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吹替えは「日本語文化」

───今回の「ふきカエルキャンペーン」を始めるにあたって、「日本語文化を守ろう」というのもひとつのテーマになっています。おふたりの好きな日本語を教えてください。

安藤 英語に訳せない「もったいない」とかですね。あとは日本語の擬音語が好きですね。「ドキドキ」とか「ワクワク」とか。英語だと「おなかの中にチョウチョがいるようだよ」みたいな言い方をしますけど、「ドキドキ」「ワクワク」っていうほうがよっぽど伝わるしイメージしやすいですよね。日本語っていいなぁって思いますね。

平田 お行儀いいことを言うようですけど、僕は「ありがとう」という言葉はとってもきれいな言葉だと思うんです。「有る(ある)」ことが「難し(かたし)」というのが語源だそうで、「ほんとだったらあり得ないこと」なわけですよね。語源がいまの「ありがとう」という意味とちょっとずれているのも面白いですしね。日本語というのは丁寧語とかいろいろな分類があって、同じ意味でもいろいろな表現方法があるじゃないですか。「Thank you」でも「I'm sorry」でもいろんなふうに訳せますし。そういう直接、感情に係わる言葉っていうのはいい言葉がたくさんありますね。日本語版の台本を作るのは大変で難しいでしょうけど、その分、練って作ったセリフというのはとってもきれいな言葉になり得ると思います。

───セリフとして心に残っている言葉はありますか?

写真_2人

平田 日本語版ならではの素敵さといったら「うちのかみさん」に通ずるもので『パイレーツ〜』の「おわかり?」。あれが浸透していってもらうと吹替えをやっててよかったな、というのがありますね。日本語独特の言い回し…僕の場合は「おわかり?」かな。あれも『アリス〜』ほどではないんですがジョニー・デップが特殊な演技をしていたので、最初に20テイクくらいかけてキャラクターをつくりました、あの独特の口調を。それはとってもありがたかったですね。『パイレーツ〜2』を録るときに「平田さん、すっかり(口調を)忘れたね」って言われましたけど(笑)。『パイレーツ~』は「おわかり」含めて、けっこう言い回しや言い方とかは最初に作り込みましたね。丁寧に時間かけてやっていただけたっていうのはとっても嬉しいですね。『パイレーツ~』も基本的に別々に録ったんですけど、やりとりが多いところは絡みの多い役者さんをスタジオに呼んでくれて一緒にリハーサルさせていただいたこともありました。そういうディレクターさんからもらう厳しいダメ出しは、ちっとも苦にならなかったですね。

安藤 『アリス〜』の中で、不思議の世界に入った瞬間のセリフが台本とは変わったんですが、ディレクターさんに「言ってみて」と言われたのが「へんてこりんのぽんぽこりん」だったんです。不思議の世界に入って最初の印象を、「へんてこりんの…ぽんぽこりん?」と一言で表したそのセリフは印象に残ってますね。

名優・野沢那智

───平田さんは何度か共演されていると思いますが、野沢那智さんについて想い出をお聞かせください。

平田 想い出を話すにはまだ早いというか…とっても悲しいです。声のお仕事をさせていただくようになって、まだペーペーの頃から一人前の役者として扱っていただいてすごく嬉しかったです。すごい自信になりますよね。大御所に名前を呼び捨てにされるというのはとっても嬉しいですね。「平田、芝居やってんのか」って。何本かご一緒させていただいてますが『フェイク』のときにくたびれきったアル・パチーノをやられて、これがまた素敵でしたね。これはやはり一緒に録らないと、那智さんの「圧」が直接ないとできないだろうなと思いましたね。2000年になる頃に『木曜洋画劇場』で「20世紀名作シネマ」として昔の名画を録り直したんですが、『スケアクロウ』で僕がアル・パチーノをやらせていただいたんです。でもアル・パチーノをやったというよりも那智さんをやらせてもらった、みたいなイメージでとっても嬉しかったです。まだまだ教えてもらいたいことがたくさんあったんですけどね。

───実際にスタジオで対峙して役をやっていくと何か伝わってくるものはありました?

平田 独特のものがありましたね。那智さんがしゃべり始めるとそれがアル・パチーノだろうがなんだろうが那智さんになってしまう。最近はブルース・ウィリスがお気に入りだったんですよね。いいですねぇ、那智さんのブルース・ウィリス。抜け具合とか。特に『ダイ・ハード』なんかは普通に真面目にやってるのにどんどん不幸なほうに追い込まれていくブルース・ウィリスの情けなさが(笑)。ブルース・ウィリスじゃなくて那智さんの『ダイ・ハード』が面白いですね。そういうふうに僕もなりたいんですよ。小池朝雄さんのように野沢那智さんのようにならなくちゃいけないので、まだまだ教えていただかなきゃいけなかったんですけどね。

───平田さんも若い人から見るともうそういう存在になりつつあるんじゃないでしょうか。

安藤さん

安藤 そうですよ。

平田 だからだから!年齢的にはそうだから!中見が追いつかないとねぇ。だって『アリス〜』は一緒に録ってないからどれだけトチったか知らないでしょ?

安藤 でも他にも何本かご一緒させていただいてるんです。

平田 他のは見られてるんだよね。すみませんでした(笑)。

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hirata平田 広明
(ひらた ひろあき)

1963年8月7日生まれ、東京都出身。昴演劇学校を経て劇団昴に所属。1986年『夏の夜の夢』で初めて舞台に立つ。その後、芝居はもちろん洋画の吹替えやアニメ、ナレーション等でも活躍中。ジョニー・デップ、ジョシュ・ハートネット、マット・デイモン、ジュード・ロウ、エドワード・ノートンなど数多くの映画俳優吹替えを手がけている。

【劇場版】『アリス・イン・ワンダーランド』、『パイレーツ・オブ・カリビアン シリーズ』、『ボーン アイデンティティ シリーズ』 他多数 【海外ドラマ】『ER緊急救命室』(ジョン・カーター)、『CSI:ニューヨーク』(ダニー・メッサー)、『フレンズ』『ジョーイ』(ジョーイ・トリビアーニ) 他多数 【アニメ】『ONE PIECE』(サンジ)、『魍魎の匣』(京極堂)、『怪談レストラン』(お化けギャルソン)、『リタとナントカ』(ナントカ)、『NARUTO~ナルト~』(不知火ゲンマ) 他多数

平田広明 OFFICIAL WEBSITE

劇団昴公式ホームページ

hirata安藤 瞳
(あんどう ひとみ)

1981年12月24日生まれ、神奈川県出身。青年座研究所卒業(31期)、2007年4月1日から劇団青年座に所属。2001年『さよならノーチラス号』で初めて舞台に立つ。 『アリス・イン・ワンダーランド』では主役の座を射止めた。

【劇場版】『アリス・イン・ワンダーランド』(アリス)、『エアベンダー』(ユエ姫) 他多数 【海外ドラマ】『ヒーロー』(チュ・ジェイン)、『華麗なる遺産』(ソヌ・ジョン)、『タルジャの春』(チャン・スジン)、『アグリー・ベティー4』(リリー) 他多数 【アニメ】『8月のシンフォニー』(梅沢 泉)

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