル』から担当されている、いわば本シリーズの立役者であります。今回の新録も元はと言えば鍛治谷氏がクレイグ・ボンドに藤真秀氏を抜擢したことから始まっているわけで、関係者一同はこの人に足を向けて寝られません。「今回はなるべく過去シリーズに縁のある声優諸氏をキャスティングしました」とのお言葉に改めて台本を見直せば、そこにはシリーズでお馴染みのアノ方やコノ人の錚々たるお名前が…うわ、こっちが緊張してきた(笑)

ボンド「待たせたな」
ジェームズ・ボンド=ダニエル・クレイグはもちろん藤真秀氏。いや、とにかくカッコイイのですよ見た目も声もお芝居も。以前から現場では時々お会いしているのですが、物静かな佇まいの中に力強い芯を感じさせるキャラクターは、クレイグ・ボンドに通じるものがあります。今回はご本人も「今までで一番緊張します」と語ってましたが、そりゃそうですよ周りの面子が面子ですから。今日の現場にはTV洋画劇場の黄金期を支えてきた、こんな方々が揃っているのです。

グリーン「君たちはお似合いのカップルだ。二人とも『傷もの』だからな」
メインの悪役ドミニク・グリーンを吹替えるのは江原正士氏。007ではテレ朝版『リビング・デイライツ』のコスっからいコスコフ将軍から、フジテレビ版『トゥモロー・ネバー・ダイ』のクールなブロスナン・ボンドまで幅広く演じられていますが、今回もお見事の一言。シリーズ中一番弱っちい悪役であるグリーン(まあ、普通のおっさんなんで)も江原氏が演じると「あー、この人もいろいろ抱えてるんだなー」と背景が見えてくるのですね。ネチっこい中にも虚勢と諦観が交錯するグリーンの複雑なキャラに、正にベストのキャスティングです。

ホワイト「残念だよ。彼女が生きてりゃ今頃君は我々の仲間だった」
メドラーノ「ご両親とは知り合いでね。亡くなる直前に会ったのも私だ」
大臣「グリーンにとっての利益は…我々にも利益だ」

黒幕のホワイトを演じるのは、前作『カジノ・ロワイヤル』から続投となる大塚芳忠氏。こちらも多彩な役柄で知られていますが、今回は悪役バージョンです。芳忠さんの声って何か「企んでるように聞こえる」のですね。権謀術数に長けたホワイトは適役です。
悪の将軍メドラーノには、この方を抜きにTV版007は語れない内海賢二氏。007シリーズはもちろん、世の吹替版の半分ぐらいは内海さんが悪役をやってます。今回の将軍も内海さんの吹替えで、野蛮さと残忍さが五割り増しになっています。
そして短い出番ながら強烈な印象を残すのが大塚周夫氏。政界の裏も表も知り尽くした、古狸の大臣を演じています。大塚氏と言えば以前に別の作品で同様の役をお願いしたときに、台詞を喋ってから「こんな感じ?もっと嫌らしくやる?うひひひ」と仰っていました。ああ、好きなんだなあ、と思いました。

M「ボンドは私の部下よ。彼を信じてる」
マティス「MI6をクビになったか?」
カミーユ「復讐を遂げたら…そのときの気持ちを教えて」

上司のMはこちらもTV版では常連の沢田敏子さん。実は過去に『ダイヤモンドは永遠に(内海コネリー版)』で、ボンドガールのティファニーを吹替えています。あの役は歴代ボンドガールで一、二を争う「こいつ大丈夫かおい」というキャラで、近年の冷徹で聡明なMとは正反対でした。
マティスの西村知道氏も前作の『カジノ・ロワイヤル』から続投。『カジノ〜』での敵か味方か判然としない「食えない」キャラはそのままに、でも本作では男気に溢れた意外な一面も見せてくれます。普段はいい加減(に見える)けどヤルときゃヤルぜ、というあたりはまさに吹替えている本人そのもの(←褒めてます)
カミーユの武田華さんは『カジノ〜』での小さな役からジャンプアップして、メインのボンドガールに。ボンドガールと言っても今回は所謂「紅一点のお飾り」ではありません。小柄な身体に強い意志を秘めたカミーユを、武田さんは凛として演じています。内海賢二氏とタイマン張るなんて、そうそうできる経験ではありません。

…こうして多彩なキャストとスタッフが作り上げた吹替え版は、「目をつぶって聞いていても面白い」という逸品です。かつてTVの吹替版には「背中で音だけ聞いている人を画面に振り向かせる」というチカラがあったのですね。日本での007人気を支えてきた、そんな吹替版のチカラが本作にはぎっしり詰まっています。どこを切っても007、どこから見ても(聞いても)ジェームズ・ボンド。『慰めの報酬 TV放送吹替キャスト・新録版』に御期待ください!

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