外国映画をこよなく愛し、数々の吹替えの制作現場に携わり、音声業界でも名うてのふきカエ愛好家である吉田プロデューサーと長谷川マネージャーとMr.ダークボ がぜひ観ていただきたい名作・秀作をご紹介!

※Amazonのページで紹介しているビデオテープ・DVD・ブルーレイ等のソフトは、日本語吹替え音声を収録していなかったり、このページで紹介しているものとは異なるバージョンの日本語吹替え音声を収録している場合もありますので、ご購入等の際はご注意ください。

この顔にピンときたら…

かつて「全ての映画は、とどのつまりはお宝の争奪戦である」と仰ったのは誰だったか忘れましたが、確か著名な映画作家だったはず。アクションやミステリーはもちろん、コメディもラブストーリーも広い意味では「欲しいモノをどう手に入れるか」になるわけで、そもそも“人が生きること”自体がそういうこと、とも言えますね。で、ほとんどの人はその「欲しいモノを手に入れる」ためにコツコツ努力して、でも半分ぐらいは手に入らなくてじっと手を見たりしているわけです。
となれば、映画を観る時ぐらいは浮世の苦労を忘れて「他人様がお宝を手に入れようとドタバタ奮闘する」のを眺めて楽しむのが吉。そんな密かな愉しみにオススメなのがこちら。


『チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密』

チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密

(日本語吹替え版のスタッフ・キャストはこちら)


イギリスでフランシスコ・ゴヤの名画の盗難事件が発生。英国諜報機関は、ちょびヒゲがトレードマークの美術商チャーリー・モルデカイに捜索を依頼する。チャーリーと大学時代に恋敵だったマートランド警部補も、嫌々ながらチャーリーの知識と情報網を頼ることに。チャーリーは用心棒のジャックを連れて絵画を探しに出るが、盗まれた名画には世界を揺るがす財宝の秘密が隠されていた。やがて事態は大富豪やマフィア、国際テロ組織までをも巻き込んだ争奪戦に発展していく…


ジョニー・デップと言えば今や大スターですが、往時を知る者としては彼を「ハリウッド・スター」と呼ぶことに、実は今でもちょっと違和感があるのです。
下積み時代の『エルム街の悪夢』や『プラトーン』での端役はともかくとして、『シザーハンズ』で主役を張るようになってから以降も、出演する映画と言えば『アリゾナ・ドリーム』とか『デッドマン』とか『ラスベガスをやっつけろ』とかどう見てもハリウッドの映画の王道ではない、言っちゃえばちょっとアレな作品ばかり。もちろん興行的にも大当たりはしていません。
その彼が突然『パイレーツ・オブ・カリビアン』に主演すると聞いて「おいおい何じゃそりゃ」と思う間もなく作品は大ヒット、次々と続編が作られてデップはあっという間にビッグネームに。トム・クルーズやプラッド・ピットと並ぶマネーメイキング・スターになってしまったのです。へぇへぇへぇ。

ネイティヴ・アメリカンの血を引くデップのちょっとエキゾチックな顔立ちは決して正統派二枚目というわけではなく、それでもこれだけの「客を呼べるスター」になったのは、ひとつにはその稀有な「コスプレ力」にあると思われます。
『パイレーツ~』はもちろんのこと、『シザーハンズ』に始まる盟友ティム・バートンの監督作品でも『チャーリーとチョコレート工場』から『アリス・イン・ワンダーランド』『ダーク・シャドウ』に至るまで、とにかくコスプレのオンパレード。それらの素っ頓狂なコスチュームを見事に着こなし、見たこともないキャラクターを作り出してしまう造形力こそ、デップの最大の魅力でしょう。

そんなデップが今回の『チャーリー・モルデカイ』では、その得意技を敢えて封印し、ちょびヒゲを生やしただけのほぼスッピンで主役を演じます。扮するは美術商にして稀代の名画鑑定家、チャーリー・モルデカイ。英国情報部からの依頼のもと、美人妻(グウィネス・パルトロウ!)と屈強な用心棒を従えて、消えた名画の行方を追うことに。そこへ国際的テロ組織、謎の大富豪、ロシアン・マフィアまでもが乱入して、騙し合いと奪い合いの大乱戦が展開します。

監督はデヴィッド・コープ。脚本家としてのフィルモグラフィが『ジュラシック・パーク』『ミッション・インポッシブル』『スパイダーマン』…と聞けば如何にも超大作専門の大味な作家というイメージですが、さにあらず。監督としては、ジョゼフ・ゴードン=レヴィットがマンハッタンを自転車で疾走する『プレミアム・ラッシュ』のような佳作を手掛けるという意外な一面も。今回の『チャーリー・モルデカイ』でも、そのタイトでスリリングな演出力をいかんなく発揮しています。

そして日本語吹替え版にはジョニー・デップ=平田広明、グウィネス・パルトロウ=岡寛恵、ユアン・マクレガー=森川智之といった鉄板キャストが勢揃い。今回のジョニデのキャラである「飄々とチャラいおっさん」を演じたら、平田さんの右に出る者はいません。
ちなみに重要人物である老貴族を演じた大木民夫さんは、昭和ひとケタ(それも前半)生まれにして現役バリバリの大先輩。本作では第二次大戦中のナチス・ドイツによる美術品略奪が鍵となるのですが、収録合間の休憩中に「戦争中にナチスの高官が来日してね。ボクは学徒動員で、歓迎の日の丸の旗を振りに行きましたよ」なんて歴史のひとコマをさらっと仰って、周りの我々がははーっとひれ伏すという一幕もありました。さすが戦中派。

謎ときのミステリーと華麗なアクション、舞台となるヨーロッパ各地のロケーションも楽しめて、全体としては抱腹絶倒のコメディ仕立てという何とも贅沢な一品。洋画を観る楽しさをこれ一本に詰め込んだような『チャーリー・モルデカイ』、ぜひ御堪能下さい。


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[画像はAmazon.co.jpより]


すっぴんデップの傑作と言えばこちらもおすすめ。


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〈007連続放送〉やってます!

前回のコラムの最後にもったいぶって予告した“大型企画”とは、「シネマクラッシュ金曜名画座」でこの1月からスタートした〈007連続放送〉のことでした。
いつかやってみたかったこの企画、第1作『ドクター・ノオ(007は殺しの番号)』から順番に、毎月2~3本ペースで放送していきます。折しもBSジャパンでは(ふきカエではありませんが)「土曜は寅さん!」で、〈男はつらいよ〉シリーズを連続放送中。映画史上に輝く2大長寿シリーズが金曜・土曜の夜に並走するという、ものすごいことになっております。
007シリーズと言えば、ノーカット全編のふきカエが収録されたブルーレイ、TV版ふきカエの音声を集めて収録した労作DVDも発売中ですが、BSジャパンでは極力、往年のTV版ふきカエにHD映像を合わせる形で放送するつもりです。

007/ゴールドフィンガー(TV放送吹替初収録特別版) [DVD] 俺は初めて劇場で観た007が『私を愛したスパイ』という世代ですから、ロジャー・ムーアより前の初期作に出逢ったのは、すべて「水曜ロードショー」か「月曜ロードショー」なんですよ。今回の連続放送は、あの頃の洋画劇場スタイルにこだわります(解説は付きませんが)。おかげで『ゴールドフィンガー』(2/6放送)にはミス・マネペニーが登場しない(初回放送時にカットされたらしく)、といった悲しい現象もあったりしますが、そういうところも含めてお楽しみ頂きたく。


『アンタッチャブル』台本

3月までお送りしている〈ショーン・コネリー編〉のジェームズ・ボンドは、もちろん若山弦蔵さんです(ジョージ・レーゼンビーが1本割り込みますが。こちらは広川太一郎さん)。
若山さんがテレビでショーン・コネリーをアテられたのは、「木曜洋画劇場」が最後じゃないかな?
『アンタッチャブル』のエリオット・ネス(ケヴィン・コスナー)を津嘉山正種さんで新録しようと思い立ち、若山さんにとってはフジテレビ版に続いて二度目のジム・マローン役をお願いしたのが、俺の“生・若山コネリー”初体験でした。それならこれも、とお願いしたK・コスナー版『ロビン・フッド』新録でも、ピンポイント出演(これもフジ版に続いて二度目)を引き受けて下さり、次はまた全編出演を、と若山コネリーのために『エントラップメント』の放映権を押さえたところで、人事異動で番組を離れてしまいました。それでも「木曜洋画」チームは俺の“遺言”通り『エントラップメント』の新録を実現してくれて、これが今のところ、最後の若山コネリーではないかと。
ショーン・コネリー本人は引退を宣言していて新作がありませんが、ラジオ等でも現役バリバリの若山さんには、また何らかの企画でコネリー役を聴かせて頂きたいものです。


アンタッチャブル スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray] …と書きながら記憶が蘇った『アンタッチャブル』の現場には、忘れられない声がもう2人おられました。
1人は、007の『死ぬのは奴らだ』『黄金銃を持つ男』にも登場したクリフトン・ジェームズを再びアテて頂いた滝口順平さん(もうあの顔には他の声は考えられなくて)。そしてもう1人は、マローンと殴り合いを演じる警察署長役の、大塚周夫さんです。
前回のコラムでは、昨年末に亡くなった方々を悼みましたが、新年早々の大塚周夫さんの訃報には茫然自失…。大塚さんは、たかだか100本程度のふきカエ制作歴で、光栄にも頻繁にお仕事の機会を頂いた大御所の1人でした。以前このコラムでも紹介した『ブレイド』シリーズでの父子共演や、わが“卒業制作”だった『ウォルター少年と、夏の休日』(こちらを参照)など、思い出がいっぱい。この正月に、大塚さんがジョン・ハートを怪演された木曜洋画版『コンタクト』がテレビ東京で再放送されて、狂喜乱舞した直後の悲報でした。


今年もこういう話題が続くのかな…。
思えば今回は、テレビ業界で言うところの「M3」になって最初の更新です。
やんちゃな日々の記憶も薄れはじめ、(池田勝さんの声で)「年寄りにはキツいぜ」とボヤきながら書いているこのコラム、いつまで続けられるかわかりませんが、2015年もよろしく。
(湿っぽくなってすみません)

[作品画像はAmazon.co.jpより]


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